「日本はそれほど悪くないですよ」=歴史の先生がそう言った理由―中国人学生

日本僑報社    2020年2月23日(日) 22時20分

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杭州師範大学の銭易さんはある歴史教師との出会いをきっかけに日本語学習の道へ進むことを決意したという。

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日本と中国の過去の歴史をめぐる問題は根深い。日本に批判的な教師も少なくない中、杭州師範大学の銭易さんはある歴史教師との出会いをきっかけに日本語学習の道へ進むことを決意したという。以下は、銭さんの作文。

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私の高校の担任は歴史の先生です。中国の歴史の教科書といえば日本のことからは離れられません。それまでの歴史の先生は、中日関係に非常に敏感な人が多かったです。

中学校のとき、歴史の授業で日本をののしった、日本が大嫌いな先生に会ったこともありました。だから私は日本に対してずっと言いがたい恐怖を持っており、日本とあまり関わらないほうがいいと思っていました。しかし、高校のとき、担任の胡先生に出会った私は、その考え方を変えました。

優しい胡先生は、学生と非常に仲が良く、冗談を言い合うことも多い人でした。日中の歴史についていつも話してくれて、教科書に載っている日本の新聞のイラストについてまで細かく説明してくれました。教科書の内容だけではなく、時々日本の現状や最近の面白いことについても教えてくれました。先生に習った2年間は、桜、千本鳥居、富士山など、日本文化の知識がゆっくりと私たちの日常に溶け込んできたのです。それまでの私が知らなかった日本、それは穏やかで美しい国でした。

その頃、一大事がありました。2015年に日本の安倍晋三首相が戦後70周年の談話を発表し、「平和憲法」を改めようとしていると聞いたのです。私たちは、腹が立ち、この国には救いがないような気がしました。そして、胡先生の授業で、そのことについて討論することを期待していました。しかし、胡先生はただいつものように、日本の近況を語っただけでした。先生がなぜその話題に触れないのか、私たちはその理由を知りたくて、直接先生に聞きました。でも先生は、「あなたたちが見ている日本は、ただほんの一部にすぎませんよ。日本はそれほど悪くないですよ」と笑顔で言っただけでした。当時、その言葉の意味はわかりませんでしたが、そのすべてを見抜くような笑顔は今でも覚えています。

冬休みが終わると、高校の最後の学期を迎えました。でも新学期が始まっても、胡先生は学校に戻ってきませんでした。副担任の先生は胡先生のお父さんが亡くなり、お父さんの葬式を行うために日本へ行っていて、2週間後に帰ってくると言いました。私たちは少しショックを受けました。それは胡先生のお父さんが日本にいたことを意味していたからです。

副担任の先生はまた説明を始めました。胡先生のおじいさんは日中戦争の時に中国へ来た日本人で、中国の女性と結婚し、終戦後、家族を連れて日本に帰りました。胡先生は中国で残っている唯一の孫娘だそうです。その時、なぜ胡先生が日本のことをあんなに詳しく知っていたのかがようやくわかりました。

なぜ一人で中国に留まり、歴史の先生になったのでしょうか。それは、先生の体には大和民族の血が流れており、ほんの少しの力でも、中国と日本の間にある必要のない誤解を解消したかったからだそうです。これは胡先生が帰って来た後で私たちに教えてくれたことでした。

先生は戻ってくると、お菓子をお土産としてみんなにくれました。それは甘いキャンディでしたが、なんだか苦い味がしました。日本で葬式に出たのに、私たちにお土産を買ってくることも忘れない先生に対して、言葉には表せない複雑な気持ちが生まれました。

しばらくして、大学入試が終わった後、日本語専攻を選ぼうと考えました。自分でも少しびっくりしましたが、知らず知らずのうちに、胡先生に影響され、私の考え方も変えられていたようでした。胡先生に「日本はそれほど悪くないですよ」と言わせた日本を見てみたいと思ったからかもしれません。もし胡先生に会っていなかったなら、私は日本に対する印象を変えることはなかったでしょう。今、日本語を勉強していることもありません。

今の私は、もっと日本のことを勉強して、「日本はそれほど悪くない」理由を探しているところです。(提供/日本僑報社・編集/北田

※本文は、第十四回中国人の日本語作文コンクール受賞作品集「中国の若者が見つけた日本の新しい魅力」(段躍中編、日本僑報社、2018年)より、銭易さん(杭州師範大学)の作品「心に残る、先生のあの言葉」を編集したものです。文中の表現は基本的に原文のまま記載しています。なお、作文は日本僑報社の許可を得て掲載しています。

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中国人の日本語作文コンクール受賞作品集はコチラ
http://duan.jp/item/267.html

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