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<コラム>「これって日本の食べ物?」中国で身近な食べ物に増える日本的要素

吉田陽介    2020年7月2日(木) 21時0分

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日本製ではないが、中国のメーカーが日本のものに似せて作っている、いわゆる“日本化”した中国製食品を以前に比べよく見かけるようになった。

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「日本と中国は一衣帯水の隣国」だとよく言われる。日中両国は政治上・経済上のつながりが強い。それは、政治レベルでの話ではなく、身近な生活の面でも言える。

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■グルーバル化が進んだ中国、日本製品がより身近に

現在はグローバル化が進んでおり、多くの中国人が海外旅行に行くことができるようになった。私の周りでも日本に行ったことのある中国人が多くなり、日本製品に詳しい人も多くなった。目薬や化粧品などは、私より詳しい人もざらにいる。

私は留学前に中国留学経験者にアドバイスを求めたことがある。彼はこう言った。

「ものをたくさん持ってくる人がいるけど、たいていのものは現地で調達した方がいい。ただ、日本の食べ物は高いから、持って行った方がいい。」

彼の言った通り、たいていの日用品は現地で買った方が安くついた(こだわりがあれば別だが)。ただ、日本のものは日本人が多く住んでいるところのスーパーなどで買うことができたが、割高だったので、今度帰国した時に食べようと言って我慢したものだ。

だから、帰国すると、日本のお菓子やインスタント食品などを「爆買い」するので、買い物はまさに仕事となる。もちろん、自分で食べるものもあるが、いつも授業のノートを貸してくれる中国人学生にお礼として贈るものも買った。2015年頃に中国人旅行者による日本製品の「爆買い」が話題になったが、中国人が大量の日本製品を買うのは滅多に行けないから、この機をとらえて買うという心理から来ている。中国生活が長い日本人は「日本人だって爆買いしますよ」と語る。私も帰国時は今も大量の日本製品を買うので、しっかり「爆買い」する人のカテゴリーに入っているのだが。

●これは日本のものか?中国製食品の“日本化”

だが、今は状況が変わってきている。中国人の生活水準が向上し、1万元(約15万円)稼いでいるというのは特に珍しいことではなくなった。それにともない、中国人の生活にも余裕ができ、商品やサービスに対する要求も高くなった。そのため、企業は特徴のないものを売ったら、たちまち客が離れていく。

そのためか、今は外国人が行かないようなスーパーでも日本の清酒や梅酒、ビール、お菓子などが並んでいるのをよく見かけるようになった。ビールについて言えば、昔は何かいいことがあった時に自分へのご褒美という感じで日本のビールを買っていたが、今は日本製を含む外国ビールが安くなっていることもあり、時折特売で半額くらいになることがあるので、手が出しやすくなっている。

ネットショッピングが発達している今日、日本製品を以前より簡単に買うことができるようになったので、本物の日本製品を楽しむ人も少なくない。それは食品についても同じことが言える。

その一方で、日本製ではないが、中国のメーカーが日本のものに似せて作っている、いわゆる“日本化”した中国製食品も以前に比べよく見かけるようになった。

中国に行ったことのある読者はご存知かもしれないが、中国料理に「日本豆腐」というものがある。どんなものかというと、日本の卵豆腐だ。中国人と食事をすると、よく「おい、お前の祖国の食べ物があるぞ」と言われた。「卵豆腐が日本の豆腐を代表しているのか」と心の中で突っ込んだが、料理に日本の名前をつけてくれるのは、日本人として嬉しいことだ。

私が目にした“日本化”された中国製の食べ物をいくつか挙げてみよう。

一つは、せんべいだ。中国語では「仙貝」と表記している。中国では「娃娃仙貝」という商品が有名で、中国の多くのスーパーに売っている。それは日本人の想像するせんべいではなく、長細くて塩がふってある。味は「ハッピーターン」に似ている。日本人が想像するようなせんべいは、「雪米餅」というと知り合いの中国人に聞いたが、それは日本の甘いせんべいに似ている。

二つは、どら焼きだ。2003年頃からスーパーで見かけた。中国でも「ドラえもん」が有名ということもあってか、どら焼きは馴染みが薄いものではない。肝心の味も日本のものに負けていない。あるパン屋でもどら焼きを売っているが、日本にはないチョコレート味やマンゴー味もある。

また、かなり「中国化」された感のあるものある。それは普通のスーパーで大きな袋に詰めて売っている一口サイズのどら焼きだ。味は悪くないが、日本にあったかどうかは定かではない。

