<直言!日本と世界の未来>新型コロナ禍、「出口」へ指標を=雇用改革も必要―立石信雄オムロン元会長

立石信雄    2020年5月10日(日) 5時40分

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新型コロナウイルスの感染対策を巡り、地方自治体による独自の施策や発信が活発化している。一部の府県は、自粛・休業要請の解除や行動制限の緩和に動きだした。写真は自粛延長で閑散の東京・銀座。

新型コロナウイルスを巡る緊急事態宣言が延長された。感染対策を巡り、地方自治体による独自の施策や発信が活発化している。一部の府県は、自粛・休業要請の解除や行動制限の緩和に動きだした。一方で13の特定警戒都道府県をはじめ先行きが依然見えず、人々は引き続き忍耐を強いられている。

こうした中、大阪府が独自の方針を打ち出した。(1)経路不明の新規感染者数が10人未満(2)PCR検査を受けた人の陽性率が7%未満(3)重症者用ベッドの使用率が6割未満――の3点を7日連続で満たせば、自粛要請を段階的に解除するという。状況が悪化し再度の自粛要請に転じる場合の指標も、併せて公表した。

 

具体的な数値で示すのはわかりやすく目標にもなる。「出口のないトンネルを走り続けろというのは無責任」という吉村洋文知事の発言に、共感する人は多いだろう。

 

政府は、地方の工夫や発想を柔軟に取り入れるべきである。感染状況や医療の提供体制などを「総合的に判断して」といったこれまでの抽象的な言い方を改め、基準の具体化に向けて動いてほしい。感染者の数や陽性率がどうなれば自粛要請を解除できる状況といえるのか、他に着目すべき指標にどんなものがあるかなどを丁寧に発信すれば、おおまかな目安をコロナ禍にあえぐ国民に「出口」への希望を伝えることはできるのではないか。

一方で、新型コロナウイルスの感染拡大は日本の雇用社会が抱える問題点を浮かび上がらせている。フリーランスなど独立して働く人は多いが、政府は、小学校の臨時休校などに伴い仕事を休んだ保護者に出す助成金の対象から、当初、個人事業主を外していた。自営業は雇用保険や労災保険も対象外になっている。「雇用されて働く」ことを前提とする行政の姿勢が休業補償にも反映された格好だ。結局個人事業主は日額4100円を受け取れることになったが、一般の人のほぼ半額にとどまる。

雇用される働き方でも、景気の急速な悪化で非正規雇用の脆弱さが露わになっている。契約社員らが雇用契約を更新されない「雇い止め」や、派遣社員が突然契約を打ち切られる「派遣切り」も相次いでいる。コロナ危機が長期化すれば、正規と非正規の二極化構造はさらに深刻化するだろう。

フリーランスや非正規社員が抱えるリスクは、やがて正社員にも及ぶ可能性がある。人工知能(AI)や定型業務を自動化するソフトウエアが普及し、ホワイトカラーの仕事の多くが代替され始めているという。正社員が個人事業主や契約社員に転じる動きも広がるとみられている。

デジタル化に雇用構造の変化を考慮に入れると、自営業や非正規で働く人のセーフティーネット(安全網)の整備はより重要になるだろう。はからずもコロナ危機で課題が顕在化したといえる。

現金給付は当座の対策にはなるが必要なのは持続性のある安全網づくりだと思う。今後、別の感染症や天災に見舞われた場合でも、危機が収束に向かい始めたときに雇用の確保や収入の安定化を後押しする仕組みが必要だ。フリーランスも含めた働き手の能力開発支援の充実と、人材が需要のある分野に柔軟に移っていける流動性の高い労働市場の整備である。

産業構造の変化とともにものづくり中心からIT(情報技術)関連や医療・看護・介護などの分野にシフトする必要があろう。リーマン危機後、非正規で雇用保険に加入していない人など失業手当をもらえない人が、生活費を受給しながら職業訓練を受けられる求職者支援制度が創設された。使い勝手がよく効果的な制度へ不断の見直しが求められる。

先行きの不確実性が増す中、企業は絶えず不採算事業の撤収などの構造改革を迫られるため、雇用を守りにくくなっている。官民を挙げた抜本的な雇用改革が欠かせない。

<直言篇118>

■筆者プロフィール:立石信雄

1959年立石電機販売に入社。1965年立石電機(現オムロン株式会社)取締役。1995年代表取締役会長。2003年相談役。 日本経団連・国際労働委員長、海外事業活動関連協議会(CBCC)会長など歴任。「マネジメントのノーベル賞」といわれるSAM(Society for Advancement of Management)『The Taylor Key Award』受賞。同志社大名誉文化博士。中国・北京大、南開大、上海交通大、復旦大などの顧問教授や顧問を務めている。SAM(日本経営近代化協会)名誉会長。エッセイスト。

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