大串 富史 2021年6月9日(水) 20時20分
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「5月中なら無料で接種できますから、どうぞお早めに」との情報を聞きつけたのか、口コミでワクチン接種会場を突き止めたのか、朝8時半に中国・中医院のワクチン接種会場に到着した僕らの前に並ぶ数百人の市民。
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先日「『実際、中国のワクチンどうだった?』現地在住の日本人に聞いてみた | DOL特別レポート | ダイヤモンド・オンライン」という記事を見かけたものの、そのまま読まずにいた。
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中国現地在住の日本人である僕にとって、ごめんなさい、全く読む必要がない記事だと思ったからだ。
その時点で僕は、まだ中国のワクチンを打っていなかった。
それはなぜか。僕らの住む小区(日本の公団住宅の街区のようなもの)は登録をしてから打ってください(登録なしで現地で打てる小区もある)とか、外国人は100元(日本円にして約1500円)かかりますとか(中国の物価は時に日本の2分の1から5分の1だったりする)、中国人の妻と共に妻の田舎の農村(50km先の農村に定期的に妻の母親を見に行く)で妻と共にワクチンを打とうとしたら到着した時点でワクチン切れだったとか、まあ理由はそれなりにあるのだが、一番の理由は上述の記事の中にも書かれている。
それはつまり、「そもそもコロナはもう収束しているため、地元の人々は受けなくても大丈夫と思っている人が多いようだ。それにワクチンの接種を受けなくても、別に生活が不自由になることはない。問題なくショッピングモールやオフィスビルに入ることができる」からにほかならない。
ところが妻の携帯に居民委員会(居委会)から連絡が入り、「5月中なら無料で接種できますから、どうぞお早めに」とのこと。
先にご紹介した記事にもあるが、「一般の人々の接種にあたっては、『強制的』ではないが、なんとなく『勧められているような雰囲気』があるという。接種を進めるための施策は地域によって異なるが、(あの手この手の)サービスで、接種率向上を目指している」という一環なのだろう。
そんなわけで連絡のあったその翌々日に早速、未接種だった中国人の妻と共に接種を受けに行ってみた。
朝8時半に中医院のワクチン接種会場に到着:「中医院」というのは中国全国どこにでもある3大公立病院(もう二つは一般病院の人民医院と産科婦人科病院の婦幼保健院)の一つで、中医つまり中国医学の総合病院のことである。いつもであれば針灸や漢方でお世話になるだけであるが、まさかこんなところに接種用ワクチンがまだあったとは。
というのも居民委員会からは会場についての情報が特に知らされなかったからだ。それで電話の翌日にハーフの娘の通う小学校横の児童ワクチン接種会場に赴いたところ空振りで、路上で見かけた直近のワクチン接種会場に行ったらワクチン切れだと言われてしまった。
ところがその夜になって娘の同級生の母親つまり妻のママ友からワクチン接種会場を突き止めたとの電話が入り、急きょ諸々の予定を変更して会場に駆け付けたというわけだ。
聞けば、今回確保されているワクチンは700本。いやー今回も滑り込みセーフだったなー、と自分では思っていた。
ところが歩いて会場に近づいてみると(近くに車が止められそうもないと判断し途中から歩いて行った)、既に数百人が並んでいるではないか。
ちなみに中国には日本のような行列文化がない。中国に住む僕らにとっては行列イコール時間の浪費イコール出直しというのが常なのだが、今回ばかりはそんなことを言っていられない。
それで列の最後尾に並ぶ。前に並んでいた女性が「あんたそれ売ってるの?」と声を上げたので見てみると、携帯用のプラスチックのイス(風呂場で使うイスのような感じのもの)をちゃっかり売りに来ている人もいる。さすが中国の人たちは商機を少しも逃さない。
