<世界通貨覇権争い>中国「デジタル人民元」、北京五輪までにスタート=米ドルの牙城崩れるか

八牧浩行    2021年11月3日(水) 7時50分

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中国は「デジタル人民元」の発行準備を進めている。その狙いは(1)米国の通貨覇権への挑戦(2)技術覇権、デジタル標準での争いに勝つこと―などで、2022年2月の北京五輪までの発行を目指す。

「デジタル通貨」や「決済システム」といった概念はとっつきにくいが、中国は世界に先駆けて「デジタル人民元」の発行準備を進めている。その仕組みや狙いなどについて、木内登英・野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストが日本記者クラブで講演した。中国のデジタル人民元の狙いについて(1)新型デジタル通貨リブラなど民間デジタル通貨への対抗(2)米国の通貨覇権への挑戦(3)技術覇権、デジタル標準での争いに勝つこと―などを列挙。2022年2月の中国・北京五輪までの発行を目指しているという。

木内氏は元日本銀行政策委員会審議委員で、デジタル通貨に詳しく『銀行デジタル革命 : 現金消滅で金融はどう変わるか』(東洋経済新報社、2018年)などの著書がある。

木内氏の講演要旨は次の通り。

フェイスブック由来のリブラが開けた「パンドラの箱」

 

デジタル通貨が、自民党や日銀で真剣に検討されている。きっかけは中国によるデジタル人民元の取り組みである。2019年6月に発表された新型デジタル通貨「リブラ」(現ディエム=米フェイスブック由来)計画を起点とする「ドミノ倒し」状態で、中央銀行デジタル通貨発行の機運が高まっている。「パンドラの箱」が開いたと言うこともできる。

ユーロ圏は今年7月に中銀デジタル通貨発行のプロジェクトを正式に開始した。発行は2020年代後半となる見込みである。日本と米国の金融当局は発行に慎重姿勢だったが、米国では前向きな動きも出始めた。日本は政府が前向きだが、日銀は様子見の姿勢である。

中銀デジタル通貨は民間通貨と異なり社会インフラとして発行されるので、信用力が格段に高いのが特徴である。デジタル通貨のほか現行の現金流通も維持されるため(裏付けも得られ)セキュリティが確保され安定的である。

こうした中、中国はデジタル人民元構想を積極的に推進している。2014年にデジタル人民元の研究を始め、2016年には中期的に発行する考えを明らかにした。その狙いは(1)新型デジタル通貨リブラなど民間デジタル通貨への対抗(2)米国の通貨覇権への挑戦(3)技術覇権、デジタル標準での争いに勝つこと―などである。2022年2月の中国・北京五輪までの発行を目指している。

中国にとってデジタル人民元構想の目的は、遅れている中国人民元の国際化の推進である。

中国は世界貿易分野では米国を超えたが、金融通貨分野では大きく遅れ、国際決済に占める人民元取引の割合はわずか2%程度。ドルの比率は93%程度で大差がついている。米国の経済規模(GDP)は世界の26.6%に過ぎず、2020年代半ばには中国に抜かれると予測されている。

米国はSWIFT(国際銀行間通信協会)を通じて世界の資金の流れを把握、他国への金融制裁も実施している。いざとなれば、米国は中国によるドル調達をストップできる。どこかでドルが調達できなくなったら、(中国は)貿易も成り立たなくなる。そうなれば(米欧日など)西側陣営も無傷ではいられない。ドル資産の買い手である中国の需要がなくなれば、ドル暴落の可能性もある。

米国の金融支配への対抗手段が、デジタル人民元である。周辺諸国も視野に入れたこの構想は、米国の支配から逃れていこうという狙いが恐らくあるのではないか。民間のデジタル・プラットフォーマーが金融分野を支配することを未然に阻止する狙いもあるようだ。決済アプリのアリペイを提供する金融プラットフォーマーのアント・グループ(アリババ傘下)などが、伝統的な金融機関のビジネスを圧迫しながら巨額の利益を挙げ、独占状態を築き上げてきたことを強く牽制する狙いがあると考えられる。

一方、デジタル通貨のクロスボーダーの利用が世界に広がれば米経済・金融の優位性が低下するため、デジタル人民元発行には米の金融覇権を低下させる中国の狙いもある。

◆「一帯一路」を中心に人民元通貨圏拡大狙う

中国は一帯一路国を中心に中国経済圏・人民元通貨圏構想を展開しており、将来世界経済は2つに分裂する可能性もある。中国の一帯一路に参加している国は2016年末で65カ国。世界のGDPの31%を占める。その中で中国のGDPの構成比は約32%だが、上記の基軸通貨の影響力の係数1・8倍を掛けると、同経済圏での外国為替市場での人民元の構成比は57%になる計算。さらに世界全体の中での構成比を計算すると約18%に達する。

この結果、世界全体の外国為替市場での人民元の構成比は2019年9月時点の2.2%から約18%に約16ポイントも上昇する計算だ。このためドルと人民元の構成比の差は現在の44%から28%まで低下。10ポイントまで縮小しドルの影響力は急低下する。

米国で、急激な財政拡大策による「双子の赤字」とデジタル人民元発行後のドルの影響力低下観測が重なるとドルが大幅に下落する可能性ある。1931年のポンド急落時には33%のポンド安となった。この時の経験を踏まえると30%程度のドル下落が目安となろう。

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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