三つは、わさびだ。これも前からスーパーで見かけたが、味が違う。中国のメーカーが作ったものは、あまり辛くなく、甘味があるものもあった。

だが、今はだいぶ変わっており、中には鼻にツーンとくるものもある。わさびの辛さと唐辛子の辛さは違うので、中国人には合わないのではと思っていたが、食べる人がかなり多い。刺身だけでなく、アボカドにつけて食べる人も少なくない。恐らくアボカドはマグロのトロのような味がするという話を中国人も知っているからだと思う。

スーパーでも、わさびと醤油をセットにしたアボカドを売っている。実際に買って食べてみたが、全く同じとは言わないまでも、言われてみればそれに似た味がする。わさびは例にもれず、かなりツンときた。

四つは、カステラだ。最近、「日本式カステラ」「長崎カステラ」と銘打ったカステラをスーパーのパン売り場でよく見かける。日本式カステラというと、お決まりのあの長細いものを想像するが、中国のものはそうではなく、ただのハチミツケーキのようで、どこが日本式だと突っ込んでしまうようなものもある。

中国人の友人に、「何で長崎なんだ」と聞かれ、説明したことが何度かある。日本人にとっても、カステラは外国のものだが、今は和菓子のようになっており、微妙な位置付けだ。中国人から見ても、カステラは「日本のもの」なのだろう。

五つは、日本の要素を取り入れたパイだ。昔は何の変哲もないカスタードパイに、「マヨネーズパイ」という「怪しい?」日本語を使って売っていたものもあった。カスタードパイは中国語では「蛋黄派」という「蛋黄」は「卵の黄身」の意味で、マヨネーズは卵の黄身でつくから、「マヨネーズパイ」だろうと担当者は判断したのかも知れない。

また最近は、日本を意識してか、中身が餅とあんこというパイが売り出された。ネット上では評判になっているので、実際に買って食べてみると、小豆の味が強く、パイを食べているような気がしない。私はパイを食べる時、よくコーヒーを飲むのだが、これについては渋いお茶が欲しくなり、和菓子を食べているような感覚だった。

以上は、私が感じた身近な食べ物に日本の要素が入り込んでいる例で、それだけではない。このようなものが出てきているのも、中国の人々が日本を身近に感じているという証拠ではないだろうか。

■“日本化”した中国製食品は「新時代の日中関係」の象徴?

日本製品に詳しい人も多くなったが、みんなが簡単に日本に行けるわけではない。完全に同じとは言わないが、日本の要素を取り入れた“代替品”で楽しもうという心理からできたものが、先に挙げた“日本化”した中国製品ではないかと思う。

ある中国人の友人は、日本が好きで、私に会うと日本の事情や食べ物などについての知識を披露したり、質問したりする。あまりにもよく知っているので、「日本に行ったこと、あるんですか」と聞くと、「実は行ったことないんだよね」と答えた。こういう人たちは日本への「憧れ」があるのだと思う。そうした人たちの思いを体現したのが“日本化”した中国製品ではないかと思う。

“日本化”した中国製食品、前述の「日本式カステラ」や「日本豆腐」などは、恐らく日本に少しだけ行ったことがある、日本での長期滞在の経験がないが、日本についての勉強をしていたという人が中心となって売り出したのかも知れない。だから、ネイティブの日本人から見ると、「えっ」と思うものもある。

日中両国の相互理解は「等身大」の相手国を理解するのが大切だが、実際の日本または中国に触れる人がますます多くなれば、「色眼鏡」で相手を見る、「一方的な見方」で相手を見るということも少なくなるのではと思う。

今、日中関係は「新時代」に入っており、中国の若い層の日本に対するイメージもこれまでのものと違う。日本のアニメ漫画、日本製品に良いイメージを持つ人が多くなっている。「新時代」の日中関係の認識を持つ人たちが増えれば、中国の対日イメージももっと変わっていくのではないだろうか。

“日本化”した中国製食品が増えてきたのは「新時代の日中関係」が着実に発展していることを示している例の一つではないかと思う。

■筆者プロフィール:吉田陽介

1976年7月1日生まれ。福井県出身。2001年に福井県立大学大学院卒業後、北京に渡り、中国人民大学で中国語を一年学習。2002年から2006年まで同学国際関係学院博士課程で学ぶ。卒業後、日本語教師として北京の大学や語学学校で教鞭をとり、2012年から2019年まで中国共産党の翻訳機関である中央編訳局で党の指導者の著作などの翻訳に従事する。2019年9月より、フリーライターとして活動。主に中国の政治や社会、中国人の習慣などについての評論を発表。代表作に「中国の『代行サービス』仰天事情、ゴミ分別・肥満・彼女追っかけまで代行?」、「中国でも『おひとりさま消費』が過熱、若者が“愛”を信じなくなった理由」などがある。

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