門前で並び待つこと2時間、会場内に入る。既に相応に日差しが強い中ずっと立っていたので、僕も妻もややへろへろである。順番が来たのでパスポートを見せると外国人は100元と言われ、やっぱりそうなんだと少しがっかりする。
ところが宣誓書に署名してから、当地では外国人への接種をまだ開始していません(というか僕が外国人接種希望者の第1号だったらしい)と言われてしまった。
それで妻の接種が終わるまで車の中で待機する。時間はもう既にお昼を回っており(妻は接種後に30分の経過観察があった)、娘のお昼のお迎えはママ友のご主人(ママ友のその人は一緒にワクチンを接種した)が代わりにしてくれたとのことで、妻と共に近くの中華ファストフード店で簡単に昼食を済ませる。
では実際、中国のワクチンはどうだったのか。中国人の妻に副反応がなくほっとしている。え?僕ですか?まあ、様子見でしょうか。
何をそんな呑気なことを、と言われるだろうか。というのも、先に引用した記事の「現地在住の日本人」らは言う。
「われわれ中国にいる人間は、中国のコロナ対策は功を奏したと感じている。日本の本社や知人などからよく心配されて『大丈夫ですか、気を付けてね』と言われて、ありがたいと思うが、『日本のほうが危ないんじゃない?』とつい言いたくなる。」
「中国のコロナの収束という事実を、日本にいる日本人は認めないようだ。ただ実際、今の上海では、人が密集しているイベントでもマスクをしてない人が多い。そういう情景を見ると、これが現実だと思う。」
「日本の皆さんに申し訳ないが、ほぼ毎晩遅くまで飲み歩いている人も少なくない。飲食店は明け方まで営業して混んでいるしね。日本とまるで違う世界にいる気分だ。」
「今、世界中で中国は一番安心な場所。」
誤解しないでいただきたいのだが、僕は以前の記事の中で既に「僕らのハーフの娘が日本を過度にうらやむことも中国を過度に礼賛することもない大人へと成長してほしい」と公言している。僕自身も中国を礼賛するつもりは毛頭ない。
なぜならその記事でも書いた通り、中国のコロナ収束の現実と監視社会の現実とは表裏一体なのだから。
ある読者は既にお気付きかもしれないが、居民委員会から僕の中国人の妻にわざわざ連絡があること自体、日本人や日本社会にとっては異質である。
ある日突然お役所から僕の携帯に「あなたまだ接種してませんよね?今なら無料でワクチン接種できますよ、いや強制じゃないんですが」みたいな電話がかかってくるところを想像してほしい。
とはいえ今のところ、ともかく自国で自前のワクチンを開発し、「(2022年冬季)北京オリンピックに向けて中国政府が一生懸命にラストスパートをかけて」接種を推進し、やがては日本人の僕にもワクチンが供給できる(たぶん)といった正の側面が強い。
ワクチン本体は恐らく安全度も高く、もしオリンピック開催となれば今回の隔離政策の経験をフル活用し、統制が及ばない外国人の選手団はともかく自国民には絶対に感染させないくらいのことはできそうだから、(たぶん)正の側面が続いていくのだろう。
ある日突然居民委員会から僕の携帯に「あなた外国人ですよね?ワクチン接種の準備が整いましたから早く接種したらいいですよ、いや強制じゃないんですが」みたいな電話がかかってきたとしても、まあこれも正の側面ということか。
一方で、負の側面についてはどうなのか。
「負の側面?そんなものはないです。引き続き諸々監視はさせていただきますが、外国人やハーフの子どもたちへの強制はないです。いや自国民にだって、強制なんか何もないですよ!」となってくれるよう、ただただ願ってやまない。
■筆者プロフィール:大串 富史
本業はITなんでも屋なフリーライター。各種メディアでゴーストライターをするかたわら、中国・北京に8年間、中国・青島に3年間滞在。中国人の妻の助けと支えのもと新HSK6級を取得後は、共にネット留学を旨とする「長城中国語」にて中国語また日本語を教えつつ日中中日翻訳にもたずさわる。中国・中国人・中国語学習・中国ビジネスの真相を日本に紹介するコラムを執筆中。関連サイト「長城中国語」はこちら
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