高野悠介 2020年4月24日(金) 23時0分
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新型肺炎の防疫体制は、貴重な危機管理ノウハウを蓄えた。写真は武漢。
かつて、中国に進出した日本企業は、行政手続の煩雑さに苦労させられた。一方2~3週間かかるとされた証明書が、有力者に口添えを依頼すると翌日発行され、「本当にコネ社会だったんだ」と感心した経験もある。とにかく、人間関係が優先する“人治”が基本だったのである。それが今では各地方政府は、AIを導入しスマートシティ建設を争っている。まったく隔世の感がある。その現場を見て行こう。
■テンセント
中国のIT巨頭は、デジタルチャイナ実現の先兵として、幅広い活動を行っている。例えばテンセントはゲームとWeChat(微信)だけの会社ではない。医療では「騰訊覓影」という医療映像で国家AIプロジェクトに入選(2017年)、医療情報プラットフォーム「騰訊医典」を運営している。
2月末、テンセントは、新型肺炎の防疫体制を指導する、鐘南山氏チームと提携で合意した。ビッグデータ、人工智能の連合実験室を設立し、共同で新型肺炎の制圧に当たる。2003年SARS制圧の指揮をとり、国民の尊敬を集める鐘氏からパートナーに選ばれたのだ。
その後4月上旬、テンセントは、湖北省と武漢市への投資強化を発表した。デジタル行政、スマート教育、スマート交通、AI、セキュリティで連携し、湖北省での雇用を4倍に増やすという。医療の経験と新型肺炎への貢献をバネに、武漢市ではスマートシティ推進に参画することができた。
テンセントは、2019年11月上海で開催された「世界数字(デジタル)生態大会」において、騰訊雲(クラウドコンピューティング子会社)が“WeCity未来城市”の成果をシェアしようと呼びかけた。席上、騰訊雲と上海大数居(ビッグデータ)有限公司との提携、上海市政府との共同出資企業の設立等が発表された。テンセントのAI、ビッグデータ、クラウドコンピューティング、IOT技術を、スマートシティ、スマート行政、ビッグデータセンターの建設に用い、上海のデジタル未来都市建設をサポートする。
■アリババ
ライバルのアリババも、着々とスマートシティプロジェクトを進めている。阿里雲(クラウドコンピューティング子会社)の“城市大脳”が国家AIプロジェクトに選定(2017年)されている。本拠地の杭州市から始まり、現在は、北京、上海、天津、重慶、武漢等、23都市へ広がった。杭州市では、公共交通、城市管理、文化旅行、衛生健康など11分野、48シーンをカバーしている。杭州市はデジタル経済の“第一城”つまり最先端を目指す。
4月中旬、その杭州市の城市大脳指揮センタ―が公開され、紹介記事が出た。2016年に建設が開始された立派な専用ビル内に、モニターに囲まれた未来的な司令部が鎮座している。1日約1億2000本の情報を処理するといい、今回の新型肺炎防疫体制でも活躍した。交通渋滞の解消、ホテルのチェックイン、アウト改革、病院の後払い、救急車の到着7分短縮等、不断の新しい変化を導いてきたのである。
■ファーウエイ等
2018年以降、ファーウエイ、バイドゥ、京東等も相次いでスマートシティプロジェクトに参入した。ファーウエイは2018年末、最初の“城市大脳”を本拠地・深圳に近い広東省・仏山で開始した。落札金額は9000万元(約13億7000万元)だった。
バイドゥ(百度)は本拠地・北京市海淀区西北旺鎮という統治機構末端の人民政府と提携した。ともに“智慧西北旺”の建設を目指す。
京東は、京東金融、京東物流などグループのデータを活用し、本拠地・北京中関村で新型都市形態「京東城市大脳」の運用を図る。また配車アプリ大手、滴滴出行も交通データ中心に、この争いへ加わっている。
■まとめ
新型肺炎の防疫体制は、貴重な危機管理ノウハウを蓄えた。競争のレベルはステージアップしたのだろう。上海市、武漢市では、アリババ、テンセントが競合している。巨大都市の政府は、当面こうしたスタンスではないか。
しかし、クラウドコンピューティングの属性から、城市大脳はやがて勝者の総取りになる可能性がある。そうなれば、やはりこの分野を創設者でもあるアリババが有利だ。地方政府のデジタル化サポートに、最も豊富な経験を有している。競争の構図としては、アリババ対その他であろう。
一方日本のIT界と地方自治体では、このような陣取り合戦など聞いたことがない。新型肺炎における中小企業支援では、手続きの煩雑さとスピード感のなさが、非難の的となっている。
今や非近代性、非効率を揶揄されるのは、日本の行政システムになった。大逆転である。
■筆者プロフィール:高野悠介
1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。
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