香港、新型コロナワクチン接種で波紋

野上和月    2021年3月19日(金) 18時0分

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香港では2月下旬から始まった新型コロナウイルスのワクチン接種で、接種数日後に死亡するケースが複数出ていることが波紋を呼んでいる。

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香港では2月下旬から始まった新型コロナウイルスワクチン接種で、接種数日後に死亡するケースが複数出ていることが波紋を呼んでいる。ワクチン接種の専門家委員会は、いずれの死因もワクチンの接種とは直接関係ないと報告しているが、安全性への不安から接種の予約取り消しが相次ぐ事態となった。こうしたなか、香港政府は、240万人を対象に始めた優先接種を、3週間もしないうちに2倍以上の550万人に拡大。集団免疫獲得に向けた接種者数の引き上げに躍起となっている。

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香港では2月26日から、外国籍も含めて香港身分証を保有する市民向けに、ワクチン接種計画が始まった。接種は任意で無料。まず60歳以上の高齢者、医療従事者、老人ホームの入居者と従業員など、感染リスクが高い市民約240万人を優先した。接種場所は、政府指定の公共施設や診療所、一部の民間医療機関。希望者は場所やワクチンを選んで予約する。接種後は接種証明書が発行される。

ワクチンは、(1)中国製薬大手、科興控股生物技術(シノバック・バイオテック)製(2)中国製薬大手の上海復星医薬(集団)とドイツのバイオ医薬品企業ビオンテックの共同開発(3)英製薬大手アストラゼネカとオックスフォード大学の共同開発—の3つだ。香港政府はそれぞれから各750万回分を調達する合意を取り付けた。いずれも1人2回の接種が必要なので、1125万人分となるが、人口750万人の香港では全員接種しても十分おつりがくる量だ。3月18日現在、シノバック製100万回分とビオンテック製134万回分が到着している。アストラ社製の第一陣は第2四半期に届く予定だ。

接種計画が始まる前、シノバック製は、公開データが少なく安全性を不安視する声もあった。しかし、林鄭月娥行政長官を筆頭に、政府高官らが率先して同ワクチンを接種。安全性をアピールして、市民に接種を呼びかけた。多くの場所が瞬く間に予約で埋まり、滑り出しは好調だった。

ところが、接種計画開始から5日後、シノバック製を打った63歳の男性が接種2日後に死亡していたことが伝えられると状況は一転。男性は糖尿病と高血圧、心臓病を患っていて、重度の心筋梗塞と肺浮腫を引き起こし、呼吸不全で死亡した。その6日後には、長年高血圧や脂質異常症などを患っていた55歳の女性が、接種3日後に急性脳卒中となり翌日に亡くなるなど、接種計画が始まって2週間余りの間に、シノバック製ワクチンを接種した後に亡くなるケースが7例発生した。年齢は55歳~80歳で、71歳の男性以外は、いずれも高血圧や糖尿病、脂質異常症などの慢性疾患があった。専門家委員会は、死因は全てワクチンとは直接関係がないと初期報告をした。(ビオンテック製は3月に入って接種が始まった。副反応で病院に搬送されるケースは出ているが、3月18日現在、接種後の死亡例は出ていない。)

政府や専門家委員会がワクチンは安全だと発表しても、とりわけ高齢者や慢性疾患を持つ市民の不安と疑念は払拭できない。予約したワクチン接種に来なかったり、キャンセルしたりする人が相次いだ。高齢者に対するシノバックの接種中断を求める声もあがった。しかし、政府は、「ワクチンで得る恩恵はリスクを上回る」と計画の継続を強調。慢性疾患など体調に不安がある市民は、かかりつけ医に相談して、接種すべきか判断するよう呼びかけた。

これに対して地元紙は、「かかりつけ医などいない」、「医師に相談する経済的余裕がない層もいる」と言った市民の不満や、「ワクチン情報が少なく、判断しかねる。政府は接種の判断基準をガイドライン化して欲しい」と訴える民間病院の医師の声などを伝えた。市民の間ではワクチンそのものへの不安だけでなく、政府の対応への不満も渦巻いていたのだ。

政府は、医師の参考指標となる臨床ガイドラインを発行する一方で、低迷する日々の接種や予約状況にたまりかねて、3月9日から新たに旅行業界や飲食店関係者、教員など130万人を優先対象に加えた。それでも1日の接種者は数千人程度しか増えなかったため、1週間後の16日から「30~59歳の香港市民」、「香港域外で就学している16歳以上の学生」、「メード(家政婦)」も加え、対象者を一気に550万人まで拡大した。

果たして、16日から3日連続で、1日の接種者が2万人を超え、18日現在、接種者の累計は約27万6600人(うち約20万1500人がシノバック、約7万5100人がビオンテック)となった。今後、海外旅行のためには予防接種が必要になると見越した若者の間で、「ワクチンの在庫があるうち予約しないと」という動きも出てきたほどだ。

一日も早く新型コロナを抑え込み、以前のような経済活動や日常生活に戻りたいというのは全民共通の想いだ。今後、海外旅行や社交活動をしたい若者や、接客や移動が多い働き盛りの市民など、ワクチン接種を受ける人は増えそうだ。ただ、「同世代のワクチンの副反応を見てから」と、慎重な態度をとる若者・中年層が少なくないのも事実。政府は、安全性の連呼だけでなく、科学的根拠など客観情報を積極的に提供し、市民に予防接種の効果とリスクへの理解を深めてもらうことこそが、多くの市民に予防接種をしてもらい集団免疫の獲得につなげる一番の近道だと思う。(了)

■筆者プロフィール:野上和月

1995年から香港在住。日本で産業経済紙記者、香港で在港邦人向け出版社の副編集長を経て、金融機関に勤務。1987年に中国と香港を旅行し、西洋文化と中国文化が共存する香港の魅力に取りつかれ、中国返還を見たくて来港した。新聞や雑誌に香港に関するコラムを執筆。読売新聞の衛星版(アジア圏向け紙面)では約20年間、写真付きコラムを掲載した。2022年に電子書籍「香港街角ノート 日常から見つめた返還後25年の記録」(幻冬舎ルネッサンス刊)を出版。

ブログ:香港時間
インスタグラム:香港悠悠(ユーザー名)fudaole89

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