大串 富史 2021年1月28日(木) 10時20分
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中国人の僕の妻のもとに届いた、無料ワクチン接種開始の「良い知らせ」。「累計1000万回接種を超えて」おり、中国「国民のほぼ全員が免疫がない」ゆえに、ワクチン接種は全員が「受けなければならない」。
「ワクチンが来たわ、無料なんですって!わたしたちは受けるの?」
中国在住の僕らのところにも、先日ついに中国コロナワクチン接種開始の第一報が舞い込んだ。中国版LINEことウィーチャットメッセージによる、中国政府直々のお達しである。
日本の10倍以上の人口を擁する中国で、北京・上海・深セン・成都のような1線城市(一級都市)や新1線城市の青島(市街部)ならまだしも、農村にほど近いこんなところにまでこんな「良い知らせ」が届くのだから、こちらのお国の本気度というものがうかがわれる。
それで大変申し訳ないながら、「コロナワクチン『3つの副反応』リスクに免疫学の第一人者が警鐘 | ダイヤモンド・オンライン」あたりをさっそく読んでみる。
この「免疫学の第一人者」とは宮坂昌之氏(大阪大学免疫学フロンティア研究センター招へい教授)のことで、この先生の言うことは一般人の僕にとっても分かりやすい。
「ワクチンの場合は副作用ではなくて副反応という言葉を使います。ワクチンによる健康被害の多くは、免疫反応そのものによって起きるものだからです。その副反応には大きく分けると3種類ある。一つ目は即時に、接種して数日以内に出てくるもの、二つ目は2週間から4週間たってから出てくるもの、三つ目はワクチン接種者が感染した場合に出てくるものです。」
「(接種して数日以内に出てくる)ワクチンによるアナフィラキシー(全身に現れるひどいアレルギー)の頻度は、これまで開発されたワクチンでは100万回に数回というレベルでした。100万回に数回しか現れないような副反応は、(治験)では見えない可能性があるのです。」
「(2週間から4週間たってから出てくる)副反応の典型は、脳炎などの神経障害、それから末梢神経がまひするギランバレー症候群などがあります。(おたふくかぜのワクチンだと)100万回の接種に対して10回ぐらい起こる可能性があるといわれている(ものの)、ウイルスに感染すると、その約10倍の頻度で脳炎が起こり得る。リスクがあっても接種した方がいいということになります。」
「(ワクチン接種者が感染した場合に出てくる)副反応はADE(抗体依存性感染増強)と呼ばれ、ワクチン接種後に抗体ができ、その抗体のために新型コロナ感染症が悪化するというものです。この現象は感染の拡大、ワクチン接種の増加によって初めて見えてくるものなのです。」
つまり結論は、「ワクチンによる重篤な副反応の頻度は100万回に数回程度。現段階ではそのリスクについて早計に判断すべきではありません」とのこと。
それで一般人の僕が、速攻で足し算をしてみる。まず、1線城市に住む人の合計からだ。
約2150万人(北京)+約2420万人(上海)+約1250万人(深セン)+約1870万人(成都)=約7690万人
今回の接種対象者である18歳から59歳の人々の全人口に対する比率は、中国において約70%と言われている。
約7690万人(1線城市に住む人の合計)×0.7=約5383万人
このワクチン接種「第一波」で仮に上記の1線城市に住む人が約50人に1人の割合でワクチン接種を受けたなら、先生が言うところの「ワクチンによる重篤な副反応」があるかどうかが判明する。
だから結論的には「現段階ではそれら1線城市に住む人をわざわざ差し置いて、自分が自分がと早計に接種する必要はありません」となる。
だが実のところ、中国にて「外人居留者」な非中国公民である僕は今のところ、この「無料ワクチン接種」の「良い知らせ」の対象者ではない。
前のコラムにも書いたが、日中ハーフの娘が通う小学校からのお達しで「ワクチン接種の準備が整いましたので、全学生とその家族(つまり僕も含む)は速やかに病院にて接種証明を受け取り、学校に提出してください」となったら腰を上げればいい。
今のところ「自分たちの周りにコロナ感染者がほぼいない」僕らにとって、なんともまあ、気楽な話である。
それでもう少し、「免疫学の第一人者」の先生の仰られることに耳を傾けてみたい。
