Record China 2021年8月20日(金) 8時0分
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進藤榮一国際アジア共同体学会会長が「米中『新冷戦』と日本の生きる道」と題して講演。米国提唱の「価値観外交」について「外交とは異質な体制と異なる利益との共生と共存を、最大化していくことだ」と批判した。
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国際アジア共同体学会が主催する日中シンポジウムがこのほど東京の国会議員会館で開催され、日中の有識者多数が出席した。同学会の進藤榮一会長(筑波大学大学院名誉教授)は、「米中『新冷戦』と日本の生きる道」と題して講演した。中国が牽引する「アジア力の世紀」と「大米帝国の終焉(しゅうえん)」を前に、中国の台頭をめぐって一部メディアや専門家は、“ウイグル事情”など根拠に乏しいさまざまな「常識」を今見てきたかのように流布し始めていると批判。またバイデン米政権が推進している「価値観外交」は「外交の意味をはき違えた虚構の言説」と断じ、今求められている外交は「異質な体制と異なる利益との共生と共存を、最大化していくことだ」と提唱した。
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進藤栄一会長の講演要旨は次の通り。
◆真理とは何か、「常識」を疑え
「真理は常識の背後にある」―。ビル・エモット氏(元『エコノミスト』東京支局長)は、オックスフォード大学入学後の最初の物理学の授業で教授にそう教わったと記し、日本の繁栄はいつまでも続かないだろう、と警告を発していた。1980年代末、エモット氏の自著『日はまた沈む』で、そう記して、日本の繁栄のあり方に疑問を投げかけた。
エモット氏は、日米同盟のもとで、日本が永遠に繁栄していくという“常識”は、いまに裏切られるだろうと、警告し、「真理はつねに常識の背後にある」のだから、と記していたのである。
プラザ合意以後、「日出る国」ニッポンが、破竹の勢いで「アズ・ナンバーワン」に昇り詰めていたころのことである。その時私は、多分エモット氏は「日本の未来を読み違えているナ」と思ったものだ。実際、日本の躍進は、とどまることなく続いていくだろう――。それが、私を含めて、ほとんどの外交・経済専門家やジャーナリストたちが共有していた“常識”であった。
◆「日はまた沈む」
しかしそれから数年経たずして、「日はまた沈み」始めたのである。
そして以後30年――。日本はいま、ほとんどあらゆる社会経済指標で、世界最先端の座からボトムへとずり落ちている。国民総生産(GDP)でも、経済生産性でも、半導体や環境技術など先端科学技術分野でも、報道の自由や貧困率、可処分所得や女性の地位など、ほぼすべての分野で世界標準から遅れをとっている。
まさに「失われた30年」である。その衰退する日本を評して、海外の識者たちは、「年老いた金メダリスト」と皮肉っている、という。
エモット氏と同じころ、ノーベル賞に最も近いといわれていたオックスフォード大学教授、森島通夫氏もまた、当時の日本やアメリカの近代経済学者たちの“常識”を批判した。そして日本はいま、没落の道を歩み始めている、と警告していた。
その上で森島博士は、日本が没落を避ける道はただ一つ、「東アジア共同体」を構築していく以外にはないと、自らそれを「最後の遺言」と呼んで、2007年に刊行していた。
その間、韓国やタイ、インド、そして何よりも中国が、急速に台頭し続けた。「パクス・アメリカーナ」が終焉し、中国主導の「パクス・アシアーナ」の世紀が登場し始めたのである。アジアの国々が相互に連動し連携しながら成長する「地域」としての「アジア力の世紀」の到来である。
◆膨張する「専制主義」中国という常識
その中国が牽引する「アジア力の世紀」と「大米帝国の終焉」とを前に、いま中国の台頭をめぐってメディアや専門家たちは、様々な「常識」を流布し始めている。
