<コラム>アリババへの逆風強まる、大きくなりすぎ?金融、大企業、地方行政、DXで主導権握る

高野悠介    2020年12月18日(金) 8時20分

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中央政府からアリババへの逆風が吹き始めている。是正を迫られているとすれば、その原因はどこにあるのだろうか。現状分析から近未来を見通してみよう。写真はアリババ本社。

中央政府からアリババへの逆風が吹き始めている。是正を迫られているとすれば、その原因はどこにあるのだろうか。現状分析から近未来を見通してみよう。

■アリババに吹く逆風

ジャック・マー前会長の発言が引き金?

・10月24日、ジャック・マー前会長は、上海で開催された「第二回外灘金融サミット」において、金融政策を前近代的として批判した。

・11月3日、Fintech子会社アント・グループの上場に突然待ったがかかる。

・11月10日、市場監督総局は、ネット通販に対する規制の強化「関干平台経済領域的壟指南」を公表した。11月11日独身の日セール前日というタイミング。

・11月23日、国家広電総局、ライブコマース業界を管理強化する「関干加強網絡秀場直播和電商直播管理的通知」を発表。

■アリババのすごさ

アリババのすごさは、ネット通販と金融だけではない。提携先のメンバーをみれば、それがわかる。

全国の金融機関と幅広く提携している。銀行は、中国建設銀行から、農業銀行、工商銀行、今年8月合意した中国銀行まで、国有4大銀行すべてと戦略提携した。地方銀行まで合わせ200行以上を網羅している。また100の投資信託、80の保険会社とも提携。

国有大企業との提携は、中国鉄道総公司、中国煙草総公司が有名だ。鉄道総公司とは2015年、予約発券システム“12306”を創設した。これにより春節休暇の風物詩、帰省切符確保の大混乱は消滅した。

煙草総公司とは2018年、栽培、研究開発から流通、販売までのデジタル化で戦略提携した。煙草税は中国税収の6%を占め、2019年は1兆2056億元を納税した。アリババは国家税収の根幹、煙草業界の将来を左右する存在になった。

提携する国家機関、地方政府は増加の一途だ。阿里雲(クラウドコンピューティング子会社)を通じ、行政に深く関与している。税関、国税、人社部等20以上の国家機関、地方政府では30の省市、442の都市をカバー、1000以上のサービスを9億人へ提供している。

■ブロックチェーン等、先進技術でも強さ

アリババは先進技術でも中国をリードしている。

例えば、最先端ブロックチェーン技術の実装で先頭を走っている。2020年上半期のブロックチェーン関連特許出願数は、アリババグループが1457件で世界トップだ。そして次々に新規プロジェクトを発表している。

・最近発表されたブロックチェーンプロジェクト

4月、螞蟻開放聯盟鏈(Ant Open Alliance Chain)中小企業向けプラットフォーム公開。

5月、インテルと戦略提携。

9月、国際貿易と金融サービスプラットフォーム「Trusple」公開。

10月、デジタル著作権サービスプラットフォーム公開、国有コングロマリット、招商局集団と提携。

・地方政府連携ブロックチェーンプロジェクト

1.広州市海珠区とブロックチェーン+行政サービスプラットフォームで提携。

2.江西省とブロックチェーン+行政サービスプラットフォームで提携、省レベルで初。

3.2022年の杭州アジア競技大会のチケットを、アリババブロックチェーン技術で発行。

■企業統治も問題か

政府をしのぐパワーを得る?

上場後のアント・グループ時価総額は、2.5兆元~3兆元(3750~4500億ドル)と見積もられていた。アリババは11月3日の暴落前、8368億ドルだった。合わせて1兆2000億ドル以上になる。

アリババ取締役を退任したジャック・マーは依然として、両社(アリババ、アント・グループ)を含むグループ人事権を持つ。アリババにはパートナーシステムという特殊な制度がある。創立メンバーや、多大な貢献をした者など30人以上で構成され、グループの課題を話し合う。最大の特徴は、取締役を指名できることで、事実上、取締役会の上部組織だ。ジャック・マーは、そこに相変わらず君臨している。さらにカリスマ性、国民の人気はピカイチだ。

一方、中国政府は、民間企業の実質支配を強めている。議決権などを通じ、実質傘下に収めた企業は2018~19年には、20~30社だったが、2020年は11月までに50社以上になる。世界の注目を集め、自由に振舞うアリババグループは、この路線にも反する存在だ。

■CEOは恭順を表明

眼の上のたんこぶに?政府とのせめぎ合いは続くのか

11月23日、アリババの張勇CEOは、国家の新規制は、タイムリーかつ必要なものであり、発展と管理監督は相互依存の関係にある、今後国家政策と法規を積極的に学習する、と恭順の姿勢を表明した。

一方、デジタルチャイナの建設に果たしたアリババの役割も強調した。ブロックチェーンなど最新技術に対する自信のようにも見える。

また12月に入り、蘇州市、黒竜江省と戦略提携を結んだ。地方政府のアリババ頼りは変わっていない。

とにかく大きくなりすぎたアリババと、企業統制の強化を進める中央政府は、せめぎ合いを始めたようだ。ネットメディアは息をひそめて見守る雰囲気だ。今のところ、逆風は、本業のネット通販と金融に限られ、先進技術まで及んでいない。しかし近い将来、それらの主導権争いまで影響するかもしれない。今後は小さな動きも見逃せないだろう。

■筆者プロフィール:高野悠介

1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。

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