<コラム>中国工業廃水処理の現状と求められる対策

内藤 康行    2021年1月4日(月) 21時20分

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中国の工業廃水の排出は、主に石油化学、石炭、製紙、冶金、繊維、製薬、食品およびその他の産業に集中している。資料写真。

01 中国の工業発展と廃水排出の現状

中国の工業廃水の排出は、主に石油化学、石炭、製紙、冶金、繊維、製薬、食品およびその他の産業に集中している。なかでも、製紙と紙製品業の廃水排出量が製造業廃水総排出量の16.4%、化学原料・化学製品製造業が15.8%、石炭採掘・洗炭業が8.7%を占めている。中国政府は、工業廃水処理技術の研究、開発、応用を重視し、1970 年代以降、中国は科学研究機関、大学等に多くの人的資源、材料資源、財源を投入し工業廃水処理技術の研究と国民経済で比重が高まる廃水処理技術的問題の解決に注力している。

工業廃水処理力の強化と生態環境保護のために、中国政府の政策は、工業企業を比較的完全な廃水処理施設を備えた工業園区に移し、工業廃水の集中収集と統一処理を実施している。生態環境の現状に関する公報データによると、2018 年、97.8%の各省が工業園区で集中型汚水処理施設を建設し、自動オンライン監視装置を設置している。

革新的な生産技術、時代遅れの生産能力の排除、廃水のリサイクルの重視、単位製品の水消費量の削減などの一連の措置が採用され、中国の工業廃水排出量は 2011 年以降年々減少している。「中国環境統計年鑑」のデータによると、2009 年の中国の工業廃水排出量は 234 億4000万m3で、国全体の約 40%を占めた。2010 年の工業廃水排出量は 237 億5000万m3で、その後、工業廃水排出量は下降期に入り、 2015 年の工業廃水排出量は 199億5000万m3で、2017 年には 181億6000万m3に減少し、全国の廃水排出量の 23.55%を占める。

「中国製造 2025」戦略の進展に伴い、中国の工業生産技術は更新され、人々の物質的および文化的ニーズを満たす工業製品は多様であるだけでなく、生産量も膨大となった。その結果、工業廃水は、水中の汚染物質の新しい特性とタイプ及び処理難度の高い物となり、排出後は環境に対する危害と耐久性が増している。

02 中国の工業廃水の処理現状

中国は工業廃水処理の分野で一連の工業廃水処理技術が研究開発され、実践したことで、排出量は年々減少し、処理率も年々上昇している。しかし、工業廃水はタイプ数が多く、技術的要件が高いため、 管理が難しくなっており、そのため多くの問題が浮かび上がった。以下にその問題を要約する。

(1)一部の第 2 線都市と中小都市の工業廃水処理率は、依然として低いレベルにある。大都市中、特に特大都市は環境汚染の大きなプレッシャーにさらされており、管轄の政府部門は強力なイニシアチブと厳格な監督により、廃水処理率とコンプライアンス率を高くしている。しかし、一部の第 2 線都市や一部の中小都市は、経済成長へのプレッシャーが高まっている。第 1 線都市の工業生産能力の移転に伴い、工業廃水汚染は徐々に中小都市にシフトし、汚染問題はますます顕著になっている、こうした背景から工業汚染解決への需要が高まっている。

各地の工業廃水処理施設への投資は非常にアンバランスである。投資は主に山東、江蘇、浙江などの経済的に発展し、水が豊富な沿岸地域に集中し、北東部と中西部へのプロジェクト投資は少ないと言う不均衡にある。特に、まだ工業園区に入っておらず分散する工業企業からの廃水排出は、効果的に処理されておらず、処理率を改善する必要がある。また、石油化学産業の洗浄生産ライン廃水、原油タンク沈殿高濃度塩分廃水、鋼冷間圧延冷却剤などの廃水は、排出規制が弱いため、監視も容易ではなく、さらに個々の企業の責任感が極めて少ないことから、一部の廃水は適性時間に効果的に処理されておらず、その排出と汚染は楽観できない。

