<コラム>韓国のKTXの改札には人もマシンもない

木口 政樹    2020年7月22日(水) 20時20分

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韓国では、KTXだけでなく全ての汽車の駅の改札は無人である。無人だけなら日本にもあるだろうが、KTXに乗っても切符を調べる人が誰もいないのだ。写真はKTX。

韓国は今、ソウル市長であった故朴元淳(パク・ウォンスン)氏の話題で持ち切りだ。人権派弁護士として活躍した後、ソウル市長(35代、36代、37代)として9年ほどやってきていた。7月9日に死亡し、10日に発見された。40代の元女性秘書が7月8日、警察に強制わいせつ、威力強制わいせつなどの容疑で告訴したことがきっかけで自殺したものとされている。

故人のことをあれこれ言うのは礼を失すると思うので、このコラムにはあまり書きたくないが、これだけは書かざるを得ない。セクハラの犯罪性が日本よりも数倍、数十倍重い認識になっている韓国。1990年代からその傾向は強くなってきていた。その端緒を作った一人がこの故朴元淳氏である。女性の人権の守護者として名声を高めてソウル市長になり、次期大統領候補の一人と目されていた矢先だった。

セクハラは悪だと公の前では唱え、自分はその悪のセクハラをやっていた。人間は誰だって矛盾の塊といえるけど、この矛盾はかなりシビアだ。適当に女遊びとかふしだらな生活をやってきた人ならわかるが、道徳の先生のようにやってきた人が裏ではこうだったのだから、言葉もない。

本来なら、死をもってすべての捜査が終わるのが原則だが、今回の事件ではそうならないで、今後もその実態を徹底調査するということだ。韓国らしいやり方だと思う。というのも、被害に遭った女性を脅迫するようなSNSなどがネットを荒らしており、朴市長をおとしめるために告訴したんじゃないのかとか、なんで4年も被害に遭いながら今になって訴えたりしたんだとか、それはひどい嫌がらせがネットに出回っている。女性の弁護士たちが彼女を保護し、かくまっているみたいだ。女性の告訴が妥当なものだったのだと証明するためにもさらなる調査が必要だというわけだ。

さて今回は、この話題ではなく、クールコリアだ。韓国では、KTXだけでなく全ての汽車の駅の改札は無人である。無人だけなら日本にもあるだろうが、KTXに乗っても切符を調べる人が誰もいないのだ。これじゃ皆ただ乗りするんじゃないのと思われるかもしれないが、ただ乗りがバレると料金の30倍だったか40倍だったか(忘れた)を払うことになるため、無賃乗車する客はほとんどいない。ほとんどはネットで予約して乗っている。ときおり予約しないであたふたとKTXに乗り込む人もあるが、たぶんその人は乗り込んだ後わざわざKTXの中で車掌を捕まえて切符を買うものと思う。これには韓国KTXの果敢な戦略があった。ネットでの予約が活性化しつつあるころ、110年続いてきた改札での切符切りをやめたのである。予約さえすれば(予約しなくても現場で切符を買っても勿論OKだ)、改札でのチェックがないから客としては改札に並ぶ必要もなく、すぐ通過できて楽だ。

楽だからもっと利用したいと思う。さらにバンバン乗る。駅側としては、切符切りの費用も減るからその分、別のところに配分できる。無賃乗車があっても客足の伸びのほうがはるかに大きいからKTXとしては損する計算にはならない。こういった思惑がヒットし、今やKTXだけではなく前述のように一般の汽車も予約だけで改札チェックも乗ってからのチェックもない。すごい時代になったものだ。

筆者が初めてKTXに乗ったときには、これはちょっと面食らった。「え?切符も切らないし、乗っても調べにもこないの?」と。ソウルから釜山に行くとき寝ないで見ていたら、1回くらいは車掌が全車両を歩いていたようだった。これで予約のない席に人が座っていたら「ちょっと」と声をかける仕組みになっているのかもしれない。コンピュータ画面かなんかで「予約なし席」はすぐにわかるようになっているはずだから。でも筆者が乗っている間、誰もひっかかった人はいなかった。それだけきちんと切符を買って乗っているのだろうと思う。

あるとき日本のJRからソウル駅に連絡が入り、ぜひ一度見学したいという。本当に改札に誰もいないのかと。見学した後(機械もなく誰もいないのを確認)、日本からの訪問団がソウル駅にこれだけはお願いといって頼み込んだ内容があるのだが、それは「日本のほうには改札口に機械もないし誰も人がいないことは言わないでいてほしい」というものだったという。

あとでわかったことだが、訪問団というのは、JRに改札口のマシンを納入している会社の代表団だったとのこと。最近新幹線の改札口のマシン改良にともない多額の金(ロビー)をばらまいていたのだという。

コロナが始まって間もなくのころ、筆者の住むアパート(日本式にはマンション)の1階に消毒液がその容器ごと置かれていた。外から帰ってきてエレベータに乗る前に誰でも自由にシュッシュと消毒する。たぶんアパートの積立金から消毒液代(といってもわずかなものだが)が出ているはずだ。おもしろいのは、この話をブログに書いたら、わがブロ友の一人が「え??それ、誰かが持って行ったりしないの?なくならないでずっとあるの?」と不思議がっていたこと。日本だったら誰かもっていくんじゃないのかな、ともあった。

3・11であの秩序を見せていた日本だ。誰かがそんなものを持っていくとも思えないけど、一部には心配する声もあるというのは事実のようだ。だんだん日本が変わってきているのかもしれない。

中国にGDPで抜かれたあたり(2010年、2011年ごろ)から日本人が自信をなくしていると感じるという筆者の韓国の友達がいる。彼は韓国人だが、商社勤めのため日本に駐在もしたし日本通と言っていい。その彼の言葉だけに、説得力がある。

それでもノーベル賞は依然として日本人が取っている流れがある。韓国人が一番避けたがる話題だ。特に知識人がそうだ。ノーベル賞の発表があったら、エレベーターで会ったら「ノーベル賞受賞、おめでとう」とかの一言ぐらい言えそうなものだが、50人と会ってそんなことを言う韓国の教授は一人いるかいないかだった。

けど、ノーベル賞が取れなくなった時、日本は「気がついたらみんなに置いてきぼりにされていた」と地団太を踏むことになるようで、切ない。かといって特別の対策があるわけでもない。今までやってきたようにやっていくしかないと思うのだが、日本には、いつまでも物理学、化学、医学などの自然科学の賞を取り続けてもらいたいものだ。地力があるから、日本はそう簡単に「沈む太陽」にはならないような気がするのだが…。

■筆者プロフィール:木口 政樹

イザベラ・バードが理想郷と呼んだ山形県・米沢市出身。1988年渡韓し慶州の女性と結婚。元三星(サムスン)人力開発院日本語科教授、元白石大学校教授。趣味はサッカーボールのリフティング、クラシックギター、山歩きなど。著書に『おしょうしな韓国』、『アンニョンお隣さん』など。まぐまぐ大賞2016でコラム部門4位に選ばれた。

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