その最たるものが、中国は、反民主主義的な「専制主義」国家である。日米欧など西側「民主主義」諸国と敵対し、反人権政策を展開し、“膨張主義”政策に乗り出している、という“常識”を語り始めたのである。
その延長上に、米中「新冷戦」が展開し始めたという、もう一つの“常識”が語られている
その典型が、新疆ウイグル自治区で“人権弾圧”政策が強行されているという“常識”だ。あるいは、赤い巨龍・中国はいま、“尖閣”略取に乗り出し、「台湾」軍事侵攻に向け蠢き始めたとする“常識”である。
そして東大やメディアの“錚々たる”自称他称の中国研究者や専門家たちが、“ウイグル人権弾圧”を根拠に、様々な“常識”を、いま見てきたかのようにメディアで語り流布させている。
いわく、ウイグルでは「100万人の強制収容所」が設置されている。いわく、少数民族に“強制不妊”が断行され、“ジェノサイド(民族浄化)”政策が実行されている。いわく中国は、台湾軍事併合のための“大軍拡”政策を、“戦狼外交”のもとに展開し始めている。
そのために “巨龍”中国は、アジアからユーラシア、アフリカ、南アメリカに及ぶ「一帯一路」構想を掲げて、それを実現しようとしている。そのために、アジアインフラ投資銀行(AIIB)を設立し、潤沢な資金を貧困な途上国に与え、貧困国を「債務の罠」に陥れ「赤い竜の爪」を世界中に広げようとしているーー。
いわゆる中国脅威論の“常識”である。
だから日本を含め西側民主主義陣営は、「民主主義」という共通の価値観を擁護するために、軍事安全保障上の協力同盟関係を強め、中国の戦狼外交に反撃すべきだ、という。
かつて米英は、「大西洋憲章」を掲げ、ファシズム・ドイツや日本を敗北させ、“共産主義”ソ連を「封じ込め」て、冷戦に勝利した。
あの時と同じように、いままた西側諸国は、第二の「大西洋憲章」を掲げ、“専制主義”中国の膨張を食い止めるべきだ。そして、中国が、「民族浄化」によってジェノサイドを繰り返し、「戦狼外交」を掲げてアジア・ユーラシアに“膨張”している現状を直視し、西側民主主義国は、アメリカを盟主として共同同盟戦線を張り、民主主義をグローバルに広げていくべきであるーー。
周知のように、「アメリカ・ファースト」のビジネスライクで民族差別的なトランプ流米国版“戦狼外交”は挫折した。そしてトランプ後のバイデン民主党政権下でアメリカはいま、西側諸国を糾合し、対中「新冷戦」を掲げて、「デモクラシー・ファースト」の“価値観外交”を展開し始めた。
それが、中国の躍進と「アジア力の世紀」に対して語られ始めた、もう一つの“常識”である。“価値観外交”という名前の常識だ。
◆日中共生の道
いったい私たちは、これら変貌する国際関係の展開と、ウイグル“ジェノサイド”論や価値観外交や“戦狼外交”なるものの“常識”に、どう理解し、どう対応すべきなのか。
今回の国際会議の主題――米中「新冷戦」と日本の生きる道――は、これら一連の常識の検証にある。
登壇した各報告者は、緻密な実証研究を基に、世上流布する”常識“に対して、常識の裏側に隠された真理を、逐一明らかにした。その隠された真理を、鳩山元首相と孔中国大使が、日中国交回復半世紀の歴史を踏まえて語った。そして米中の狭間で生きる日本の戦略外交のあり方を指し示した。
そもそも外交とは、異質な価値観と利益の共生の上に、初めて成り立つものだ。その意味で、そもそも「価値観外交」なるものは、外交の意味をはき違えた虚構の言説に過ぎない。
いま求められているのは、異質な体制と異なる国々の利益と共生し、相互依存関係を深化させていくことだ。
かつての「米ソ冷戦」期に横溢した「イデオロギー過剰」で、「一国生産」第一主義的で領土ファーストの“旧外交”の時代は終わった。求められているのは、イデオロギーの呪縛から自由になり、「人間と環境と社会」の安全保障を第一義にすえた“新外交”の実践である。
「グリーンでデジタルでソーシャルな市民社会」を、国境を越えて、ともにつくり上げていくことである。そこに日中共生の道がある。(主筆・八牧浩行)
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