【新青年】物言わぬバリスタ、音のない世界の温かさ

人民網日本語版    2021年9月24日(金) 17時50分

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2歳の時に飲んだ薬が原因で聴力を失った張龍さんは北京のコーヒーショップ3軒のオーナーになった。

2歳の時に飲んだ薬が原因で聴力を失った張龍(ジャン・ロン)さん(36)は、それ以降、「静かな世界」で生きている。

「全く聞こえないのではなく、窓の外を行き来する車の音や車のクラクションの音などはかすかに聞こえる。でも、遠い所の話し声やドアをノックする音などは聞こえない」と張さん。

そんな張さんは、12年のキャリアを持つバリスタであり、今では北京のコーヒーショップ3軒のオーナーになった。店では、コーヒーを淹れたり、コーヒーの商品開発をしたりしている。東直門近くにある新しい店の広さはわずか10平方メートルで、音楽も流れておらず、客寄せの声もない。新型コロナウイルスの影響で、コーヒーショップの売れ行きは思わしくなく、1日に約30件のデリバリーの注文と、店に来る十数人の客の注文だけ。それでも、1カ月の経費は賄えるという。音声認識アプリがあり、客もQRコードをスキャンすれば注文できるため、客や仕入れ先とも自分でコミュニケーションを取れる。そのため、張さんは一人で店のやりくりをしている。馴染みのデリバリー配達員や周りの店の店員なら、手振りやアイコンタクトで意志を通わせることができるという。

張さんは大学生の時にハンドドリップコーヒーに出会い、コーヒーの芳しい香りに魅了された。卒業後はサイト編集の仕事をしたものの、大好きなコーヒーの仕事をするために、その仕事を辞めてバリスタになった。張さんは他の店でも聴覚障害者のスタッフを雇ったことがあり、「聴覚障害者に仕事の機会を提供できるというのも、コーヒーショップを開くことにした理由の一つ」と説明する。

サイレントな世界で生活していることに関して、張さんは、「心もとても静かで落ち着いている」という。それでも、「もちろん、他の人はみんなおしゃべりをしたりできるのに、自分だけ耳が聞こえないので、孤独を感じることもある。また、お客さんとの会話がうまくいかず、誤解されるのではと心配になることもある」と話す。そんな張さんは、自分が聴覚障害者であることを前面に出すことはない。コーヒーショップにもそうした張り紙はせず、手話に関する表示もない。張さんは相手の口の動きを読む読話も少しでき、声を実際に出す練習もしたという。それでも、相手の声が聞こえず、自分の発音が不正確なため誤解が生まれてしまうこともある。例えば、何かを尋ねたのに何の反応もなく、無視されたと感じて立ち去る客もいれば、メニューを指さしながら話す客を見て注文だと思ってコーヒーを作ってから、実は注文ではなく何気ない会話をしていただけだと気づいたこともあるという。また、張さんが外国人で中国語が分からないと勘違いして、外国語で話し始める客もいるという。さらに、新型コロナウイルスの影響でマスク着用が日常化しており、読話をすることができないため、マスクを外すようお願いすることもある。そんな時、張さんは「透明のマスクがあればいいのに」と思う。時には、手話ができる人がコーヒーを飲みに来ておしゃべりできることもあり、そんな時はとてもうれしいという。

張さんは、「毎日、とてもシンプルな生活を送っている。朝8時に起きて、9時半に家を出て、バイクで店に行き、10時から仕事。昼食はデリバリーを利用し、夜は7時半ごろに店を閉めて帰り、家で夕食を食べる」と話す。また、最近、生活に変化もあったといい、「2カ月くらい前に、子供が生まれた。起業の道を歩む上で、妻がずっと応援してくれている。今は子供ができて、それが毎日仕事をする原動力となっている。子供を見るために、早めに店を閉めて家に帰りたいと思う時もある」と語る。

平凡ではあるけれど穏やかな暮らしを続ける中で、2人のもとに舞い降りて来た小さな命が、張さん夫婦に新たな希望を与えている。「この世界の音が聞こえるようになり、両親が僕の名前を呼ぶ声と、子供が『パパ』と呼ぶ声が聞こえる日が来てほしい」。それが張さんのささやかな願いだ。(提供/人民網日本語版・編集/KN)

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