内藤 康行 2021年3月5日(金) 23時20分
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中国の出産率はすでに警戒線を下回り、人口の高齢化が加速し、人口危機が迫っている。 写真は南京。
中国の出産率はすでに警戒線を下回り、人口の高齢化が加速し、人口危機が迫っている。
中国共産党の公式メディアは2020年11月、全中国で最後の貧困省と言われた貴州省がすでに「貧困から解放」され、同省にあるすべての県も「貧困から解放された」と報じた。一方ある中国メディアは最近の出産率低下について、最も深刻な原因は、結婚ができず、子供を産育できなとことだと伝えている。1970年代から1980年代に生まれた人々に比べ、1990年代から2000年代に生まれた人々の収入が圧倒的に減少している。
中国共産党公安部は2月8日、「2020年全国姓名報告」を発表し、同報告では、「中国の出生人口は2020年に断崖絶壁型減少となり、出生人口はわずか1003万5000人で、前年比14.89%減少した。1949年以来で最も低い水準であり、出生率はすでに警戒線を下回っている。2020年の新生児数も激減、浙江省台州市で32.6%減、貴州省貴陽市で31.6%減、福建省厦門市と河南省信陽市ではさらにひどく50%以上も減少した」と述べている。
近40年の出生人口(単位万人) 資料出所:中国国家統計局
北京大学社会学部の陸傑華教授は、中国のメディアに対し、「人口は社会経済発展の基盤であり、全体的かつ戦略的な要素でもある。しかし現在、中国の出産率は年々減少しており、このような長期的出産率低下は全社会経済に重大な影響を及ぼす」と悲観的に述べている。
■一人っ子政策で引き起こされた人口構造の危機
中国の出生人口は断崖絶壁型減少となり、巷では活発な議論を引き起こしている。中国共産党は1979年から「一人っ子家族計画」政策を開始。同政策は長期にわたり男女比率の不均衡などの社会問題を起こした。データによると、中国の男女比は深刻なアンバランスにあり、将来、中国の独身人口は4億人に達する可能性がある。
「第一財経」の報道によれば、中国の結婚登録数は6年連続で減少し(6年で30%減少)、逆に離婚は年々増加している。統計では、2019年合計947万1000組のカップルが結婚登録し、415万4000組のカップルが離婚している。
北京大学光華管理学院の梁建章教授はかつて、「中国人の出産苦痛指数は恐らく世界最高であろう。その理由は住宅価格の高さ、育児費の高さ、教育費の高さにある」と述べている。
1970年代から1980年代の生まれの人々と比べ、1990年代から2000年代に生まれた人々の収入は大幅減少している。住宅購入と賃貸マンションで若者の可処分所得はほとんど空となり、中流家庭では子供の養育は耐え難い重荷となっている。
政府公式メディアの「新華視点」は、農村部の年配男性と青年が結婚できない状況に直面していると報道している。家、車、結納金の伝統的な三大問題と、新三種の神器(金の指輪、金のネックレス、金のイヤリング)が加わり、さらに「多男性と少女性」と言う根本的な問題があるとしている。
■中国では金持ちになる前に歳をとる
1956年、国連が発行した「高齢化とその社会経済的影響」の基準によると、国や地域で65歳以上の高齢者の人口が全人口の7%を超える場合、高齢化社会と規定している。
中国共産党国家統計局が2020年に発布した人口データによると、2019年の出産率は10.48‰減少、前年度比で0.46‰減少した。65歳以上の人口の比率は12.6%(前年比0.25%増の1億7603万人)に達し、60歳以上の人口は18.1%(0.64%増の2億5388万人)となっている。 0〜15歳の国民人口は2億4977万人で、総人口の17.8%を占める。
かつて国連は「世界人口の見通し」を予測し、2020年中国の年齢中央値は米国の年齢中央値を超えると推定したが、中国の収入中央値は米国の4分の1未満である。英紙エコノミストは「中国では金持ちになる前に歳をとる」と称し、中国が直面する現実であると指摘している。
「Economic Pulse」によると、中国は2000年では中高年10人で高齢者1人を支えていたが、2030年には4人で1人を支えることになり、2050年には悪化し2.2人で1人を支えることになる。しかし現在の住宅・教育・医療の高額費用、物価高騰を考えると、すでに高齢者を支える事は不可能な状況にあるという。
■中国の貧困世帯とアメリカの貧困世帯の比較
国連が採用している貧困ラインでは、1日当りの支出は1.9ドル(約200円)未満だが、2019年、中国共産党が発表した農村部の貧困レベルでは、1人当り年間収入3218元(約5万2550円。日当り8.82元(約144円)であり、国連が規定する貧困ラインをはるかに下回っている。
米国の貧困ライン基準は貧困家庭の現金収入のみで計算され、そこには住宅手当、牛乳代、育児費、12年間の義務教育、学校の給食(朝食、昼食費)無料、食糧補助金と医療福祉など、貧困層が享受するさまざまな手当は含まれていないものの、それでも多くの貧困層は家と車を持っている。
ボイス・オブ・アメリカは米国勢調査局と労働統計局のデータを紹介し、2019年、米国の貧困層の割合は10.5%で3400余万人だったが、新型コロナウイルスの影響を受けて、2020年の米国の実貧困人口は約4000万人となったと伝えている。
米国勢調査局の2020年の貧困ライン基準によると、独身者の年収は1万2760ドル(約134万5000円)未満で、4人家族の年収は2万6200ドル(約276万円)未満だった。米国の「極度貧困」人口とは、所得水準が上記の貧困ラインの50%未満であることを指している。
■まとめ
2016年から2020年までの5年間で、中国では年間出産数が44%も激減していることは、1.晩婚と結婚率の低下、2.住宅費の高騰、3.養育費と教育費の高騰、4.物価上昇に伴う収入減少で育成意欲減退――などが見える原因だが、それでもこの激減は尋常ではなく、見えない根本的な原因が他にあるかもしれない。この人口減少が長期化すれば中国の社会経済成長の甚大な阻害要因となり得る。
■筆者プロフィール:内藤 康行
1950年生まれ。横浜在住。中学生時代、図書館で「西遊記」を読後、中国に興味を持ち、台湾で中国語を学ぶ。以来40年近く中国との関わりを持ち現在に至る。中国の環境全般と環境(水、大気、土壌)に関わるビジネスを専門とするコンサルタント、中国環境事情リサーチャーとして情報を発信している。著書に「中国水ビジネス市場における水ビジネスメジャーの現状」(用水と廃水2016・9)、「中国水ビジネス産業の現状と今後の方向性」(用水と廃水2016・3)、「中国の農村汚染の現状と対策」(CWR定期レポ)など。
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