(2)既存の汚水処理施設は負荷率が低く、排水基準値達成率も低い。「水十条」対策の公布と政府の環境ガバナンスで、企業は規制により廃水処理施設を建設する必要が生じた。新規制でのほとんどの新規、拡張プロジェクトで廃水処理施設が整備されている。しかし、統計によると、2015 年の中国の工業廃水処理施設の平均負荷率は約 49.3%と負荷率は偏低している。廃水処理技術の研究に多額の投資をしている企業もあるが、排出基準の改善や排出要件の改善により、運営費が大幅に増加し、企業の運営意欲に大きな影響を与えている。

(3)工業園区の廃水処理プロセスは、適応性や運用効率も低い。さまざまな企業の廃水は、通常、工業園区で集中処理施設に排出される前に一定の前処理がされる。経済的な理由から、生化学的処理プロセスが好ましく、pH、温度、塩分、有毒物質、難分解性汚染物質などがある。生化学的処理ができない廃水の要因は、主に物理的および化学的処理プロセスを採用する。前処理後、工業園区の廃水処理施設に入る水質指標を満たさない廃水のほとんどは、生化学的方法で再処理される。工業園区内の廃水処理施設に排出される廃水は、生物分解で処理される。汚染物質は基本的にほぼ分解され、残りの大部分は難分解性汚染物質である。工業園区内の廃水処理施設は主に生化学的処理プロセスで設計されており、処理効果は当然良くない。これは企業と工業園区における汚水処理プロセス設計で統一された調整と最適化が欠如している。調査した工業園区内の汚水処理事業では、流入 COD が約 200mg / L、処理水 COD が約 100mg /L であり、生化システムの除去率が約 50%である、上記の分析から得られた結論では、企業の廃水処理方法と工業園区の総合廃水処理方法は、計画と全体的な最適化が不足しているため、非効率となっている。

(4)排出基準と評価指標は科学的合理性を欠いている。中国の工業廃水排出基準には、主に「統合廃水排出基準」(GB 8978)、「都市汚水水質基準に排出される汚水」(GB / T 31962)、工業排出基準、地方または河川流域の排出基準、および地方の環境保護機関が含まれている。管理監督要件など国の総合排出基準と業界排出基準は相互実施しないという原則に従い、通常は現行の状況下で厳格に施行されている。環境基準制度の改善と排出水質要件の段階的な改善により、一方で包括的な排出基準を実施するシナリオが少なくなり、他方で個別の排出に関する業界の排出基準または地方の基準が増えている。

工業園区内の企業は、都市下水に汚水水質基準で実施している。都市下水に排出される汚水に関する国家一級 B 基準と汚水総合排出 III 基準は、どちらも二次汚水処理施設を備えた都市下水の水質要件である。前者は業界標準に準拠し、一部の業界の BOD5 指標の緩和を除いて、優先的に実施する必要がある。一般に、後者よりも要件が厳しく、アンモニア窒素、全窒素、溶解性総個体等要件が引き上げられている。溶解性総個体は 2000 mg / L 以下である必要があり、多くの産業における工業廃水の溶解性総個体は 2000mg / L を超えており、化学、冶金、食品、その他の産業などの一部の廃水は 10000 mg / L をさらに超えている。この要件によれば、溶解性総個体の合計は 2000 mg / L を超える事は不可で、達成するのは極めて困難である。また、規格で溶解性総個体の目標値が提案されていても、実際の監督管理・評価では、廃水排出口に溶解性総個体や導電率などのオンライン監視装置が設置されていること皆無である。さらに、業界標準に記載されていない一部の企業に対し、地域の環境保護部門は一般に厳しい条件を要求し、「都市廃水処理施設汚染物質排出基準」(GB18918)または「表流水質基準」(GB3838)を参照としる実施を要求している。

