<コラム>中国で新型コロナウイルスのPCR検査を受けさせられて思うこと

大串 富史    2020年10月21日(水) 19時20分

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青島の新型コロナPCR検査のため、人々が列をなしている。警察官や防護服に身を固めた病院の職員はもちろん、同様のいで立ちのボランティアもおり、少しすると消防署の人たちまでが一群となって到着した。

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中国嫁のいる日本人の僕は、中国から見て中国人の配偶者である外国人だから、査証つまりビザではなく居留許可証で中国に滞在している。結果として出入境(出入国のこと)の必要がなく、新型コロナウイルスのPCR検査などともこれまで全く無縁であった。

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少なくとも少し前までは、本当にそうだった。

というのも中国にいると、ロックダウンなり隔離政策なりがハンパないわけで、普通であればまず感染しない。

もう少し正確に言うと、感染している可能性が少しでもある人は強制的に検査また隔離となるため、感染している可能性が限りなくゼロに近い人ばかりが身の回りにいることになる。

とはいえ中国にいる僕らにも、これまでニアミスが全くなかったわけではない。

最初の危機は、2月にコロナ禍が始まって間もなく、田舎の農村で親族皆と一緒に食事を楽しんだ後に生じた。

その食事の席にいた親族数人が数日前に別の親族の見舞いに病院に行ったのだが、なんと、その同じ病院の同じ病棟の海外帰りの某夫婦がコロナに感染していることが数日後に判明したのだ。

もっとも結果はと言うと、同じ病棟に入院していた親族は残念ながら感染してしまったものの、見舞いに行った親族数人は全員無事だった。

あぶないあぶない。中国ではごくごく普通な和気あいあいとした家族団らんが、あやうくクラスターと化し、一族郎党総感染となってしまうところだった。

それから数カ月が経ち、コロナの隔離政策のため結局半年しか幼稚園に行かなかった娘も小学校に無事入学したのだが、まさかその僕たち家族に「第二波」が待ち受けていたとは誰が知ろう。

それは小学校の先生から夜中に届いた、不穏な微信(WeChat)メッセージから始まった。

「父兄の皆様へ:緊急なお知らせがあります。ここ2週間の間に青島全市へ往来した学生とその家族への組織的調査をしっかり行います。該当者は速やかにご連絡ください」。

次いで青島の総領事館からメールがあり、僕はその不穏なWeChatメッセージの意味がやっと分かった。

「青島市衛生健康委員会は昨日、青島市で新型コロナウイルス症例(4例の確定症例、5例の無症状感染者)を発表しました。これで、現時点での感染者は、確定症例6例、無症状感染者6例となりました。」

「また、今回の確定症例発生を受け、青島市は3日以内に市街地について全面的なPCR検査の実施、5日以内に青島全市の全面的なPCR検査を実施するとしています。」

「青島市衛生健康委員会の発表本文:当市において3例の新型コロナ肺炎無症状感染者の発生以降、直ちに大規模な感染状況の洗い出し及び分類検査を展開、密接接触者及び市胸科医院に関係する人員を高リスクグループとして重点観測を行った。洗い出された密接接触者及び市胸科医院のすべての患者及び付添人は全部で377人、うち新たにPCR検査で陽性になったのは9人、専門家グループにより、うち4例が確定症例、5例が無症状感染者と判定された。」

「既に洗い出された密接接触者の密接接触者は76人、うち34人の結果が判明、すべて陰性。一般接触者810人、うち485人の結果が判明、すべて陰性。洗い出された全市の医療従事者、新入院患者及び付添人は14万3893人、すべて検体採取を完了、うち11万4862人の結果が判明、すべて陰性。」

「既に全員検査方案が制定されており、広大な市民の積極的な協力の下、社区による検査が現在迅速に進められている。検査結果は随時公布する。(以下、省略)」

そのようなわけで、中国人の妻の高齢の母親の様子を見に農村に行った僕らもまた、娘の小学校の先生から、明日病院に行って検査を受けるように、と言われてしまった。

「(感染者が発見された市街地から全然離れている農村に行ったというだけで)検査を受けなきゃいけないなんて、これがつまり共産主義国家ってことね」との中国人の妻の感想に激しく同意しつつ、僕は僕で友人に連絡し、明朝のミーティングの司会を急遽代わってもらう。

