松野豊 2021年2月18日(木) 10時40分
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米国のトランプ政権が次々と中国への制裁を発動し、バイデン政権になっても米中の摩擦は修復が困難な状況下にある。中国の友人からよく言われる言葉がある。写真は人民元。
米国のトランプ政権が次々と中国への制裁を発動し、バイデン政権になっても米中の摩擦は修復が困難な状況下にある。中国の友人からよく言われる言葉がある。「日本は、国家安全を米国に依存し、経済は中国に依存しているから、身動きが取れないですね」
日本経済は、果たして中国にどこまで依存していると言えるのだろうか。これに関しては、中国の識者が常々ステレオタイプのように指摘することがある。貿易額からみると、日本にとって中国は最大の貿易相手先であり全体の20%強を占める。米国とは約15%に過ぎない。また中国からみると日本は米国(約12%)に次ぐ第2の貿易相手先であるが比率は7%弱である。日中経済は相互依存しているが、日本の方が中国への依存度が高い。
日中の経済的結びつきが強いことは確かだ。しかし中国の一部の識者のように、それを貿易総額やGDPのような超マクロなデータを使って語ってしまうのは、あまりにも荒っぽい。日本経済が現在どの程度中国に依存しているのかについて、日本はもう少しきちんと分析を進めておく必要があると思う。
まず、近年急速に進んだグローバル経済下においては、2国間の物品貿易量だけで国家間の経済的な結びつきを評価することはできないことに留意しておきたい。
米国のトランプ前大統領は、米国の対中貿易赤字をやり玉に挙げ、中国に高関税を課して是正を迫った。しかし実際の対中赤字は、在中国の米国企業が生み出している部分も相当多い。今や2国間の物品貿易のバランスは、グローバル製造業の動きによって決まる時代になったのだ。
以前は、ある国で国際競争力の高い産業から生み出される製品が輸出され、またその国の産業が必要とする原材料やその国の消費者の購買意欲が高い製品が輸入されていたため、一国の貿易収支においては当該政府の産業政策がとても重要であった。
そのため先進国と新興国の間などで貿易不均衡が生じやすく、それが時として大きな問題になり政治的に解決する必要に迫られた。これが貿易摩擦である。この典型的な事例が1970~90年代の日米貿易摩擦であろう。日米は、繊維製品に始まり、鉄鋼、カラーTV、牛肉・オレンジ等の農産物から自動車、半導体に至るまで、あらゆる製品貿易で摩擦が生じたのである。
しかし日米貿易摩擦時代といえども、貿易を2国間収支だけで考えても問題は解決しなかったことに注目すべきである。発端は現在の米中貿易摩擦と同じく、米国の巨大な対日赤字であった。米国は日本に為替の自由化や日本政府の産業政策から日本の流通構造、企業経営に至るまで転換を迫り、日本は米国が指摘するかなりの部分を受け入れたのである。
円ドルレートは急速に円高に振れ、日本は業界団体が主導して自動車や半導体の対米輸出の自主規制まで実施した。だがそれでも日本の対米黒字は減少しなかった。その理由のひとつは、日本企業が急速な円高や輸出減少に直面して製造業の海外移転を進めたことであった。
貿易摩擦に際し日本企業が取った注目すべき戦略は、東アジアの新興国との「国際分業」だった。このように、2国間の貿易収支を2国間政府の産業政策だけで解決することは難しい。キーワードは、グローバル製造業の国際分業戦略なのである。
2012年に日中が領土問題で政治的な緊張関係が生じたとき、中国の識者の間には、日本の中国に対する貿易依存度のデータを持ち出して、日本への「経済制裁」を提言する人が少なからずいた。この時、中国政府の研究機関の幹部が筆者を訪ねてきてこう言ったことが忘れられない。「中国はレアアースなどの戦略物資の対日輸出を制限して、日本に経済制裁をしたい。これに対して日本側はどのような反撃を考えているのか、教えて欲しい」
この研究者も何かを感じ取ったのだと思う。当時日本の自動車産業は、中国のレアアースがないと基幹部品の生産に大きな支障をきたすことが想定された。しかし同時に日本から中国への基幹部品輸出が滞ると、中国の自動車メーカーの完成車生産に影響を与えることもわかったのである。
日中や日米のような先進工業国間の貿易摩擦を考える際に最も重要なことは、グローバル企業の国際分業なのである。次稿以降では、日中の貿易統計データを用いて国際分業等の観点から、日本経済の中国依存について分析を進めてみたい。
■筆者プロフィール:松野豊
大阪市生まれ。京都大学大学院衛生工学課程修了後、1981年野村総合研究所入社。環境政策研究や企業の技術戦略、経営システムのコンサルティングに従事。2002年、同社の中国上海法人を設立し、05年まで総経理(社長)。07年、北京の清華大学に同社との共同研究センターを設立して理事・副センター長。 14年間の中国駐在を終えて18年に帰国、日中産業研究院を設立し代表取締役(院長)。清華大学招請専門家、上海交通大学客員研究員を兼務。中国の改革・産業政策等の研究を行い、日中で講演活動やメディアでの記事執筆を行っている。主な著書は、『参考と転換-中日産業政策比較研究』(清華大学出版社)、『2020年の中国』(東洋経済新報社)など。
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