「ワクチンについてまだ分かっていないことは結構あります。そもそもウイルス疾患と免疫の関係は非常に複雑です。例えば、なぜ(ワクチンによる免疫の持続性の違い)が出てくるのか。本当のところはまだ分かっておらず、この謎を解いたらノーベル賞級です。」
以前のショート・ショートでも書いたのだが、「科学というのは基本的に、既に目の前にある自然とか法則とかを研究して、からくりを一部解き明かしたりうまく組み合わせたりといった話」に過ぎない。
「全くのゼロから何かを新たに作りましょうとかやっちゃいましょうとか、からくりが全部丸見えで自由自在に組み合わせてとかいう話じゃない。だから当然、からくりを見誤ったり勘違いしたりでうまくいかない、という場合が生じ」得る。そんなことは一般人の僕でも分かる。
簡単な言い方をすれば、「科学」という道具を使っているのが「人間」である限り、「科学」に「人間」の限界が反映されるのは致し方ない。それはちょうど「サル」に何か有用な「道具」を持たせたところで、その道具の使い方には「サル」の限界が反映されるのと同じである。
というか、僕の書いたショート・ショートの中のなんちゃって先生が言うのではなく、「免疫学の第一人者」の先生が、「まだ分かっていないことは結構あり、そもそも非常に複雑」と仰っておられるのだから仕方がない。
最近聞いた、日本で2、3年後に集団免疫獲得のような話にしても、ちょうど「今回の大雪は2、3日後には収まるでしょう」という天気予報的な統計また確率の話ぐらいに受け止めざるを得ない。
では仮にあと2、3年として、僕らは一体どうすればいいのか。
上述の記事の最後に先生は言う。「日本の感染状況では、私たちが他人にうつす感染者と出会う確率は、1万人に1回あるかないかです。一方で、ワクチンを接種して重篤な副反応が現れる頻度は100万回に数回です。私たちは、ワクチンのメリットとリスクを天秤にかけて判断しないといけません。」
「また、ワクチンは皆が接種を受けないといけないと迫るべきものではありません。個人の自由、個人の意思の下に受けるなら受け、受けたくない人は無理に受けなくていいとすべきものなのです。」
それでこの記事の最後に、在中一般日本人である僕の感想で恐縮なのだが、どうやら日本にいる皆さんは今のところ「1万人に1回」のロシアン・ルーレットに甘んじ、中国にいる僕らはもうすぐ「100万回に数回」のロシアン・ルーレットに甘んじることになりそうだ。
日本人の皆さんが甘んじて受け入れていらっしゃるのだから、僕も当然、甘んじて受け入れる。
おっとっと、今ウィーチャットの「良い知らせ」を見直したら、もう既に累計1000万回接種を超えているとあるではないか。
だが大変申し訳ないながら、「中国ワクチン外交に欧米は警戒-中国は『国際協調』と猛反発|NEWSポストセブン」あたりでさっそく確認してみる。
「シノファーム製のワクチンは7月中にほぼ完成。アラブ首長国連邦(UAE)が12月初めに世界で初めて同ワクチンを正式に承認した。」
「『世界で初めて』とは、中国でも承認されていないということを意味する。死者数、感染者数が東南アジア最多となったインドネシアは、12月中に中国・シノバック製のワクチン120万回分を輸入。さらに1月以降にも180万回分の輸入が決まっている。パキスタンも、シノファーム製のワクチン120万回分の購入計画を発表。ウクライナもシノバック社から180万回分のワクチンを購入する契約を結んでいる。東欧のハンガリーも同社のワクチンに強い関心を示していると伝えられる。」
それで一般人の僕が、再び速攻で足し算をしてみる。
120万回分(インドネシア)+180万回分(インドネシア)+120万回分(パキスタン)+180万回分(ウクライナ)=600万回分
おうおうおう。これは人間の人間による人間のための「良い知らせ」ではあるが、こちらのお国の本気度はやっぱり尋常じゃない。
■筆者プロフィール:大串 富史
本業はITなんでも屋なフリーライター。各種メディアでゴーストライターをするかたわら、中国・北京に8年間、中国・青島に3年間滞在。中国人の妻の助けと支えのもと新HSK6級を取得後は、共にネット留学を旨とする「長城中国語」にて中国語また日本語を教えつつ日中中日翻訳にもたずさわる。中国・中国人・中国語学習・中国ビジネスの真相を日本に紹介するコラムを執筆中。関連サイト「長城中国語」はこちら
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