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中越戦争、熱いメディアと冷淡な教科書=ベトナムの「歴史教科書問題」

Record China    2014年2月22日(土) 8時40分

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2014年2月17日、1979年に中越戦争が勃発から35周年の記念日です。中越戦争ですが、日本ではトウ小平がベトナムを「懲罰する」と称して始めた戦争だと知られています。

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2014年2月17日、1979年に中越戦争が勃発から35周年の記念日です。

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中越戦争ですが、日本ではトウ小平がベトナムを「懲罰する」と称して始めた戦争だと知られています。戦争は約1カ月と限定的ではありましたが、戦後、ベトナム北部各省は中国に対する「国防」が最優先事項となり、経済発展に必要な投資が滞るなど大きな影響がありました。

フランスやアメリカと戦ったベトナム戦争とは違う形で尾を引く戦いであり、現在に至ってもベトナム人の心に大きな影を落としています。35周年の記念日を迎えた今、ベトナムでこの戦争がどう語られているか、そして何が語られていないかについて取り上げます。

■叫ぶメディア:政府の代わりに中越戦争の意義訴える

「中国に対して警戒心たっぷり」「中国嫌い」などと良く言われるベトナム。中国の「侵略」を「撃退」したこういった記念日はさぞ広く祝われているのだろうと思われるかもしれませんが、ことはそう簡単でもありません。

基本的に中越戦争はセンシティブな問題として扱われています。16日に反中デモがあったというニュースがありましたが、あくまで小規模な範囲の中で許されているものです。

しかし、ベトナムのメディアはかなり飛ばしています。比較的ストレートな物言いで知られるTuoiTre紙の16日紙面には、戦火を逃げる幼い姉妹の写真を大きく掲載。同戦争の後世への伝え方、教科書での扱いに関する歴史家へのインタビュー記事を載せました。

記念日当日の17日の紙面はなぜか大人しかったのですが、一方でネットメディアは今日もガチで中越戦争を扱う記事が多数。防衛戦の意義を訴えたり、参加した人々のインタビューを掲載したり。公式行事で顕彰しない政府に対する不満が透けてみえるような報道っぷりです。

ベトナムエクスプレスなどは中国軍が侵入したベトナム北部国境6箇所のポイントを地図上に表し、各ポイントでの戦況を解説するページまで作っています。ビジュアル的にもかなりのわかり易さです。

■黙る教科書:ベトナムの歴史教科書は中越戦争をどう語っているか?

メディアとは対照的なのが学校の歴史教科書。政府公式見解という意味合いもあるため大変微妙です。本屋に行ってベトナムの歴史教科書をチェックしてみました。現代史まできちんと網羅しているのは「12年生」、つまり高校3年生の教科書ですが、中越戦争に関してはわずか1パラグラフだけで、その戦後への影響に比べると記述は非常に少ないものです。

中越戦争のみならず、ベトナム戦争戦勝後の記述は現代における国家建設、経済発展がほとんどで、外交マターはほとんど触れられていないのです。メディアがこれほど取り上げているにもかかわらず、中越戦争は公式には学校ではほとんど扱われない話なのです。

同じ棚に12年生用歴史教科書の「詳細版」がありました。普通の教科書がいわゆる「必修」という位置づけに対し、詳細版はより深く知りたい学生向けの自習用「参考書」という位置づけです。以下のように中越戦争についての記述がありました。

「カンボジアにおけるポルポト政権の反ベトナム政策に対し、一部の中国指導者は支持を示した。彼らは国境地域を煽動する、いわゆる「華僑迫害」(ベトナム戦争後、中越関係悪化に伴い、ベトナム政府が国内華人に対し締め付けを強めた)問題の濫用、支援の停止、(中国人)専門家の帰国など、ベトナムを困難に陥れ両国の友好関係に傷をつけるような行動を取った。さらに深刻なのは、1979年2月17日、中国は32師団を投入し、ベトナム北部国境をモンカイからフォントーまで1000kmを超える国境線で攻撃を仕掛けてきた。祖国を守るため、我が軍隊、特に国境6省の辺境防衛軍は勇敢に戦った。同年3月18日までに中国はその軍隊を引き上げた。」

■戦争の事実を隠さないで欲しい…歴史学者

歴史学者のDuong Trung QuocはVNexpressのインタビューに次のように答えています。

中越戦争は「侵略戦争に抵抗した歴史であり誇り」で、「抗仏、抗米のベトナム戦争を展示したホーチミン市の戦争証跡博物館は国内外の観光客を呼んでいるのに、なぜ1979年の中国との戦争は例外になるのか?」と疑念を呈しました。そして「歴史学者は教科書が戦争の歴史事実を隠さないようにしてほしいと願っているし、それと同時に民族間、国家間の敵対心をやたらに刺激して欲しくないとも思っている」と語っています。

上記の必修教科書と「参考版」教科書じゃないですが、ベトナム政府の方針も有り「もっと書きたいが書けない」という微妙なバランスが読み取れるようで、また「どう載せていいか結論がでない」という苦悩も垣間見れて、非常に考えさせられます。

(ちなみにですが、彼の名前の「Trung Quoc」は正にベトナム語で「中国」という意味。恐らく60歳前後の彼が生まれた頃には、子供に「中国」と名を付けられるほど、親密な関係の頃もあったわけですね。)

■中国からの圧力なのか、愛国主義コントロールの問題か?

この戦争をどう扱うか、特に歴史教科書でどう扱うかは、当然中国との外交問題にも配慮しているでしょう。35周年に関しても「中国が記念行事を行わないようベトナムに圧力をかけている」という噂も流れました。

BBC Vietnameseではオレゴン大学にいるベトナム人研究者の意見として「圧力の有無はわからないが、ベトナム政府が中国に配慮して、或いは自国の中国に対する民族主義が高まり過ぎないように抑えているのは確か」と語っています。

中国からのプレッシャーというのは想像されるところですが、民族主義の高まりが制御できなくなるのではとの懸念は興味深い。愛国主義を認めつつも、過剰な高まりを警戒して時に反日デモを抑えにかかる中国政府を想起させます。

周りのベトナム人に聞くと、皆が知っているこの中国との戦いの歴史。結局教科書ではほとんど触れられていなくても、先生たちが自らの体験談などで教えてくれたと言います。ましてや、近年の中越間の領土問題などをきっかけに、ネットを少し紐解けば当然この時期の戦争にも行き当たり、その事実を隠すことはできないはず。

それでも教科書にはまだ多くを書けないという状況には、隣国間のパワーバランス、そして今もリアルに存在する中国との領土問題など、この歴史上の事実と現実とのあまりの距離の近さが強く関係しているのでしょう。

昨年末には西沙・南沙諸島の問題は教科書で取り上げるべきとズン首相が指示したとの報道もありましたが、中越戦争に関しては明言されていません。この戦争がベトナム歴史教科書で詳述される日はいつになるのでしょうか。

◆筆者プロフィール:いまじゅん

ハノイ在住のベトナムウォッチャー。ブログ「ハノイで考えたこと」作者。中国在住も長かったので、ベトナムから見た中国、中国とベトナム比較といった視点にも注目。個人的には湘南ベルマーレの熱烈サポーターということから、サブトピックとしてはアジア・ベトナムサッカーにも関心大。

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