翌朝。妻は朝6時過ぎに(!)知人に電話を入れて検査の詳細について確認する(中国では親族友人知人間での早朝の電話はアリであるが、夜中の電話は早く寝てしまう人が多いのでNGである)。検査前に食事をしても大丈夫だと分かり、さっそく食事をして病院へ。

朝8時。病院は既に新型コロナウイルスのPCR検査のため、人々が列をなしている。そりゃ、ほぼ接触していない人まで検査を受けなさいとなれば、当然そうなろう。

同時に、病院のガードマンではなく警察の人がそこここに立っていることに改めて気が付く。防護服に身を固めた病院の職員はもちろん、同様ないで立ちの共産党員であるボランティアの人もおり、少しするとなんと消防署の人たちまでが一群となって到着する。

「1メートルの間隔を保ってくださーい」。防護服で完全防備の病院の人が近づいてきて、検査をスムーズに行うためにちゃんと診療費の準備をしているかどうかを一人一人に聞いて回る(検査そのものは無料であるが、診療費が9元、日本円にして150円弱かかる)。

ようやく検査の順番が来て、診療費を払い、検査用のバーコードシールを受け取り、検査をしに行く。

「あんた、日本人?」そうだと答えると、さっと綿棒でのどの粘膜をなでられ、検査終了であった。

翌々日に病院に行くと、案の定というかなんというか、「陰性」の診断書を渡される。僕たちを含め娘の同級生数人がこれを学校に提出して初めて、今回の「学生とその家族への組織的調査」が終了する。

そんなわけだから、「中国は新規感染者ほぼゼロ、一方で疑問の声も―独メディア|レコードチャイナ」という記事で、ドイツ公共放送連盟(ARD)が現在の中国における新型コロナウイルスの感染状況について、「中国では多くの生活領域がすでに平常状態に戻っており、感染例も少ない。大規模な検査運動展開、厳格な感染経路追跡と隔離規定などさまざまな防疫措置を取って感染を抑制し、監視国家という性質が事実上当局によるウイルス対策をアシストした」というのは、まさにその通りだと実感せざるを得ない。

加えて完全無料ではないものの、まあ150円足らずで「新型コロナウイルスのPCR検査を受けさせてもらった」のだから、そのことにも感謝できる。

その日の午後は妻の友人のご主人がやっている床屋に散髪に行き、家族で検査を受けてきたと話した。

ちょちょ、ちょっと待った、結果も出てないのに何で来るんだ!などと怒鳴られることもなく、まあ中国はそこそこ安全だ、それに比べ米国は…といった話になる。それで僕が言う。

「いや、昔だったら皇帝が自分で(政策を)決めて、後代の我々がその是非を判断する。貴族とか偉い人たちが決めたことについても同じで、それが良かったか悪かったかを(人民である)僕たちが後になって判断してきた。でも今は(米国をはじめとする国々において)僕たち自身が(自分で)何でも決めて、良かれ悪しかれ、その結果を即座に身に受ける。だから今の世の中というのは、(民主主義の台頭という)本当に最終的な段階に来ているんですよ」。

分かりやすく言えば、現代人は良かれ悪しかれ、一人一人が「小皇帝」なのだ。

僕個人としては、ご自身で何でも決める自由をお持ちの日本の皆さんもまた、ご自身でよい判断決定をされつつ、コロナ禍を自ら首尾よく切り抜けられるよう、ただただ願ってやまない。

■筆者プロフィール:大串 富史

本業はITなんでも屋なフリーライター。各種メディアでゴーストライターをするかたわら、中国・北京に8年間、中国・青島に3年間滞在。中国人の妻の助けと支えのもと新HSK6級を取得後は、共にネット留学を旨とする「長城中国語」にて中国語また日本語を教えつつ日中中日翻訳にもたずさわる。中国・中国人・中国語学習・中国ビジネスの真相を日本に紹介するコラムを執筆中。

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