八牧浩行 2021年4月30日(金) 5時0分
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ADBの沢田康幸チーフエコノミストが記者会見、2021年のアジア新興国のGDP前年比伸び率が7.3%になるとの見通しを明らかにした。コロナ禍からいち早く脱した中国が「アジアの時代」をけん引している。
2021年4月28日、アジア開発銀行(ADB)の沢田康幸チーフエコノミストが日本記者クラブで会見し、2021年のアジアの新興国(アジア太平洋地域の46カ国・地域)の国内総生産(GDP)の前年比伸び率が7.3%になるとの見通しを発表した。22年については5.3%となると予想。20年にマイナス0.2%に落ち込んだ反動で、19年(5%)の伸びを上回るという。コロナ禍からいち早く抜け出た中国が「アジアの時代」をけん引している。
新興各国の消費や輸出が持ち直したためだが、インドなど感染が再拡大する国もあり、経済の落ち込みが長期化するリスクは残るという。沢田氏は「感染再拡大や新型コロナワクチンの接種計画の遅れなどパンデミック(世界的な流行)がなおリスク要因となる」と語った。
ADBは経済見通し報告書の中で、新型コロナの感染再拡大やワクチン接種の遅れなどで移動の混乱が長引き、地域の経済活動が停滞する恐れがあると指摘した。沢田氏は「アジア新興国では全般的に成長の勢いが増しているが、新型コロナの感染再拡大はパンデミックが依然として脅威であることを示している」と警告した。また、地政学的緊張や政治的混乱、生産のボトルネック、金融の混乱、学校閉鎖による学習機会損失の長期的な悪影響なども回復のリスクになると明かした。
アジア新興国全体のGDP拡大の最大の要因は、経済規模が大きい中国で輸出や消費の改善が続いていることが大きいという。20年に主要国で唯一プラス成長を確保した中国の21年の成長率は8.1%となる見込み。前回予想は7.7%だった。中国の22年の成長率は5.5%に鈍化すると予想した。アジア新興国の対中輸出は増大している。
インドの成長率は21年に11%、22年に7%を見込んでいる。マイナス8%と大幅にダウンした20年に比べ企業の生産活動が一定水準で回復しつつあるという。ただ、インドは変異型ウイルスの広がりを受け、1日当たりの新規感染者数が過去最悪水準となっている。
東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国に東ティモールを加えた東南アジア地域の21年のGDP成長率はコロナ前の19年と同水準にとどまる。この地域の21年の成長率見通しは4.4%に下方修正した。2月のクーデター後の大規模デモやストライキ、他国の制裁措置などで打撃を受けているミャンマーはマイナス9.8%と大幅ダウンが見込まれる。新型コロナの感染が拡大する前の19年のプラス6.8%、20年の同3.3%と比べて大幅に落ち込む。東南アジアでも感染が再拡大しており、カンボジアやラオスが首都などでロックダウン(都市封鎖)に踏み切り、行動制限も広がっている。
沢田チーフエコノミストは東南アジアでは新型コロナの感染者が再び増加している国があり、先進国に比べワクチンの確保や接種が十分でないことが、経済回復の鈍さに繋がっていると懸念。「特に東南アジアの中で経済や人口規模が大きいインドネシアやフィリピンなどで消費行動の回復に欠けている」と指摘した。
GDPの7割以上を消費が占めるフィリピンは、変異型のウイルスの感染を抑制するため3月末から再び厳しい行動制限を実施している。賑わっていたショッピングモールは閑古鳥が鳴き、交通量も大幅に減った。世界各国・地域での移動制限が続けばタイの観光業にも痛手となるという。
アジア新興国のインフレ率は、食品価格の上昇圧力が和らぎ、20年の2.8%から21年は2.3%に低下する見通し。ただ、22年には2.7%に上昇すると予想されている。
また今後の懸念材料として、(1)変異ウイルスが蔓延している新型コロナ感染、(2)米中対立の行方―を挙げた。ただ「米中間の貿易が拡大するなど両国経済は相互依存関係にある」と指摘。アジア全体経済への影響は軽微にとどまるとの見方を示した。
■筆者プロフィール:八牧浩行
1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。
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