そのような慣行は、盲目的に高い基準を追求し、適切性を欠き、主要で特徴的な汚染物質の不十分な管理につながる。さらに、工業廃水は複雑な成分を含むことが多く、一部の成分はまだに不明なため、排出口のオンライン監視機器に特定の干渉を引き起こし、データの精度に影響を与えることが頻繁にある。汚水処理施設の COD 基準を満たしていることを確認するために、一部のユニットはサンプリングの前にそれを追加している。特殊な酸化剤状態では、有機物を酸化する能力は非常に弱く、COD除去には影響しないものの、サンプルがオンライン監視装置に入り、重クロム酸カリウム法を使用して CODを測定する、反応は強酸性条件下で進行する。添加した酸化剤と有機物との反応は大きく、二クロム酸カリウムの消費量は比較的少ないため、排水のCOD が大幅に減少しているように見える。環境への大きな被害を防ぐため、この現象の拡大を防ぐため、厳重な監視と法執行を行う必要がある。製薬、化学、その他の工業園区の汚水処理施設は、多くの場合、塩化物イオンの濃度が高いことが原因で、COD オンラインモニターは実際のデータを測定できないため、施設の運用と監視に一定の困難をもたらしている。

(5)技術の研究開発への投資不足が、技術の進歩を遅らせている。中国における工業廃水処理の市場化程度は低く、技術を通じて市場での認知を得るのは容易ではない。多くの環境保護企業は、技術研究開発を実施する動機が不十分で、投資意欲が不十分であり、処理技術の進歩は、工業廃水汚染防止の要件に遅れをとっている。多くの場合、新しいタイプの工業廃水処理のニーズが発生すると、現行処理技術では対応と実践がされていな。ここ数年人目を引く高度な技術やプロセスなどは全く無く、独自のハイテクを持つ大規模環境保護会社は少なく、既存の汚染防止技術のアップグレードは遅れている。主要な国家投資プロジェクトの研究資金は少なくないが、それらはすべて集中しており、一般の中小環境保護会社が申請することは難しい。化学工業やゴミ浸出液など、高濃度、高塩分、難分解性廃水の既存高度処理技術では解決されていない。現有の処理技術は、多額の投資、高い運用コスト、不十分な安定性で、このタイプの廃水処理には最適なソリューションとなっていない。

(6)工業廃水再生の総合利用率は高くない。 廃水は見当違いの資源であり、中国政府は資源の利用率の改善をする必要性を繰り返し強調しているが、実際、中国の廃水のリサイクル率はまだ高くなく、先進国の 70%のリサイクル率と比べると大きなギャップがある。その理由は、人々の水利用の概念が時代に追いついておらず、「淡水であれば問題ないが、再生水は問題がある」との認識を持っている、第二に、中国政府は再生水重視を改善する必要がある。リサイクルを促進するための一連の方針が発表されているが、効果的なインセンティブがないため、再生水を使用できる業界を明確に定義する必要がある。再生水の使用基準をさらに細分化することが必要である。現在は「都市汚水再生利用」系列の基準のみである。工業企業の再利用基準は業界によって大きく異なり、分類し法制化と管理を強化する必要がある。

03 工業廃水処理に求められる対策

工業廃水処理の過程における一連の問題に対応して、汚染物質排出の単一濃度制御から濃度と総量制御の組み合わせへの変換を加速するために、汚染物質排出の最終処理から完全プロセス制御への変換を加速し、大幅に削減することが迫られている。中国は廃水の生産と排出の強度について、「政策の優先順位、発生源の防止、プロセス管理、最終処理、リサイクル、厳格な監督、基準に従った汚染排出」の戦略を策定する必要がある。

■筆者プロフィール:内藤 康行

1950年生まれ。横浜在住。中学生時代、図書館で「西遊記」を読後、中国に興味を持ち、台湾で中国語を学ぶ。以来40年近く中国との関わりを持ち現在に至る。中国の環境全般と環境(水、大気、土壌)に関わるビジネスを専門とするコンサルタント、中国環境事情リサーチャーとして情報を発信している。著書に「中国水ビジネス市場における水ビジネスメジャーの現状」(用水と廃水2016・9)、「中国水ビジネス産業の現状と今後の方向性」(用水と廃水2016・3)、「中国の農村汚染の現状と対策」(CWR定期レポ)など。

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