Record China 2014年1月19日(日) 16時43分
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安倍首相の靖国参拝について、いろんな評価が乱れ飛んでいるわけですが、それはひとえに評価軸が多岐にわたるためでしょう。写真は中国の劉暁明駐英大使。
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安倍首相の靖国参拝について、いろんな評価が乱れ飛んでいるわけですが、それはひとえに評価軸が多岐にわたるためでしょう。国内政治の評価軸でみれば、支持率が上がって政権が安定したり、あるいは別の改革の進める力となるかどうか。外交でみれば、日中・日韓関係の影響はもとより日米同盟への影響。経済でみると、 尖閣国有化から1年でようやく持ち直してきた中国市場での日本メーカーの売り上げへの影響。
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現時点でのソロバン勘定としては、国内政治、つまり支持率的には大きな変化はなし。外交、経済的にはとりあえずプラスの要素はなし、といったところでしょうか。もちろんこうしたソロバン勘定は関係ない、日本はただやるべきことをやっただけなのだという立場の方もいるでしょう。
参拝に賛成の方、反対の方いろいろいるわけですが、議論してもあまり実りがないのは、どの評価軸に重きを置くかをはっきりさせないからではないでしょうか。というわけで、自分にとってはどの評価軸が重要に思えるのか、あるいはこの論者はどの評価軸をポイントにしているのか、を考えながら靖国関連の議論を眺めると、結構クリアな整理ができるのではないでしょうか。
■賽の河原の責め苦
すでに書きたいことはだいたい書いてしまったのですが、せっかくですので評価軸というポジションを明確にしている他人様の記事を紹介したいと思います。
私はというと、一応、中国絡みの仕事をやらせていただいていることもあって、経済や外交の評価軸に重きを置いてしまいます。経済といっても日本経済が、大企業が…というよりも、**さん大丈夫かな、などなど知り合いの顔がまず思い浮かびます。
そんな中国にかかわる日本人ビジネスマンの多くが思っていそうなことを、ブログ「続・じぇーしん日誌」さんが、書いてくれています。
▼中国ビジネスに関わる私達からすれば、当然ながらオオゴトです。明日の仕事に大きな影響を及ぼすわけなので、本音はもちろん「なにしてくれてんだよ…」の一言に尽きます。年末にこんな爆弾落としやがって。
(…)でもどうなんでしょうか。私も中国に縁がない生活を送っていたら、尖閣デモやPM2.5の問題なんかをテレビでみて鵜呑みにし、中国に強硬的な考えをもっていたのかもしれないなーなんて思ったりもします。
(…)毎年、コツコツと積み上げた石をいいところでダダっと壊される賽の河原のような責め苦を受けている中国ビジネス関係者ですが、来年もどうやら我慢比べが続きそうですね。って辛気臭い!ダメだ!飲もう!
ここ10年というもの、日中関係は数年おきに大事件が起きており、そのたびに現場はおおわらわ。「賽の河原のような責め苦」とは言い得て妙ではないでしょうか。
■困ったちゃんは日本か、中国か?
外交という観点からよく整理された論考が「国際政治学者・六辻彰二のブログ とんぼの眼鏡でみた国際政治」。
▼少なくとも今回の参拝が日中、日韓の緊張を高めたこと自体は確かです。その意味で、日本が一種のトラブルを引き起こしたと受け止められたとしても、当然です。
(…)多くの日本人が思っているほど、外部からの日本に対する視線は、決してやさしいものではありません。米国、ロシア、ヨーロッパ諸国の大半、中国、これらはいずれも戦勝国であり、まして靖国参拝が中韓を最も刺激する要因で、関係がこれまでになく悪化しているなかでとなれば、論調として「日本の軍国主義の復活」を懸念するものが出たとしても、不思議ではありません。
(…)これらのメディアワークで決定的に後れをとっている日本が−仮に安倍首相の「理解を得られるように努める」という意思が本物だとしても−これをひっくり返すことは、きわめて困難です。少なくとも、ごく簡単なレビューからでも、「理解を得られるように努力する」という安倍首相の主張は、オッズが低いと言わざるを得ません。それとも、国際的な支持を得られる、なにがしかの勝算があるというのでしょうか。
私はここ1年間の安倍外交を結構高く評価しています。アベノミクスをぶち上げて「日本はオワコン」的な見方が変わるよう働きかけたこと、日米同盟の強化、東南アジア・アフリカとの関係強化、なにより「厄介者のタカ派首相キター」という事前の評価を覆し経済中心の現実派というイメージの構築に努めたことなどは評価ポイントじゃないでしょうか。
そもそも尖閣諸島の問題についてはどこの国もたいして興味はもっておらず、「変に騒ぎにならなければいいや」ぐらいの関心しかもたれていません。となると、問題は日本と中国、どちらが騒ぎを起こす困ったちゃんなのか、が問われることになります。安倍首相はタカ派首相と事前にレッテルを貼られていたにもかかわらず、そこをうまくやりこなし、「困ったちゃんは中国」という印象を与えつつあった…わけですが、そこでの靖国参拝ですべてはおじゃんに、という印象です。
■ハリー・ポッターと靖国神社
「靖国参拝は国内問題。国際問題化するような話じゃないし、その理を各国に説けばよい」という話もよく聞きますが、上述六辻ブログが指摘しているように難しいのではないでしょうか。
その理由はといいますと、第一に他国はそんなに関心を持っていないということです。靖国の存在について一生懸命説明したとして、まじめに聞いてくれるところがどれほどあるのか疑問です。「いやいや、騒ぎを起こした困ったちゃんは日本でしょ」という現状のイメージを覆すには多大なパワーが必要です。
で、その説明のパワーですが、日本よりも中国のがんばりのほうが目立つのが現状。これが第二の理由です。中国はこれまでも「日本は戦後秩序を覆そうとしている。中国、ロシア、米国などなど反ファシズム戦争(=第二次大戦)に勝利したぼくたちは力を会わせて戦後秩序を守らないとね」との宣伝を続けてきましたが、靖国参拝を機にさらに宣伝を強化しています。
そうした宣伝の一つが英紙デイリー・テレグラフに掲載された、劉暁明(リウ・シャオミン)駐英中国大使の寄稿文「China and Britain won the war together」(中国と英国はともに戦争に勝利した)。英中は反ファシズム戦争をともに戦い勝利した仲間であり戦後秩序構築を主導したというお決まりの内容なのですが、冒頭が面白い。
小説『ハリー・ポッター』で、闇の魔法使いヴォルデモート卿はその魂の一部をおさめた、7つのホークラックス(分霊箱)を破壊されて死んだ。もし軍国主義が日本におけるヴォルデモート卿の出現を意味するのであれば、靖国神社はホークラックスのようなものだ。国家の魂の最も暗黒の一面を象徴している。
だいたいこんな感じの書き出しなのですが、まあハリー・ポッターネタをかますことで単なるお堅い政治的主張よりは読みやすい文章になっているのではないでしょうか。この小ネタ入り寄稿文で日英関係がいますぐどうこうなるわけではないのですが、少なくとも日本の主張より中国の主張のほうが目立っているのは事実。日本の理を他国に説くどころか中国の宣伝のほうが目立っている現状では、なかなか理解を得るのは難しいのではないかとも思うわけですが…。
◆筆者プロフィール:高口康太(たかぐち・こうた)
翻訳家、ライター。豊富な中国経験を活かし、海外の視点ではなく中国の論理を理解した上でその問題点を浮き上がらせることに定評がある。独自の切り口で中国と新興国を読むニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。
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