Record China 2020年7月20日(月) 7時0分
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香港で施行された「香港国家安全維持法」は「一国二制度」を覆すと米英などから非難が相次ぎ、米中覇権争いが激化。コロナ禍の中、世界の分断が進行する。写真はレーペル独駐日大使(7月8日、日本記者クラブ)。
香港で施行された「香港国家安全維持法」は、高度な自治を認めた「一国二制度」を覆すと米英などから非難が相次いでいる。冷静に世界を俯瞰すると、苛烈な米中覇権争いが浮かび上がる。世界で蔓延するコロナ禍の中、世界の分断が進行する。
6月30日の国連人権理事会で、香港国家安全維持法が協議され、キューバやパキスタンなど53カ国は「香港情勢は中国の内政であり外部の干渉は許さない」という中国の立場を支持した。同法への反対表明は半数の二十七カ国にとどまった。アジアから反対表明に加わったのは日本だけ。東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国や韓国、インドは声明に加わっていない。中国の外交関係者は「米国はしょせん自国第一で動いており、多くの国は追従しない。対中封じ込めは突破できる」と自信満々だ。
◆トランプ氏、農産物購入「反故」を恐れる
米国政府は香港国家安全維持法に対抗し、香港の特殊な地位と待遇を停止して防衛設備や関連技術の輸出に規制をかける制裁措置を発表した。トランプ大統領は米独立記念日(7月4日)の記者会見で「香港は中国本土と同じように扱われることになる」と語り、経済面などで講じてきた優遇停止を表明。中国本土とは異なる扱いをしてきた査証(ビザ)や関税の優遇をやめると強調した。
香港在住の金融会社幹部は「今回の制裁は香港や関係官僚、金融機関に一定の影響を与えるものの、その影響は制御可能な範囲内であり、香港の国際金融センターとしての地位を揺るがすのは難しい」と指摘。香港国家安全維持法施行によって「昨年のような収拾のつかない騒乱が発生し、香港経済や市民経済の発展を阻害するようなことがなくなる。香港の経済界や商店、ホテル、レストラン、交通機関などにとって大きなプラスとなる」と歓迎している。
金融市場では香港ドルと米ドルのペッグ(連動)制の見直しが、市場に打撃を与える制裁案とみられてきたが、トランプ大統領は言及しなかった。多くの米金融機関が香港に進出しており、ペッグ制見直しは米国自身の首を絞める。米国がペッグ制を攻撃すれば大量の米国債売却などの反撃に遭うリスクも看過できない。
また制裁の具体的運用方法も不透明。また、香港への優遇措置撤廃として注目された関税の扱いについて、トランプ氏は具体的に言及をしなかった。米政権筋によると、同氏は中国との緊張をさらにエスカレートさせたくないと示唆。中国高官に対する追加制裁の発動を当面控えることにした。トランプ氏の対中強硬姿勢の背景には、11月の大統領選に向けアピールする思惑があり、「自分ほど中国に厳しい姿勢で臨んだ大統領はいない」と豪語するが、内心では中国が反発して米中貿易協議で合意済みの米国産農産物購入などが反故になることを懸念しているという。
◆中国は、アジア・南米・アフリカに進出
米中対立の長期化を見越し、中国はアジア、中南米、中東、アフリカを中心に支持を固めている。広域経済圏構想「一帯一路」、アジアインフラ投資銀行(AIIB)、中国、ロシア、インドなど8カ国で構成する上海協力機構のほか、中東欧や南米など世界各地で多国間の枠組みができている。今年1~6月の貿易統計によると、コロナ禍の下、ASEANとの貿易額がプラスを維持し、国・地域別で欧州を抜いて初めてトップになった。中国全体の6月の輸出は前年同月比0.5%増の2135億ドル、輸入は同2.7%増の1671億ドル。ともに増加したのは昨年12月以来半年ぶりである。
世界の大半の国は民主主義や人権にはあまり関心がなく、重視するのは「経済」。コロナ禍でその傾向が強まっている。多くの国にとって最大の貿易投資国は中国であり、本土との窓口である香港にも世界各国の多数が進出している。
日本でも、中西経団連会長、三村日商会頭ら財界首脳はもちろん、製造・金融・流通・観光業界首脳は日本経済の成長戦略を、最大の貿易投資相手国である中国との連携強化を主軸に描いている。
米国が対中攻撃を強める中、英政府は高速通信規格の「5G」網から中国の華為技術を排除することを決めたが、欧州ではドイツやフランスをはじめ、5G網に華為を採用している国が多く、英国に追随する動きはない。昨年のEUにおける中国企業の投資額が120億ユーロ(約1兆4550億円)近くに上る。在中国EU商工会議所が在中企業に対して行った最近の調査によると、9割の企業が投資を中国から他の国へ移動する予定はないと回答。欧州の製薬企業や医療技術企業などは、最近中国での売り上げを伸ばしている。販売市場および生産基地としての中国は巨大な市場であり、欧州企業の計画に不可欠という。
◆年末までにEU・中国首脳会議開催―駐日独大使
EU議長国ドイツのイナ・レーペル駐日大使は、7月8日に日本記者クラブで開催された記者会見で「ドイツは中国との関係を安定させることが重要だと考える」と明言。9月にEU27カ国首脳と中国首脳によるトップ会議の開催を予定していたが、コロナ感染症が理由で延期された。ドイツ議長国の間(今年12月まで)の開催を目指し、双方の発展への方策を協議したいと強調した。
20年4~6月期の中国GDPは前年同期比3.2%増と先進国に先駆けてプラス成長に戻った。コロナ危機からいち早く脱却した中国とコロナ感染者が増え続ける米国。IMFなど有力国際機関の予測を分析すると、米中のGDP経済規模は2025年ごろに逆転する。両政府の対立は激しさを増し、世界の分断が進む。日本は、安全保障を依存する同盟国・米国と最大の経済貿易相手国である中国との狭間で、激動の国際情勢を冷静に見据え、したたかな戦略を描くべきであろう。(八牧浩行)
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