野心をみなぎらせ、戦い、そして敗れた「凄い女」たちの物語―福島香織『現代中国悪女列伝』

Record China    2013年11月28日(木) 0時30分

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中国語圏には政治ゴシップ本というジャンルがある。中国本土では発禁処分を受けていることが多いので、香港で出版されていることが多いのだが、中国本土観光客の人気のお土産になっている。

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中国語圏には政治ゴシップ本というジャンルがある。中国本土では発禁処分を受けていることが多いので、香港で出版されていることが多いのだが、中国本土観光客の人気のお土産になっている。どこまで本当か怪しい話も少なくないが、凄絶な権力闘争、汚れた手段を駆使しての出世、欲にまみれた人間関係、そして情欲と大変魅力的なエピソードが詰まっていることは間違いない。

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そうした中国政治ゴシップ本の魅力を詰め込んだのが福島香織の『現代中国悪女列伝』だ。

女の魅力を駆使し体を武器として、妻や愛人の立場を手に入れ、のしあがっていった女性10人のエピソードを収録している(郭美美、鳳姐という変わり種もセレクトされているが)。

「女の魅力を駆使し」といっても、誰か一人の権力者をたらしこんだだけなどという単純な話ではない。例えば谷開来(グー・カイライ)は薄熙来(ボー・シーライ)の妻となることで権力の後ろ盾を得るが、さらに谷に恋心を寄せる程毅君(チョン・イージュン)という台湾人の力を借りて、「米国に勝訴した弁護士」として名声を得る。そして彼女の蓄財を助ける外国人2人とも情を通じ、後に毒殺することになるニール・ヘイウッドとは英国で同棲状態にあった。薄熙来の右腕にして、最終的には薄と谷の失墜の引き金を引く王立軍(ワン・リージュン)重慶市副市長とも深い関係にあったという。

あるいは「女の魅力」以上に才気を見せる女性もいる。葉群(イエ・チュン)は統合失調症だった夫、林彪(リン・ビャオ)の代わりに実務を取り仕切り、夫を「毛沢東の後継者」の位置にまで押し上げた。実質的な女帝の地位を得るまであと一歩だったわけだ。本書に登場する「悪女」の中で唯一、美女ではない丁書苗(ディン・シューミャオ)だが、その細やかな気遣いで信頼を得て、そして商売の才覚も発揮し、大富豪の地位にまでのし上がっている。

持てる武器すべてを駆使し、野心を実現させようと戦い、そして敗れ去っていく女たち。著者は単なるゴシップとして彼女たちを描いていない。行間からにじみでるのは、この凄い女たちへの共感だ。私も彼女たちの戦いに爽快感と切なさを感じさせられた。

物語としての読み方を外れるならば、本書は中国政界の空気感を知る上でも絶好の一冊ではないか。たびたび登場する「圏子」(サークル)という言葉、愛人の存在が失脚の原因ともなりかねないのに知り合いに愛人を見せびらかす権力者たちの社交、複数の権力者と寝ることでコネをとりまとめるハブのようになっている公共愛人の存在など、ゴシップからしか見えない姿が浮かび上がる。

▼筆者プロフィール:高口康太(たかぐち・こうた)

翻訳家、ライター。豊富な中国経験を活かし、海外の視点ではなく中国の論理を理解した上でその問題点を浮き上がらせることに定評がある。独自の切り口で中国と新興国を読むニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。

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