中国の消費市場「国潮」と越境ECが共に繁栄、メイドインジャパンは生き残れるか?

高野悠介    2021年7月6日(火) 13時20分

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中国的要素を多く含んだ「国潮」商品がブームである。一方で海外商品を購入する越境Eコマースも盛り上がりを見せている。一見矛盾するような動きだが、実態はどうなっているのだろうか。写真は漢服。

中国的要素を多く含んだ「国潮」商品がブームである。一方で海外商品を購入する越境Eコマースも盛り上がりを見せている。一見矛盾するような動きだが、実態はどうなっているのだろうか。

■国潮、新国潮、種草

2017年、国務院は5月10日を中国品牌日(China Brand Day)に設定した。「中国の夢」実現の基盤をつくり、国産ブランドの育成を目指すためである。

その効果が現れたか、2019年ごろから「国潮」と呼ばれる国産商品ブームが本格化する。ネット辞書によれば、「国潮」とは中国特定の要素を備えたデザインの流行商品、靴、衣服、奢侈品など、具体的な商品を指す。さらに「新国潮」という言い方も現れ、これは国産ブランドから宝さがしするイメージを帯びている。SNS上で推奨し、共有されることに喜びを得る「種草」親和性が高い。Z世代を中心にした、新しいマーケティング手法により、登場した風潮でもある。代表的な分野を取り上げてみよう。

漢服、コスメ、スポーツ

漢服…若い女性がリード

突然現れたのが、漢服ブームである。愛好者の数は、2019年―356万人、2020年―516万人、と増加し、2021年は689万人と予想されている。古代漢王朝時代の装束が全体の75.8%を占め、文字通りの漢服である。また販売業者の79%は、レディース専業で、レディース、メンズ兼業が18%、メンズ専業は1.5%に過ぎない。年齢別では、16歳以下8%、16~18歳27%、19~24歳52%である。 漢服を積極的に買っているのは圧倒的に若い女性だった。中高年によるリバイバルヒットではなく、まったく新しい現象だ。そして全体の53%が、漢服の着用は優れた伝統文化の促進になると肯定的に捉えている。

コスメ…完美日記パーフェクトダイアリー

コスメ部門の代表は「完美日記」である。小紅書、微博、WeChat、B站などを中心に仕掛けたSNSプロモーションが、抜群のパフォーマンスを発揮した。巧妙な運用手法により、Z世代のコミュニティーへのアピールに成功したのである。アリババの天猫モールでは、オープン以来わずか2年で、ロレアル、資生堂など海外の一流ブランドを上回り、コスメ部門のトップへ上り詰めた。現在は、草の根インフルエンサーだけでなく、有名スターからトップライバーも起用し、“全方位”での種草活動に取り組んでいる。

スポーツ…李寧

李寧は、1980年代の中国体操界をけん引した五輪体操王者だ。今は一般に、1990年に彼が設立した会社とブランド名を指す。スポーツブランドに限らず、国産ブランドを代表する存在だ。しかし、これまで中国消費者の心を捉えていたのは、ナイキ、アディダスなど海外ブランドだった。それが消費者ニーズ、文化的環境とも大きく国産にシフトした。この状況を見た李寧は、さまざまな仕掛けに取組む。例えば2020年8月、アリババ、敦煌博物館と、シルクロード探索をテーマとしたファッションショーを砂漠で挙行した。安踏(ANTA)とともにスポーツ業界の国潮をけん引する存在となっている。

2021年6月末、李寧の株価は史上最高値を更新した。国潮ブームの生起したこの3年で、12倍に高騰している。

■越境EC…試験区で活発な研究

国潮の一方、越境ECも大きく伸びている。2020年越境ECの輸出入総額は1兆6900億元(28.兆9000億円)前年比31.1%増だった。このうち輸入の消費者向け(越境ECサイトから中国人が海外商品を購入した分)は1000億元(1兆7000億円)である。

中国は2016年以降、越境ECのサポート政策を加速してきた。2020年、越境EC試験区は全国105カ所に拡大した。その中に330の産業園が形成され300万人が就業している。また海外倉庫は1800カ所に増加した。試験区の研究目標は、従来型貨物貿易を、手続簡便、流通迅速に改変することだ。海外送金、通関、関税還付、物流などを個人向けにシフトし、最終的に。輸入許可まで省くことだ。こうした研究を国に挙げて行っている。こんな国は他にあるまい。

■越境ECの利用データ

越境ECの利用データ(iiMedia)を見てみよう。男女比は、男性49.3%、女性50.7%でほぼ均等だ。年齢層は26~30歳34.2%、31~40歳31.2%、19~25歳17.5%の順で、国潮より少し高めである。実際に、何を買っているのだろうか。(複数回答)

服装・靴・鞄…47.0%

化粧品・スキンケア…43.3%

食品・飲料…39.9%

家電・デジタル製品…37.9%

サプリメント・保健…31.2%

スポーツ・アウトドア…29.9%

家具・インテリア…28.2%

ベビー・マタニティー…26.8%

上位には、ブランドロイヤリティーがものを言う商品群が並んでいる。

■ステージアップした中国消費市場

もともと中国の中高年は欧米商品好きだった。コンテンツでも、欧州サッカーNBA好きなどは日本人の想像を超える。今回の分析も、大まかにいって、越境ECは25歳以上、国潮は25歳以下に色分けされる。

今後はどのように展開していくのだろうか。国潮にしろ越境ECにしろ、消費者はよりキャラの際立った商品を求めているのは間違いない。消費市場がステージアップした証拠だ。テーマはどうあれ、今後は消費者の心を捉えたブランドしか生き残れない。メイドインジャパンは、中高年層にはストレートに受け入れられる商品キャラだったが、Z世代にはいつまで有効だろうか。これは気がかりである。そして徐々に国内、海外の区別は霧消していくことだろう。

■筆者プロフィール:高野悠介

1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。

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