日本僑報社 2020年10月7日(水) 21時40分
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ある時、私は時間通りに作文を送れないことがあった。すると、「2年生の希望の星さん、もうやめてしまったの」と先生からメッセージがきた。資料写真。
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1年生の時、私は目立たない学生だった。漠然と卒業後は貿易関係の仕事に就きたいと思っていたが、日本や日本語に特に興味もなく、毎日、先生が出す宿題をして、覚えなければならないテキストを暗記していた。幸い、成績はクラスのトップグループにいたが、だからと言って留学を考えるでもなく、狭い世界にいたと思う。
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国慶節の休みが明けて学校生活に慣れてきたころ、担任の先生が作文コンクールがあることを告げた。「安田日本語作文コンクール」という名前のそのコンクールはわが校の日本語学科の学生だけを対象にしたもので、安田悠という日本人が主宰、協賛してくれているのだと聞いた。
このコンクールの特徴は応募作品を集めて審査するのではなく、参加者を会場に集めてからテーマが発表され、2時間の間に学年によって決められた文字数の作文を書くというものだ。但し、1年生は中国語で構わないということなので、私は少し興味を持った。1年生は人数が少ないので入賞も無理ではないと、作文に得意だった私は参加を決めた。
結果は1年生の部で3等賞だった。内心優勝を狙っていた私は悔しくて、2年生になっても参加して必ず優勝してやろうと心に決めた。2年生は日本語作文だ。そのため、私は必死で日本語を学んだ。そして、2年のコンクールを迎えるときには私は成績が学年トップになっていた。2度目のコンクール、緊張しながら臨んだ会場で発表されたテーマは「高校時代の親友」で、私は高校時代の受験勉強に励んだ同級生のことを書いた。結果は目標通りに優勝でき、私は努力が報われたと有頂天になった。
その授賞式の夜、私にスマホに日本語のメッセージが届いていた。「貴方の作文は綺麗です。今後、私が作文の指導をしてあげよう 安田悠」というものだった。まさか、日本にいる安田先生からこんな申し出を受けるとは思ってもいなかった。安田先生は商社の顧問をなさりながら、日本の大学でも講師を努める多忙な方だと聞いていたからだ。「ありがとうございます。必ずもっと頑張ります」。慌てて返事を送り、この時から私と安田先生の交流が始まった。
それからは私が週に一篇の作文を書いてE-mailで送り、安田先生が添削して送り返してくださる。お忙しいのに大変だと思いながらも、とてもありがたかった。ある時、私は時間通りに作文を送れないことがあった。すると、「2年生の希望の星さん、もうやめてしまったの」と先生からメッセージがきた。私は先生に謝って「やめません」と先生に返事した。先生はそれ以上は叱りもせず、添削を続けてくださっている。おかげで、最初は間違いが多かった作文も、だんだん先生を満足させられるレベルに近づいてきた。
3年生の1学期、安田先生は私に日本留学を勧めてくださった。しかし、私の家は富裕ではないので、私は諦めようとしていた。すると先生は「お金の問題だったら、私が貸してもいい」と言ってくださった。私はそれを聞いて感激のあまり、涙が溢れ何を先生にどう返事すればいいのか、思い浮かばなかった。その答えは今も出ていない。
作文コンクールへの協賛は当初3年の予定だったが、今年で5年目を迎えている。中国と直接関係があるわけでもない日本の名士が、内陸部の名門校ではない大学の学生をこんなにもサポートしてくださる。その理由をある年の授賞式で先生はこうおっしゃった。「河南は歴史のある土地で、卑弥呼の時代から日本との友好往来を重ねてきました。皆さんが日本語の学習にこんなに努力しているのだから、何とかあなたたちの力になりたい。将来、日中関係は皆さんにかかっています」それはビデオ越しの言葉だったが、私の胸に響いた。
これほどお世話になっていながら、私はまだ先生に直接お会いしたことがない。先生に託された日中関係は私の肩には重いが、先生に受けた御恩と教えを忘れずに、日中友好のために努力し、いつの日か先生と日本でお会いしたい。(提供/日本僑報社)
※本文は、第十三回中国人の日本語作文コンクール受賞作品集「日本人に伝えたい中国の新しい魅力」(段躍中編、日本僑報社、2017年)より、劉海鵬さん(許昌学院)の作品「託された思い」を編集したものです。文中の表現は基本的に原文のまま記載しています。なお、作文は日本僑報社の許可を得て掲載しています。
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