<直言!日本と世界の未来>中韓からの訪日客激減、ウイリス終息後の回復に期待―立石信雄オムロン元会長

立石信雄    2020年3月22日(日) 8時10分

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訪日客需要は我が国の貴重な成長戦略だが、2月以降激減し、観光地だけでなく経済全体への打撃が、深刻さを増してきた。ウイリス終息後の急回復に期待したい。

訪日客需要は我が国の貴重な成長戦略だが、2月以降激減し、観光地だけでなく経済全体への打撃が、深刻さを増してきた。新型コロナウイリスの感染が拡大したためで、日本人が国内旅行を控える動きも追い打ちをかけているようだ。

日本政府観光局によると、2月の訪日客数は前年同月比58.3%減の108万5100人と5カ月連続で前年同月を下回った。2014年9月以来5年5カ月ぶりの低水準で、減少幅は東日本大震災直後に記録した11年4月(62.5%減)に匹敵する。コロナウイリス感染は世界中で拡大しており、3月以降さらに減少する見通しというから深刻である。

このうち、中国人客は87.9%減の8万7200人に激減。10万人を割るのは13年12月以来約6年ぶりで、団体ツアー等の販売が禁止されたことも大きく響いた。日韓関係悪化の影響で昨年後半から急減していた韓国も79.9%減の14万3900人と落ち込んだ。

訪日客の約6割を占めていた日韓両国と日本の間を往復する航空便や船便の運休が相次いでいる。入国制限も一段と強化されたため3月以降もさらに減少する見通しだ。

訪日を控える動きは中韓以外の国や地域にも広がり、台湾、香港も4割前後も落ち込んだ。感染が広がりつつある欧米諸国からの訪日客も2割程度減少、東南アジアや豪州からの訪日客も振るわなかった。

宿泊業界は、東京五輪や訪日客増を見込んで大量の新規開業があったところに、新型コロナウイルスの感染拡大による需要急減に襲われたという。私が育った京都でも外国人客が少なくなり名所旧跡の多くも例年の賑わいとは様変わりである。訪日客に頼ってきた低価格帯のビジネスホテルなどは特に大きな打撃を受ける恐れがあるようだ。

観光に関わる業種は宿泊業や飲食店だけでなく、航空などすそ野が広い。国土交通省によると、3月15~21日の国際線の便数は、新型コロナの感染が広がる前の1月20日時点の計画より66%減った。中韓だけでなく欧米やアジア、中東、豪州とを結ぶ便など世界各地の便が含まれる。国内航空会社の減収幅は2~4月に3千億円になると試算され、2008年のリーマン・ショック後の年間減収額に並ぶという。日本人が外出を控える動きも続いており、主要な旅行会社10社の日本人を含む3、4月の予約は前年同期より約7割も減ったという。

3月の訪日客の消費額は昨年に比べて約3千億円減るとの試算もある。欧州の大半の国からの入国制限が始まれば、影響はさらに大きくなるという。仮に日本への入国が緩和されても、観光客が戻るには時間がかかる。

訪日客が宿泊や飲食、土産物の購入、娯楽などにお金を使う「インバウンド消費」は、観光地を中心に地域経済を潤してきたが、今後も一段の落ち込みが避けられないようだ。日本総研によると、インバウンド消費は全体の約7割にあたる月3000億円程度の減少が見込まれるという。

政府は2020年に訪日客4000万人の目標を設定しているが、達成は絶望的。2019年に記録した3188 万人も困難視されている。訪日インバウンドはアベノミクスの有力な成長経済戦略だが、新型コロナウイリスに直撃された格好だ。

政府は旅行費用の補助など需要喚起策を検討しているという。感染拡大が終息した後の反転攻勢につなげる方針というが、官民が総力を挙げて取り組むべきだ。

茂木敏充外相、中国の王毅外相、韓国の康京和外相が3月20日にテレビ会議を開き、新型コロナウイルスへの対応を巡って協議したというニュースに注目したい。3人の外相は終息に向けた連携を確認し、早期に3カ国保健相会合を開催することで一致し、3カ国間でワクチンの開発状況に関する情報共有や医薬品の融通に向けて実務レベルで協議を進めるとも申し合わせたという。経済・観光担当相も含めたこの種の日中韓閣僚会議が定期的に開催されるよう切望したい。

<直言篇114>

■筆者プロフィール:立石信雄

1959年立石電機販売に入社。1965年立石電機(現オムロン株式会社)取締役。1995年代表取締役会長。2003年相談役。 日本経団連・国際労働委員長、海外事業活動関連協議会(CBCC)会長など歴任。「マネジメントのノーベル賞」といわれるSAM(Society for Advancement of Management)『The Taylor Key Award』受賞。同志社大名誉文化博士。中国・北京大、南開大、上海交通大、復旦大などの顧問教授や顧問を務めている。SAM(日本経営近代化協会)名誉会長。エッセイスト。

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