<コラム・莫邦富の情報潮干狩り>中国、6月までに国内ワクチン接種率40%を実現目標へ

莫邦富    2021年3月5日(金) 12時50分

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中国でもコロナ禍との闘いのなかで、注目を浴びた医師がかなりいた。写真は大連でのワクチン接種。

中国でもコロナ禍との闘いのなかで、注目を浴びた医師がかなりいた。なかでも現国家衛生健康委員会専門家グループ長を務める鍾南山医師と上海復旦大学付属華山病院主任医師の張文宏医師は特に広く知られている。

最近、張医師が新型コロナウイルスを予防するためのワクチン接種が普及した後の展望とやがて直面する問題点を提起した。

まず、張医師は英国などの実例を挙げながら、ヨーロッパのワクチン接種状況を説明し、今年9月頃までにヨーロッパのワクチン普及率はかなり高い基準に達するに違いない。そうなれば、来年(2022年)の春あたりからはおそらくコロナ感染問題が制圧され、世界経済も再び正常に動き出すことができるだろうと自らの予測を披露した。

■張医師が鳴らす警鐘

ロイター通信によると、2月8日時点で、すでにワクチン接種を開始した国の数は67カ国に上り、累計接種回数は1億回を超えた。

ワクチン接種率が最も高いのがイスラエルで、2回接種で計算した場合、全人口(約880万人)の28%がワクチンを接種した計算になる。

メディアの報道を総合すると、2月8日時点で、ワクチンを1回接種した人口比率を見ると、アラブ首長国連邦(39.95%)、イスラエル(39.59%)、英国(約16.89%)、バーレーン(10.73 %)、米国(9.05%)、マルタ(6.36%)、アイスランド(3.71%)、デンマーク(3.39%)、ルーマニア(3.37%)、ポーランド(3.17%)、アイルランド(3.08%)、スペイン(2.79%)、フランス(2.72%)、ドイツ(2.64%)、イタリア(2.34%)……となっている。

英オックスフォード大学の統計サイト「Our World Data」によれば、2021年2月8日時点の最新データでは、これまでのワクチン接種回数の絶対数で見ると、米国(3900万回)が1位になる。中国(3120万回)、英国(1198万回)、インド(578万回)、イスラエル(544万回)、アラブ首長国連邦(420万回)、ブラジル(340万回)、トルコ(260万回)、イタリア(252万回)、フランス(208万回)、スペイン(199万回)、カナダ(104万回)、インドネシア(91万回)などが続く。

しかし、張医師はこの統計にかなりの危機意識を持っている。これまでコロナ感染人数が少なかっただけに、中国は逆に他の国々よりコロナ感染にさらされる危険性が高いと指摘し、中国国内でのワクチン接種率のアップに早く力を入れなければならない。こうした最悪の局面を防ぐためには、今年の6月までに、中国国内のワクチン接種率を40%というレベルまで高めていかないと大変心配だと警鐘を鳴らしている。

張医師が示したワクチン接種率目標達成のタイムリミットは6月としている。ワクチン接種率のアップによりコロナ重症者の死亡率を現在の死亡率の十分の一にまで減らすことに成功したら、世界経済も個人旅行も正常に復活できるだろうとみている。

ほぼ同じ頃、鍾南山医師もオンラインフォーラムで、中国疾病予防コントロールセンター(中国CDC)がワクチン接種率を現在の約3.5%から6月末までに40%に引き上げる目標を設定したと明らかにした。

同じフォーラムで、中国CDCの高福主任も、中国政府は力強い経済活動維持のため感染対策を緩和し、小規模な感染発生を容認するという方針を示唆した。

■上海市の取り組み

こうした発言を裏付けるかのように、3月1日、上海市政府は7日の週から新型コロナウイルス向けのワクチン接種を全面的に展開させるという内部の通達を出した。それによると、上海市内の各区は接種会場をそれぞれ100カ所以上、浦東新区は150カ所以上を設けて、6月末までには、職業的に優先接種すべきすべての住民の接種を、9月末までには60歳以上の高齢者、11月末までには大学生などその他の住民、合計2000万人の2回目を含む接種を終了しなければならないという。

ちなみに今度の接種はすべて無料とするが、ただし、外国人や18歳未満の住民は現段階では、接種対象としない。

接種会場は三つの形態を想定している。一つは大型接種会場で、主に体育館や展示施設などに設ける。一つの区には少なくとも30カ所以上が設置される。二つ目の形態は病院など医療施設に設置される。ただし、外来患者とは隔離された空間に設けられる。三番目の形態は、特定の対象者に対する出張接種サービスである。例えば、刑務所の囚人などに対する接種サービスだ。

