黄 文葦 2020年5月1日(金) 22時0分
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中国では、「人定勝天」という熟語がある。人の力は必ず自然に打ち勝つことができるという意味である。写真は武漢。
中国では、「人定勝天」という熟語がある。人の力は必ず自然に打ち勝つことができるという意味である。私が子供の頃から受けてきた教育だ。「人定勝天」は権力者のイデオロギーになっていた。実に、中国の伝統文化の中、人間と自然を調和することが強調される。中庸の思想は儒家文化の基本精神である。人間が天(自然)を拝み、自然と争うことはしない。古代の皇帝は自身のことを「天子」と呼ぶ。つまり、「天」に従う「子」である。しかし、半世紀前、毛沢東は「人定勝天」の理念をもって発令し、文化大革命中、全国の人々を熱狂させ、寺院や教会を壊し、神仏のたたりも自然も恐れなかった。自然を軽視した結果、人々は飢えに苦しむ。伝統文化が破壊され、全国が大混乱に陥る。
私は日本に来てから、人間と自然の関係について意識が変わった。特に3・11東日本大震災の後、自然に敬意を払う価値観を段々と形成してきた。2014年の春、私は福島第一原発の10キロ圏内と仙台若林区荒浜に行った。福島第一原発の周辺の誰もいない広い土地に、除染作業の後に残された黒い袋と見られるものが並べられた景色を今でも鮮明に記憶している。その際、津波で多大な被害を被った仙台荒浜海辺の小屋で、「震災前と震災後」というテーマの写真展があった。かつてにぎやかできれいな街並みを持っていた海岸が、津波で何もかも流された。2017年の夏、私は気仙沼へ行った。一番印象に残ったことは、街のいたるところに貼られている「海と生きる」のポスター。被災地の人々は海を恨んではいない。どんな時も自然を愛し、海と共に生きていこうという思いを感じた。その時、「人定勝天」はどれだけ自然に不敬で荒唐無稽(こうとうむけい)なものなのかと痛感した。私たちが自然という「天」に対し、勝つのではなく、「天」と仲良くして、共生の道を探そうと心得た。
2020年、世の中は新型コロナ不況になっている。ウイルスのせいで、人々は家に籠る生活を余儀なくされた。ウイルスのせいで、経済活動が滞っている。街の活気が失われた。この時期、時の流れが遅くなりそうである。それで、私たちが反省の時間を設けたらどうだろうか。人間がスピードと利益を追求するにつれて、住む環境を大きく変えて、自然を破壊してしまった。最近、世界的に有名な英国の霊長類学者、ジェーン・グドール博士は、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)は、人類が自然を無視し、動物を軽視したことに原因があると指摘した。その通りだと共鳴する。まさに、「なんでも食べる」貪欲さと野生動物の取引が、悪因悪果その言葉通り、ウイルス蔓延と世界の危機を引き起こしたではないか。
その上で、ウイルスに対しても、「人定勝天」のような傲慢はいけない。ニュースによると、新型コロナ拡大を受け、北海道弟子屈町のアイヌ民族の有志らが4月18日、病気の神が人間に近づかないよう祈りの儀式を行った。アイヌ民族の共生の精神に基づき、儀式は病気の神を退治することを目的にしなかった。儀式で「何とか鎮まりください。お互いに生きていきましょう」ということ。アイヌ民族の考え方は奥深いと感じた。人間は「病気の神様」、そして、ウイルスとともに生きる覚悟を決めたほうがいい。ウイルスはいつまでもなくならないだろう。人間にできることは、有害なウイルスをだんだん弱く無害化させ、ウイルスと共生するしかないだろう。
人間は自分の利益にならない人と物、気に入らない人と物を「敵」とみなす傾向がある。グローバル時代、ウイルスも賢くなって人々とともに国境を越えている。たいへんな時期こそ、国々の連携強化が必要である。互いに敵視する結果は、互いに元気を損ない、何の利益も生まれない。イデオロギーとしての「人定勝天」の特徴は、自然に対し傲慢、対外的にも強気を示し、ほかの国を敵視しがちである。いつも気になるところだが、中国政府のスポークスマンはしばしば強い姿勢で外国を批判・揶揄・抗議したりしている。その姿を見ると、いつも「人定勝天」を想起させる。責任ある大国は強気姿勢を取るばかりではなく、他国に対し、柔軟性を示すべきである。共生共存そして共栄の意識を持って、責任を負おう。
■筆者プロフィール:黄 文葦
在日中国人作家。日中の大学でマスコミを専攻し、両国のマスコミに従事。十数年間マスコミの現場を経験した後、2009年から留学生教育に携わる仕事に従事。2015年日本のある学校法人の理事に就任。現在、教育・社会・文化領域の課題を中心に、関連のコラムを執筆中。2000年の来日以降、中国語と日本語の言語で執筆すること及び両国の「真実」を相手国に伝えることを模索している。Facebookはこちら「黄文葦の日中楽話」の登録はこちらから
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