Record China 2013年11月2日(土) 7時0分
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28日に天安門の金水橋欄干に衝突した車炎上事件に関して、中国当局はウィグル独立運動の組織的なテロ事件と判断した。ウイグル地域では「中国政府はウィグル族のせいにして、それを弾圧強化の口実にしようとしている」と不満も大きい。写真は厳戒の天安門広場。
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2013年10月28日に天安門の金水橋欄干に衝突した車暴走炎上事件に関して、中国当局はウィグル独立運動の組織的なテロ事件と断定し、ウィグル族ら8人(内3人死亡、生存者5人)を逮捕した。
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この動きをいち早く報道したウィグル・オンラインは、「中国政府はいつもこうしてウィグル族やチベット族のせいにして、それを弾圧強化の口実にしようとしている」と抵抗している。
しかし中国政府は、「テロ事件」という見解を崩さないだろう。すでにウイグル独立派組織「東トルキスタン・イスラム運動」の指示があったと、名指ししている。
そこで本稿ではその視点に立った時の、習近平政権が受ける打撃と事件の背景を分析することとする。
◆チャイナ・セブンに少数民族自治区統治経験者はいない
まず、この時期を選んだのは、言うまでもなく11月9日から三中全会(中国共産党第三次中央委員会全体会議)があるからだ。この時期には海外の記者も北京に集まる。ウィグル族がどれほど中国政府に虐げられ、どれほど大きな不満を持っているかを全世界にアピールするには絶好の時期だ。特に天安門に衝突するという手段を選んだのは絶大な効果をもたらす。
中国には漢民族(全人口の92%)以外に55の少数民族があるが、中でもチベット族とウィグル族に関しては独立傾向が強く、中国政府は特に警戒してきた。
ところが2012年11月の第18回党大会直後の一中全会で選ばれたチャイナ・セブン(中共中央政治局常務委員会委員7名)は全員、少数民族自治区を統治した経験を持っていない。わずかに党内序列ナンバー5の劉雲山が内モンゴル自治区に長くいたが、しかし92年から93年の1年間、副書記になっただけなので力は持っていない。劉雲山は中宣部にいて中国共産党の思想宣伝に人生のほとんどを注いできた宣伝マン。
2009年のウィグル暴動のときには胡錦濤国家主席が国際会議出席のため不在だったので、鎮圧の実働を周永康と孟建柱に指示。但し国家主席不在時の業務代行は国家副主席が執行することになっているので習近平国家副主席がその任に当たったことはある。だからと言って少数民族地区の統治を心得ているわけではない。
新疆ウィグル自治区の(中国共産党委員会の)書記である張春賢は2010年にウィグル自治区書記に任命されるまでは、湖南省の書記や交通部部長(大臣)をやったことはあるが、それまでは基本的に機械工程や経済界にいた人間だ。
したがって習近平政権は独立志向のあるイスラム教徒の多い新疆ウィグル自治区に関して、「取り締り」という意味では、やや手薄なのである。というか、経験がない。
◆警戒し過ぎた貧困層の爆発
これまでのコラムでも述べてきたように習近平政権1年目の試練は、何と言っても薄熙来裁判だった。2012年11月15日に中共中央総書記になった習近平が最初に手を着けたのは「大衆路線」だ。明けても暮れても「毛沢東路線回帰」のごとき大衆路線を叫び続け、劉雲山はその中心となって思想統制に全力を投入してきた。ともかく貧困層の不満が爆発するのを警戒し、中共中央紀律検査委員会の書記、王岐山もまた腐敗撲滅に没頭した。
その間、たしかにチャイナ・セブンは新疆ウィグル自治区の治安に関して緊急指令を出したり(6月28日)、大量の武装警察を配備することには腐心している。しかし、よもや権力中枢の象徴のような天安門に自爆テロ車が突っ込んでくるとは思わなかっただろう。そこには明らかな習近平政権の少数民族統治に対する「ぬかり」とアキレス腱がある。
そして筆者には、それだけではない全く別の光景が見えるのだ。
◆「新シルクロード経済ベルト」の拠点はウィグル自治区
それは習近平が秘かに目玉としている「新シルクロード経済ベルト」構想である。
この構想を実現すべく、習近平は今年9月3日から13日にかけて、自ら中央アジア諸国を歴訪した。ロシアのサンクトペテルブルグで開催されたG20首脳会談参加を含めながら、トルクメニスタン、カザフスタン、キルギスタン、タジキスタンなどを歴訪し、「新シルクロード経済ベルト」構想を軸として関係国首脳と合意に漕ぎ着けている。
主たる内容は天然ガスや石油のパイプラインなどを中心としたエネルギー源の確保で、これは2006年からすでに着手している。その主要拠点が新疆ウィグル自治区なのである。ここを通らない限り中央アジアからのエネルギー輸送はできない。
漢民族のウィグル自治区への入植は1954年から「新疆生産建設兵団」として始まっており、中国人民解放軍の徹底した管理の下に生産隊を送り込んだ。今ではウィグル自治区の40%強が漢民族になってしまい、独立を困難にしている。さらに漢民族の党幹部が利益集団となりウィグル族を搾取し、かつ彼らの尊厳である心の支柱、イスラム教をも迫害している。ウィグル族は精神的も経済的にも不当な扱いを受けている者が少なくない。
にもかかわらず中国政府は30億人が含まれているとする「新シルクロード経済ベルト」構想実現を、ウィグルを主要拠点として強行する構えだ。機械管理工程に強い張春賢を書記に配置したのも、そのためなのである。
折しも事件の翌日である10月29日には、カザフスタン、ウズベクスタン、アゼルバイジャンなどの駐中国大使が集まって「新シルクロード経済ベルト」フォーラムを北京で開催していた。時期的に三中全会もさることながら、実はこのフォーラムにこそ照準を当てて事件を起こしたはずだ。
G20首脳会談で習近平が突如ロシアの側に立ち、オバマ大統領のシリアへの軍事介入に強烈に反対したのも、この経済ベルト実現が理由だ。イスラム教徒の国で紛争が起きればウィグルに飛び火するのは自明だったからだ。
今後習近平政権はウィグルへの弾圧を強めるだろうが、そうすれば自爆テロも激化し、イスラム圏全体を敵に回す可能性もある。その中で「新シルクロード経済ベルト」の実現が可能なのか、そして何よりも政権の安定が保証されるのか。習近平政権への打撃は計り知れない。
(<遠藤誉が斬る>第6回)
遠藤誉(えんどう・ほまれ)
筑波大学名誉教授、東京福祉大学国際交流センター長。1941年に中国で生まれ、53年、日本帰国。著書に『ネット大国中国―言論をめぐる攻防』『チャイナ・ナイン―中国を動 かす9人の男たち』『チャイナ・ジャッジ毛沢東になれなかった男』『チャイナ・ギャップ―噛み合わない日中の歯車』、『●(上下を縦に重ねる)子(チャーズ)―中国建国の残火』『完全解読「中国外交戦略」の狙い』など多数。
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