上海市政府の通達には、医師と看護師などの人員配備比例、副反応に対応する専門チームの規模、冷蔵庫やテーブルなどの家具・道具の整備、スローガンの統一、ごみの捨て方、個人情報の保護など、きめ細かい注意書きもいろいろと書かれている。事前準備の用意周到さが印象に残る。用意周到さだけではなく、スピード感も求められている。

その通達を実施するために、3月2日の夜に緊急会議を開き、3日から接種準備作戦を正式にスタートさせる。5日までに前期接種必要者の人数調査報告書を、8日までに各区政府に接種実施案を提出するといった作業時間表も決められている。

中国国内でコロナ感染拡大阻止の作戦を最も首尾よく進めてきた上海のこうした一連の動きを見ると、これからの作戦は完全にワクチンを主役にして展開する段階に入ったと受け止めていい。これは上海だけの作戦ではなく、中国全土、特に都市部全体の作戦と理解していいだろう。

中国側の公式報道によると、2月28日現在、中国国内ではワクチンが累計5200万回以上接種されている。前述したワクチンの接種数との整合性の問題が出てきたが、かなり接種した事実自体は変わりないと思う。海外においては、中国は69カ国と二つの国際機関にワクチンを提供し、28カ国にワクチンを輸出している。しかも、その輸出数はまだ増え続けている。

■ワクチン登場で高まる旅行願望

ワクチンがどんどん登場してくるのを見て、安心感が増したためか、それとも自由に行動できない日があまりにも長すぎたため、人々は非日常的体験や海外旅行などを普段より強烈に求めたくなる。

こうしたニーズに応えようとして、国際航空運送協会(IATA)は、海外渡航者の新型コロナウイルス検査やワクチン接種の記録を一括的に管理できるスマートフォンアプリ「トラベルパス」の運用を3月末から始める。そうなると、搭乗や入国の際に、感染の有無などを確認する手続きが簡単になり、海外渡航者の利便性を大幅に向上させることができる。シンガポール航空、ニュージーランド航空、エミレーツ航空、カタール航空、エティハド航空、マレーシア航空などが導入し始めた。

一方、米国のユナイテッド、ジェットブルー、ドイツのルフトハンザなどは、世界経済フォーラムが主導して開発したスマホアプリ「CommonPass app」を、デンマークと英国はそれぞれ独自に「デジタル・ワクチンパスポート」を導入しようとしている。

航空業界のこうした動きと呼応するかのように、海の旅行の代表格であるクルーズ船の動きもなかなか興味深い。

例えば、オーシャニアクルーズ社が売り出したクルーズ船「インシグニア(MS Insignia)」号の2023年世界一周旅行は、33カ国96の港を訪問する予定で、所要時間は半年間に及ぶ180日間もかかる。一番安い料金でも4万2000ドル(約450万円)だったが、今年1月27日に、販売を開始したら、わずか1日で完売した。

その他のクルーズ会社の類似企画も同じようにかなり人気を集めている。コロナ禍のため、旅行に対する欲望が1年間以上も抑制されていたため、一気に爆発しそうな気がする。クルーズ会社にとっては、こうした動きは待ちに待っていた朗報だ。だから、ワクチンへの目線には、航空会社に負けないような情熱と期待を燃やしている。安全かつ自由に行動できる日常生活と経済秩序の復活を、全世界の人々は首を長くして待っている。中国だけではなく、世界のワクチン接種率40%という目標はいつになったら達成できるのだろうか。

■筆者プロフィール:莫邦富

1953年、上海市生まれ。85年に来日。『蛇頭』、『「中国全省を読む」事典』、翻訳書『ノーと言える中国』がベストセラーに。そのほかにも『日中はなぜわかり合えないのか』、『これは私が愛した日本なのか』、『新華僑』、『鯛と羊』など著書多数。
知日派ジャーナリストとして、政治経済から社会文化にいたる幅広い分野で発言を続け、「新華僑」や「蛇頭」といった新語を日本に定着させた。また日中企業やその製品、技術の海外進出・販売・ブランディング戦略、インバウンド事業に関して積極的にアドバイスを行っており、日中両国の経済交流や人的交流に精力的に取り組んでいる。
ダイヤモンド・オンラインにて「莫邦富の中国ビジネスおどろき新発見」、時事通信社の時事速報にて「莫邦富の『以心伝心』講座」、日本経済新聞中文網にて「莫邦富的日本管窺」などのコラムを連載中。
シチズン時計株式会社顧問、西安市政府国際顧問などを務める。

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