<コラム>韓国映画「パラサイト」

木口 政樹    2020年2月20日(木) 13時20分

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韓国語のタイトルは「寄生虫」。韓国で2019年5月30日に公開され観客動員数は1000万人を突破している。今現在もまだ上映中だ。日本では「パラサイト 半地下の家族」として公開された。

韓国語のタイトルは「寄生虫」(キセンチュン)。韓国で2019年5月30日に公開され観客動員数は1000万人を突破している。今現在もまだ上映中だ。日本では「パラサイト 半地下の家族」として公開された。日本では2020年の1月10日ごろに公開されてるからまだ1か月余りだ。筆者はそれほど映画を見ないほうだけれど、去年の夏頃、妻といっしょに映画館に行って見た。面白かったけど、この映画が全世界にこれほどまでの旋風を巻き起こすとはそのときは思ってもいなかった。

ご存じのとおり第72回カンヌ国際映画祭では韓国映画初となるパルム・ドールを受賞。さらに世界最大の権威、第92回アカデミー賞では作品賞を含む6部門にノミネートされ、作品賞、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞の最多4部門を席巻した。非英語作品(Foreign-Language Film)の作品賞受賞は史上初めてのことというから、すごい快挙なのだ。またアカデミー作品賞とカンヌの最高賞を同時に受賞した作品は「マーティ」(1955年)以来、65年ぶりとなるという。

世界中からいろいろな評価がなされている。トータル的には「タイムリーな社会的テーマを多層的かつ見事に描いていてしかも、ポン・ジュノ監督の作家性が強く刻印されている」といったところで、「緊張感と驚き、そして、富裕層と貧困層の階級に対する怒りが込められているという点で、ジョーダン・ピールの『アス』と通じるところがある」といった評や、「この作品が一つのジャンルに収まることを望むかもしれないが、ジャンルは絶えず変わり続ける。まるで、本物の寄生虫が寄生相手を絶えず変えるように。見終わった後も魅惑的なラスト・イメージが頭から離れない支配的な傑作になっている。」との評も(ウィキ)。

ポン・ジュノ監督は、1969年生まれの50歳。これまでの作品には、「殺人の追憶」(2003)、「グエムル-漢江の怪物-」(2006)、「母なる証明」(2009)、「スノーピアサー」(2013)、「オクジャ」(2017)などがあり、今回の「パラサイト」は2019年発表の作品。「パラサイト」もそうだけど、彼の作品は社会問題、時事問題からヒントを得て作品として昇華しているケースが多いようだ。

日本語のタイトルにもなっている「半地下」。こういうスタイルの家は日本にはたぶんないかと思う。少なくとも筆者が日本にいる間は見たことがなかった。韓国ではこの半地下というのは、けっこうどこにでも見られるスタイルで一般の人はなんとも思わないわけだが、筆者が初めてその存在を知ったときにはさすがに小さかったけれど、いくばくかの衝撃を受けたことを思い出す。道路にそって半地下の窓がとられていることが多いので、歩いていても「あ、ここ、半地下の家だ」とすぐにわかる。見た瞬間感じたのは、こんなところに窓があったら、道路に浮遊しているホコリやごみなどが部屋の中にどっと入っていくんじゃないのかということだった。実際それは正しくて窓を開けっぱなしにしておけば砂ぼこり、綿ホコリとありとあらゆるホコリが入ってくるそうだ。だから普通は窓を閉めきっておくことになる。そしてはじめは気づかなかったことが、部屋に生じる湿気。地下を掘って部屋を設けることになるので、太陽の光を浴びることがない。ために常に湿気が多い。体には当然よくない。家賃が安いから半地下に住むわけで、経済的問題がなければ普通はそういったところに住むことはない。映画の主人公が半地下に住んでいるのも、貧困層の象徴として描かれているわけだ。

韓国メディアのインタビューを受けて、新海誠監督が「こんなに面白い映画は初めてだ」と答えていたのが印象的だった。また「半沢直樹」に出演した香川照之が、ポン・ジュノ監督のあだ名を知っているかという問いに対して、「知ってるよ、もちろん。ポン・テイルっていうんだよ」と答えていたのも面白かった。ポン・テイルというのは、「ポン・ジュノ+ディテール」ということで、ポン・ジュノ監督の映画作りのそのディテールを大切にするスタイルを評してこういったあだ名がついたのであるが、こんなあだ名まで知っているとはいくら同じ映画畑同志だからといっても香川照之、ただものではないなと思った次第だ。ポン・ジュノ監督自身はこのあだ名をそんなに好んではいないということであるけれど。自分は穴も多いしポカもよくやる。そんなディテールだなんて、というわけだ。謙遜して「好きじゃない」って言ってるんだと思う。

アカデミー賞発表のとき、筆者が一番印象的だったのは、「最も個人的なことが最も創造的なことだ」ということばを胸に抱いて映画の道を歩んできたけれど、そのことばを語った方が目の前にいらっしゃるマーティン・スコセッシ監督です、といってスコセッシ監督を紹介した場面。最大の賛辞を込めてスコセッシ監督を紹介するその謙虚さと純真さだった。会場全体がスコセッシ監督に対して起立拍手となった。コッポラとかスピルバーグなどは知ってるけど、スコセッシは寡聞にして筆者は知らなかった。調べてみるとアカデミー賞監督賞・作品賞などを取ったこともある非常に有名な人だった。経歴もすごいけど、「最も個人的なことが最もクリエーティブなことだ」というこんなことばを残すとは、やはり一流の作家なのだろう。非常に含蓄に富み、クリエーティブなことに関心をもつすべての人に力を与えてくれることばではある。

韓国では、アカデミー賞の受賞をうけて最近また「パラサイト」を見に映画館に足を運ぶ人が増えている。ちなみに中国では、2019年7月28日に中国青海省の省都・西寧市で開催された「西寧ファースト青年映画祭」の閉幕式で上映される予定だったが、前日の7月27日午後に突如「技術的な理由」により上映中止となった。本作の内容が中国当局の検閲で問題視された可能性が高いと見られている。また北朝鮮は、南朝鮮はこの映画のように貧富の差が激しくて住みにくい世の中みたいだけど、こちら北朝鮮は共産国家だからそんなことは全然なくみんな平等で貧富の差もなくすべての人が同等の生活をしているよ、というコメントを発表している。北朝鮮一流の自分を棚に上げたおちょくりである。世界のだれもが鼻で笑うようなことをこともなげに言う。その図々しさには頭が下がる思いだ。

■筆者プロフィール:木口 政樹

イザベラ・バードが理想郷と呼んだ山形県・米沢市出身。1988年渡韓し慶州の女性と結婚。元三星(サムスン)人力開発院日本語科教授、元白石大学校教授。趣味はサッカーボールのリフティング、クラシックギター、山歩きなど。著書に『おしょうしな韓国』、『アンニョンお隣さん』など。まぐまぐ大賞2016でコラム部門4位に選ばれた。

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