<火星探査機>宇宙開発は米中協力で!上海交通大学講演での熱狂を想起―立石信雄オムロン元会長

立石信雄    2021年5月23日(日) 7時0分

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中国の探査機が火星への着陸に成功した。着陸は旧ソ連、米国に続き3カ国目。表面の探査は米国に続いて2カ国目となるというから長足の進歩である。上海交通大で講演した際の学生たちの「熱い思い」を想起した。

中国の無人探査機が4月15日に、火星への着陸に成功した。火星探査機の着陸は、旧ソ連、米国に続き3カ国目。表面の探査は米国に続いて2カ国目となるというから長足の進歩である。

2020年7月に打ち上げた火星探査機「天問1号」で探査車「祝融号」を積んだ一部が分離し、火星の北半球の「ユートピア平原」に着陸した。機体の表面が高温になるなどの困難を乗り越えた。祝融号は地表の成分や環境などを探査する。カメラやレーダーを備え、データを火星軌道上の天問1号を経由し、地球に届ける仕組み。中国は宇宙開発を推進し、米国と対抗できる「宇宙強国」を目指すという。

このニュースは中国国内に大々的に伝えられ、国民大衆が沸き立った。私はこの熱狂ぶりをテレビ画面で観て、中国が有人宇宙飛行に初めて成功した2003年10月16日、上海交通大学で講演した際の学生たちの「熱い思い」を想起した。

講演の冒頭、有人宇宙飛行成功へのお祝いの言葉を述べると、学生たちから大きな拍手がわいた。聞いてみると、教授も含め皆朝5時に起きてテレビに見入っていたとのこと。上海交通大学は江沢民氏の母校でもある有力大学であり、宇宙飛行プロジェクトにも多くの卒業生がかかわっている。当時、新型肺炎(SARS)騒ぎで少し沈滞気味だった雰囲気を一気に振り払い、国民に自信と誇りを与える歴史的な瞬間だったことは、学生たちの自信に満ちた顔を見てもはっきりと感じ取ることができた。

この時の講演会では、世界的に関心が高まりつつあったユニバーサルデザインをメーンテーマとして採り上げた。これまでは日本の経済発展の要因や最近の製造業の動向を紹介してきたが、今回の聴衆が理工系の学生であることも踏まえ、設計・デザインという分野における最新のトピックとして紹介することにしたのである。

ユニバーサルデザインという分野は、当時中国ではまだあまり一般化していない概念で、中国語にもそれに相当する言葉は定まっていないとのことだった。一応「汎用設計」や「通用設計」といった言葉がそれに当たるようである。

講演後、「ユニバーサルデザインは結局障害者のためではないのか?」「なぜ企業がそのようなことに取り組むのか?」「どのくらいコストがかさむのか?」など、学生から次から次へと率直な意見や質問が飛んできた。いつものことながら新しいことを貪欲に吸収しようという強い意気込みが感じられた一方、やはりこの分野についての議論は、中国ではまだこれからという感触であった。

その後中国経済はほぼ10%前後の成長を達成、2008年の米リーマンショック時の大規模投資は「世界恐慌の危機」を救い、世界第2の経済大国に成長した。安定成長に減速したものの、日米欧など先進国が低成長にあえぐ中で、6%台の成長を維持、中国の経済発展は著しい。新型コロナ感染による世界的な経済失速からいち早く脱し、世界経済をけん引している。

一方で、沿海部と内陸部の経済格差や都市内部での貧困問題、環境問題など、さまざまな問題を抱えていることも事実である。日本や欧米の先進諸国が段階的に遭遇してきた諸問題に、中国はグローバリゼーションという大きな潮流の中で、高度成長と同時に直面していると言える。単に物質的な豊かさだけでなく、精神的、文化的な豊かさが得られない限り、持続的な発展は望めないことは言うまでもない。

経済発展が再び軌道に乗り、宇宙分野の発展などで国威も大いに発揚された今、中国はソフト面の充実という新たな発展の段階に差し掛かっている。社会的な諸課題の克服が待ったなしである。

中国は2019年1月に、月の裏側の撮影にも世界で初めて成功した。これに続く今回の火星軟着陸と探査であり、火星の表面の写真も送られてきた。宇宙における米中競争も激化しそうだが、宇宙での対立は何としてでも回避すべきである。宇宙開発は「平和と協力」を主眼に推進するよう切望したい。

<羅針盤篇64>

■筆者プロフィール:立石信雄

1959年立石電機販売に入社。1965年立石電機(現オムロン株式会社)取締役。1995年代表取締役会長。2003年相談役。 日本経団連・国際労働委員長、海外事業活動関連協議会(CBCC)会長など歴任。「マネジメントのノーベル賞」といわれるSAM(Society for Advancement of Management)『The Taylor Key Award』受賞。同志社大名誉文化博士。中国・北京大、南開大、上海交通大、復旦大などの顧問教授や顧問を務めている。SAM(日本経営近代化協会)名誉会長。エッセイスト。

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