Record China 2014年2月16日(日) 18時5分
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バングラデシュ名物と言えばリキシャだ。この名称はもちろん日本の人力車に由来している。三輪の自転車に、人や荷物を載せられる座席がついている構造だ。座席の後部にはリキシャアートと呼ばれるユニークな絵画が描かれている。
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■最近の若い者は…甘酸っぱいリキシャ・デート
大人ふたりが一般的な乗り方だが、コツを覚えれば三人乗りはあたりまえ。最大4人は乗れる。
若い男女がデートにつかう。座席が小さいのでぴったりくっついて座ることになり密着感を楽しめる。さらに幌をかければ二人きりの空間を楽しむことができる(本当は前からみればがら空きなのだがそんなことは気にしない)。
そもそもイスラム社会では結婚前の男女がリキシャに二人で乗るなどはもっての外という文化があった。最近の若者は実にけしからん!(わしも若い時にやりたかったぞ)などというオッサンたちのつぶやきもなきにしもあらず、である。
■リキシャ、その恐るべき性能
このリキシャ、ただの自転車に座席をつけただけと侮るべからず。推定耐荷重能力はなんと500kgに達する。というのもリキシャ専用の強靱なタイヤが販売されているほか、車体も鉄フレームの補強がいたる所に入っているのだ。
米や野菜の荷運びはもちろん、パンクした小型のバイクを運ぶことまである。マイクとアンプとのせれば小型宣伝カーのできあがり。イベントの集客などに使う。
似たような車両としてバンガリと呼ばれるものもある。こちらは座席がついていない、台車だけの構造だ。貨物専門で最大荷重1トンはあると思われる。
■リキシャワラ、地方出稼ぎ労働者の収入源に
リキシャ運転手はベンガル語でリキシャワラと呼ばれている。首都ダッカでリキシャワラは主に地方の出稼ぎ者の仕事だ。彼らは着の身着のままダッカにやってきてリキシャを借りて働くのだが、出身地域別にリキシャ貸し屋がいて胴元的な存在となっている。車を貸すだけではなく、出稼ぎ者に飯とベッドも供給する。
リキシャワラは昔から農閑期の出稼ぎ労働者の受け皿として機能していた。特にスキルを持っていなくても手っ取り早く現金収入を得られる。稼ぎの悪い職業の代表選手のように思われているが、本人の頑張り次第で日雇いの建設現場仕事より稼ぐこともできる。
バングラデシュの雇用を支え、生活文化を担っているリキシャであるにもかかわらず、交通渋滞の元凶と言われるなどぞんざいな扱いをうけている。もちろん、渋滞の原因を社会的弱者である彼らに押し付けている一面はある。
■リキシャワラのファッション
リキシャワラの格好は、だいたいルンギとよばれる一枚布のスカートに何日も着替えをしていないよれよれの襟付きシャツ。ルンギの下はノーパン。リキシャにまたがって乗るときにルンギがめくれるのでポロッとみえはしないかとハラハラさせられるが、今のところみえたことはない。
貧乏なリキシャワラは着替えの服をもっていないので同じ服を着たきり。汗ジミに加えてマダラ模様のカビがはえている。しかも暑い中の肉体労働で汗だくなのでリキシャワラの背中からかなりキツイ体臭が漂ってくることもしばしば。彼らの背中から座席まで1メートル程度しかないので逃げ場なしの体臭が襲ってくる。
雨の日にはビニール袋をアタマにかぶって仕事する。全身びしょ濡れでもアタマさえ守っていれば平気らしい。
■リキシャワラに見るバングラデシュの変化
ところが、リキシャワラを取り巻く環境に最近変化が見える。
リキシャのなり手が減ってきていると最近のリキシャ・オーナーたちが言うのである。労働市場の多様化が進んでいて、より条件のいい仕事が選べるようになってきているらしい。
ルンギを着ていないリキシャワラが出現してきている。既製服産業が盛んなバングラデシュでは何らかの理由で出荷できなかった外国向け衣料のアウトレット市場があり、そこでかなり安く服が買える。一方、ルンギの価格は高騰し続けていてルンギよりも既製服のほうが安く手に入るようになってきている。
以前はサンダルを買う金もないハダシのリキシャワラがいたが、最近は見かけなくなった。農村では10歳に満たないような子どもが、足がペダルに届かないので三角こぎでリキシャをやっていたりするのを見かけたが、それも見かけなくなった。
清潔なシャツにジーンズ姿で仕事をするリキシャワラを見かけると、何だか違和感を覚えるのだが、その数は確実に増加してきている。
■イノベーション!電動リキシャの登場
さらに、電動リキシャの登場である。これまでのリキシャにモーター駆動システムをつけたものが2009年頃から出回りだしたのである。通常リキシャを新車で買うと2万5000円程度なのだが、電動リキシャは7万円程度で買える。
座席の下にバッテリーを搭載、一晩の充電でほぼ一日中走ることができるという。モーター駆動なので低速域でも高トルクを出すことができ、これまでのリキシャの初速の遅さをカバーしている。
最大時速40kmの高速移動が可能で、本来ならば自動車しか走らないはずの道路を高速移動中の電動リキシャを見かけたりもする。しかし、リキシャの車体のまま最大時速が伸びているのでブレーキ能力などに問題がある。その他にも重心バランスの高さから来る転倒の可能性など安全性の問題は山盛りだが、これも新しいイノベーションの萌芽のサインと見ることもできる。
ノーベル平和賞を受賞したグラミンバンクのモハメド・ユヌスはこの国の貧困を博物館でしか見られないようにしたいと自伝で述べていたが、かつてのリキシャはこうだったというように博物館に飾られるようになる日が来るのも案外近いのかもしれない。
◆執筆者プロフィール:田中秀喜
1975年生まれ。メーカー勤務、青年海外協力隊、JICA専門家を経てバングラデシュでコンサル業を起業。チャイナプラスワンとして注目されながら情報の少なさから敬遠されがちなバングラデシュの情報源となるべく奮闘中。
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