<直言!日本と世界の未来>新型コロナ禍、大恐慌以来の深刻度だが出口はある―立石信雄オムロン元会長

立石信雄    2020年4月12日(日) 6時30分

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新型コロナウイルスの感染拡大による世界と日本の景気落ち込みが深刻化。世界各国での外出制限措置などで需要が激減し、大恐慌以来のマイナス経済成長は必至だが、出口は必ずある。写真は東京・丸の内。

新型コロナウイルスの感染拡大による景気の落ち込みが、深刻化している。世界各国での外出制限措置などで需要が激減し、個人消費や企業の生産活動を直撃。緊急事態宣言が発動され、先行き予断を許さない状況が続く。私は大学卒業後すぐに黎明期の立石電機(現オムロン)に入社、内外で勤務し経営に携わり、財界団体の仕事もしたが、現今のような視界が効かない緊急事態は初めてである。

日銀は4月の地域経済報告で、全国の9地域すべての景気判断を下方修正した。全地域での引き下げはリーマン・ショック後の2009年1月以来、約11年ぶり。外出自粛の影響で個人消費の落ち込みが激しかったという。

この報告に盛り込まれた企業聞き取り調査を読むと各業界の苦境が伝わってくる。「職場の会食や家族客の外食が落ち込み、売り上げが前年比半減した」(飲食業)、「東日本大震災直後の減少を超える大幅な悪化」(小売業)など打撃は大きい。海外からの訪日客が急減した影響も甚大で、「訪日客のキャンセルが相次ぎ稼働率や客室単価が大幅に低下した」(宿泊業)、「上期の収入見込みは過去最低」(旅行業)―など。製造業も厳しく、供給網の寸断で幅広い業種で部品調達が困難になったほか、多くのメーカーで工場停止や生産調整に直面しているという。

米国や欧州、アジアなど世界全体も都市封鎖や経済活動の停滞などにより厳しい状態が続く。国際通貨基金(IMF)のゲオルギエバ専務理事は「新型コロナウイルスで、2020年の世界経済は大恐慌以来のマイナス成長幅になる」と警戒している。IMFは20年の世界経済見通しとして、1月時点では3%台のプラス成長を予測していたが、リーマン・ショックがあった09年に記録したマイナス成長(0.1%)を大幅に更新するという。ゲオルギエバ氏は「今年の1人当たり所得の伸びは、170カ国以上でマイナスになる」と指摘。短期の景気悪化にとどめるには、利下げや資金供給などで金融システムを維持することが欠かせないと強調した。

国際金融協会(IIF)は、20年の世界経済が1.5%のマイナス成長に陥ると分析。世界経済は大恐慌とされた1930年前後にマイナス成長が続いたが、ゲオルギエバ氏は短期的には当時に迫る収縮が避けられないとの認識を示したという。

一方で、同専務理事はG20を中心に「世界各国で8兆ドル(約870兆円)もの財政出動を予定している」と指摘。景気悪化が数年続いた大恐慌時とは異なり「各国の総合対策と経済の再開によって21年は部分的に持ち直す」と明るい展望を予想した。

GDP伸び率の急低下、失業率上昇に象徴される景気停滞は、いち早くコロナ危機を脱し経済回復モードに入った中国を除く多くの主要国では、5月以降も深刻化する見通しという。日本でもGDPの約2割が集中する東京都が最終的に実質的首都封鎖に陥る恐れも否定できない。3四半期連続でマイナス成長が持続することが予想され、本格的な後退局面に陥る可能性が高い。

世界貿易機関(WTO)は2020年に世界のモノの貿易量が、ほぼ全ての地域が2ケタ台の落ち込みとなり、特に北米とアジアからの輸出が打撃を受けるとの見方を示した。電子製品や自動車製品などサプライチェーン(供給連鎖)が複雑な部門はさらに深刻な落ち込みとなるほか、輸送や移動の制限がかかったことでサービス業が最も大きな打撃を受ける。

安倍政権は過去最大の緊急経済対策を閣議決定。GDPの約2 割に相当する約108兆円の事業規模を確保し、新型コロナウイルスの封じ込めと家計・企業の支援に取り組む。政府が実際に支出する財政支出でも39.5兆円と過去最大で、現金給付や資金繰り対策が柱となる。未曽有の経済的打撃を抑え、雇用を維持する目的で巨額の支出となった。

急速な感染拡大や医療の崩壊を防ぐには、外出の自粛や商業施設の休業などが避けられない。治療薬やワクチンの開発、検査・医療体制の強化が重要なのはもちろん、日々の生活に困る家計や経営状態が悪化する企業の救済も緊急の課題である。緊急経済対策は困窮する家計や企業の支援策が柱になる。

新型コロナとの戦いは長期戦となることも予想される。家計や企業の困窮が続く場合、追加支援もためらうべきではない。人類共通の敵、新型コロナウイルスに対し世界各国が協調すれば世界経済は21年以降に急回復するとの各種予測は勇気を与えてくれる。コロナ禍の終息後を見据えた抜本的な景気刺激策も必要になろう。長いトンネルの先には明るい出口が待っている!

<直言篇115>

■筆者プロフィール:立石信雄

1959年立石電機販売に入社。1965年立石電機(現オムロン株式会社)取締役。1995年代表取締役会長。2003年相談役。 日本経団連・国際労働委員長、海外事業活動関連協議会(CBCC)会長など歴任。「マネジメントのノーベル賞」といわれるSAM(Society for Advancement of Management)『The Taylor Key Award』受賞。同志社大名誉文化博士。中国・北京大、南開大、上海交通大、復旦大などの顧問教授や顧問を務めている。SAM(日本経営近代化協会)名誉会長。エッセイスト。

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