高野悠介 2021年1月25日(月) 16時20分
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デジタル人民元は、2020年10月の深セン市に続き、12月に江蘇省蘇州市で導入テストを行った。資料写真。
デジタル人民元は、2020年10月の深セン市に続き、12月に江蘇省蘇州市で導入テストを行った。オフライン、オンライン両方で行われ、実用化への期待が高まってきた。それでは、決済ツールとしてすっかり定着した支付宝(Alipay)、微信支付(WeChat Pay)はどうなるのだろうか。一方、続々と新しい企業が決済業務に進出している。現状と問題点の分析から、今後を見通してみよう。
■蘇州の実験…94.8%を消費
・テスト内容は進化、オンラインを追加した。
2020年12月10日蘇州市では、あるメッセージが10万人の当選者へ送付された。それにはデジタル人民元アプリをダウンロードし、200元(約3200円)の紅包(お年玉)を受け取るようにとあった。12月11日~27日、1万368店舗の実体店とネット通販・京東で利用できる。
受け取った人数は、9万6614人、全体の96.6%、実際の消費は1897万元、全体の94.8%に及んだ。2カ月前の深セン市との違いは、当選者数、有効期間、登録店舗数が拡大したこと、オンラインを追加したことだ。オフライン消費は1049万元、55.3%、売り上げトップ5は、来伊份(食品チェーン)、中国石化(ガソリンスタンド)、中国移動(電信)、大潤発(総合スーパー)、天虹商場(総合百貨)だった。今回初テストのオンライン消費は848万元、44.7%、これは唯一参加した京東の売り上げである。
課題は“双離線”と呼ぶ、通信状況が悪い場合の決済だ。これは支付宝、微信支付との決定的違いとされている。WEBなしスマホの電源だけで、本当に決済が可能なのか。もっと広範囲のデータ収集が必要という。
2020年12月末、北京のビジネス区にあるコーヒーショップで、デジタル人民元のテストが始まった。2020年4月に発表されたデジタル人民元の試験区は、深セン、蘇州、雄安、成都、及び北京冬季オリンピック想定区域だった。深セン、蘇州の成果を受け、北京でもテストが始まる。その先陣だろう。今後はどう展開していくのだろうか。
■喫緊の課題ではない(1)…すでにデジタル決済比率80%
・デジタル・チャイナの建設に、デジタル人民元の導入を急ぐ必要はない。
中国のデジタル決済比率は80%、すでに世界最高クラスだ。取引や、金融事業の発展にとって、すでに銀行券は不可欠の要素ではない。デジタル人民元の導入は、高齢者の支払い習慣など、残る課題のソリューションにならない。紙幣は、デジタル決済の補足として、まだ長期間存続するからだ。
国際的にも急ぐ必要はない。人民元の国際化とデジタル化には、複雑な国際金融、さらに政治問題まで含まれる。中央銀行発行デジタル通貨(CBDC)に関連する国際制度は未整備で、各国の金融システムに容易にアクセスできる環境ではない。
■喫緊の課題ではない(2)…高い技術的ハードル
・デジタル人民元の技術的要件は非常に高い。
デジタル人民元は、高度に集中化されたシステムで、セキュリティーのスタンダードは、すべてにわたって高い。悪意を持つ者に攻撃された場合、部分的な経済的損失にとどまらず、国の金融システムが危険にさらされる。紙幣の場合、偽札の製造能力には、物理的限界があるが、デジタルの場合、大規模な偽造に限界はない。
現行のデジタル決済は、単なる商業取引に過ぎない。一方、国家の信用、金融の安全を支える通貨としてのデジタル人民元は、万に一つもエラーは許されない。その導入には、高度に慎重であるべきだ。第14次五カ年計画(2021~25年)を通じて、ゆっくり浸透を図っていくだろう。
■新規参入…IT新大手ライセンス取得
・IT新大手、続々決済事業に名乗り
2019年のモバイル決済シェアは、支付宝54.4%、財付通(微信支付他)39.4%、アリババとテンセントで93.8%を占めている。
2社による寡占状態だ。それにもかかわらず2019~20年、IT新大手による決済ライセンス取得が目立った。生活総合サービスの「美団」、配車アプリの「滴滴出行」ネット通販の「京東」「拼多多」、ショートビデオの「バイトダンス」と「快手」、オンライン旅行の「携程」である。直近では、動画視聴の「bilibili」がビリビリペイを商標登録していることがわかった。今さら無駄のような気もするが、これはなぜだろうか。
支付宝、微信が他に類例を見ないスーパーアプリとなったのは、決済データを収集し、それを生かした金融商品があるからだ。IT新大手たちは、そう考えている。
■まとめ…支付宝、微信支付への攻囲網狭まる
デジタル人民元のテストは順調に進んでいるが、限定されたエリアと参加者に限られている。それに分析のように、直ちに導入を進める環境にない。2021年中に、支付宝、微信支付に取って代わるようなことはあり得ない。
ただしデジタル人民元の利用拡大により、今後のデジタル決済シーンの不確実性は増す。新IT大手たちは、あわよくば混戦になればと期待し、その時に備えていると考えられる。デジタル人民元と、決済ライセンスを取ったIT新大手たち、支付宝、微信支付は、この両方から攻囲される。そのときに備え、微信支付は、“双離線”の実験をしているという。先を見通すことは難しいが、何らかの変化が起こるのは間違いない。高次元のデジタル競争が展開されそうだ。
■筆者プロフィール:高野悠介
1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。
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