如月隼人 2021年8月5日(木) 10時50分
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中国語の学習書を作った自らの経験に照らし合わせて、「これはよい中国語の入門書が出来たものだ」と思った。
本書に目を通しての第一印象。「これはよい中国語の入門書が出来たものだ」だった。どんな分野でもそうだが、学習している過程では「自分が使っているテキストは、自分にとって果たして最適なのだろうか?」と疑問を持ってしまうものだ。そこで、自信をもって断言しよう。「中国人と意思疎通をする」目的のために、この1冊はベストの部類に属する。
実は、私は中国側との“合作”による日本人向け中国語テキストの編集に携わったことがある。その時の経験に照らし合わることができるからこそ、「この1冊は素晴らしい」と断言できるわけだ。
学習書の編集方針は2種類に大別することができる。すなわち「1冊で必要なことを全て網羅する」と「学習効果を最大限にする」の2種だ。本書は後者の部類に属するが、その場合に非常に大切なことは「必要なことはしっかりと盛り込むが、詰め込み過ぎない」ことだ。学習書を作る上で、この「詰め込み過ぎない」が案外に難しい。「これも面白い」「これも盛り込んだ方が興味を持ってもらえるかも」と、良心的な内容にしようと意気込むほどに、詰め込んでしまいがちになる。
本書の場合、そのあたりの「見切り方」が実に適切だ。各課に取り組む場合には単語とフレーズ、会話文と進んでいく。「詰め込み過ぎない」に十分に配慮しているが、それでも初めて接する中国語に、多少は負担を感じるかもしれない。そこで“威力”を発揮するのが「Aちゃんのワンポイント知識」だ。その課において、「これだけは身に付けよう」という内容に完全に絞り込まれている。会話文で該当する単語は赤文字になっているので対照も容易だ。
本書を使う場合、まずは単語やフレーズに目を通して意味を確認しよう。次に実際に使う場面をイメージしながら会話文を声に出す。この時点では、内容を完全に覚えようとまでは思わなくてよいかもしれない。とにかく口を馴らす。そして「ワンポイント知識」をしっかりと学習して「なるほど!」と思えたら改めて会話文に戻って練習する。
本書は各課にQRコードが掲載されており、音声や「Aちゃんによる動画解説」の利用が可能だ。このことも、学習に大いに役立つだろう。
本書の会話文については、日本語の訳文も実に適切で、「固すぎず、くだけすぎず」であり、紹介されている中国語が、実際にどのような雰囲気で使われているかが、直観的に分かるはずだ。
本書は、中国人2人と日本人1人のCMG(中国中央広播電視総台、チャイナ・メディア・グループ)スタッフ3人の共著による。中国人の王頴頴、張怡康の両氏はCMGの日本語部アナウンサーだ。梅田謙氏もCMGのスタッフとして番組制作や取材で活躍している。つまり日本語や日本事情の専門家である中国人と中国語や中国事情に熟達した日本人の計3人による「文殊の知恵」が凝縮されているわけだ。
誤解のないよう追加説明しておこう。本書の特徴として「詰め込みすぎていない」を強調したが、それは内容が「少ない」ことを意味するのではない。特に「友達編」以降には、「中国人に、これを伝えたい」という状況に遭遇しそうな表現が、多彩に盛り込まれている。必要最小限の「ワンポイント知識」以外にも、「狙って使える中国語」が手厚く取り上げられている。
学習者には、身の回りにいる中国人に学習した「会話」を、是非お試しいただきたい。「絶対にスラスラ伝わる」との保証はできない。しかし、あなたが一生懸命に伝えようとした内容を、相手は推し量ってくれるはずだ。日本語が達者な中国人ならば、あなたの発音を矯正してくれたり、「この場合にはこちらの表現を使います」と教えてくれたりするかもしれない。
本書の掲載内容には、「中国人相手に使えば、相手の反応を引き出してくれる」という“威力”があるように思える。その意味で、本書は「あなたの眼前にある中国語世界の扉を押し開けてくれる1冊」ということができる。
■筆者プロフィール:如月隼人
1958年生まれ、東京出身。東京大学教養学部基礎科学科卒。日本では数学とその他の科学分野を勉強し、その後は北京に留学して民族音楽理論を専攻。日本に戻ってからは食べるために編集記者を稼業とするようになり、ついのめりこむ。毎日せっせとインターネットで記事を発表する。「中国の空気」を読者の皆様に感じていただきたいとの想いで、「爆発」、「それっ」などのシリーズ記事を執筆。中国については嫌悪でも惑溺でもなく、「言いたいことを言っておくのが自分にとっても相手にとっても結局は得」が信条。硬軟取り混ぜて幅広く情報を発信。 Facebookはこちら ※フォローの際はメッセージ付きでお願いいたします。 ブログはこちら
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