2つの満月に酔いしれた香港の中秋節

野上和月    2021年9月28日(火) 18時50分

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今年の香港の中秋節は幻想的でワクワクする夜となり、3年ぶりに多くの市民が街に出て名月を愛でる伝統行事に酔いしれた。

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澄み渡る夜空に煌々と輝く満月と、高層ビル群を背景に海面に浮かぶ巨大満月。天空と海原に映えるこれら2つの満月の間を、ウサギが飛び跳ねてでもいるかのような形をした雲が浮かぶ――。今年の香港の中秋節は、こんな幻想的でワクワクする夜となり、3年ぶりに多くの市民が街に出て名月を愛でる伝統行事に酔いしれた。

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中国では旧暦八月十五日を「中秋節」として祝う。旧暦の七月一九月は秋にあたり、八月はその真ん中なので「中秋」というのだそうだ。今年の中秋節は9月21日で、8年ぶりに「満月」と「中秋節」が重なった。

例年、この時期は各地の公園でランタン(灯り)祭りが開催され、地域住民らでにぎわうが、一昨年は反政府デモの真っただ中で、昨年はコロナ禍で、ランタン祭りはお預けに。中秋節どころではなかった。今も、公共の場やレストランでの人数制限はあるが、街は平穏を取り戻し、新型コロナも沈静化しているとあって、各地でランタンが飾られた。

新型コロナで海外旅行に行けず香港で余暇を過ごすしかない中、今年はこれまでにない趣向を凝らしたランタン飾りやイベントがあちこちで登場。会社の同僚たちも「どこに月見に行くべきか」などと盛り上がっていた。夜には、ランタンを手に、うれしそうに歩く子供連れの家族姿も多くみられ、秋の風物詩が香港の街角に戻ってきたのだった。

そんな中で、俄然注目されたのは、海面に浮かんだ直径15メートルの巨大満月だ。九龍半島東部のウォーターフロントに停泊しているはしけの上に設置された。観塘(クントン)海浜公園のプロムナードから臨むと、海面にポッカリ浮かんでいるように見える。特別なシートとLED照明を使い、月面のクレーターまでしっかりかたどっていて、まるで本物の月が地上に舞い降りたかのような幻想的な風景が出現した。

中秋節を挟んでわずか4日間だけ、「天空の満月」と「海面の満月」が味わえるとあって、多くの市民が押し寄せて記念写真を撮っていた。中秋節当日は、地面にシートを敷いて2つの月を愛でながら、月餅を食べたりおしゃべりをしたりする家族連れや若者らで、深夜までにぎわった。

中国や台湾は中秋節の当日が祝日にあたるが、香港では中秋節の翌日が祝日だ。翌日のことを気にせず、遅くまで月見を楽しめるように祝日をずらしているのだ。何事も合理的な香港ならではの粋な計らいといえる。

もっとも中秋節当日に出社するとはいえ、多くの企業は普段よりも退社時間を早め、香港中が家族団らんに備える。そして、家族と食卓を囲んだ後は、家族や仲間と誘い合って街に繰り出し、今度は満月の下でたっぷりと遊ぶのだ。

レストランもにぎわいが戻った。香港政府は現在、ワクチン接種済み人数に応じて、1テーブルの着席数を最大12人まで認めている。レストラン業界によると、今年の売上高は去年と比べて約5割増えたという。

変化は、月餅市場にも現れた。中秋節で欠かせないのが、月餅や果物などの贈り物で、親しい人や親せき、仕事の取引先に贈る習慣がある。あるギフト店では、今年、英国や米、オーストラリア、カナダから香港の家族や知人宛てに贈るためのネット注文が例年より7割も増えたそうだ。「安心してね」といったメッセージを添える人も多かったという。今年海外に移民した香港人が急増したが、移民先から香港に残された家族や知人に贈ったとみられる。

逆に香港から海外に送る月餅の量が、例年の6倍にふくれ上がった運送会社もあったそうだ。移民したばかりの友人に、異国の地でも中国の伝統行事を懐かしんで祝ってほしいとの想いを寄せたのだという。

お互いに地球のどこかで満月を見ながら、離れ離れになった家族や親しい人たちに想いを馳せているのだろう。

さて、中秋節の翌日まで4日間にわたって市民を魅了したあの巨大な満月だが、さらにその翌日に事件が起きた。片付ける前に、悪天候の中、強風で吹き飛ばされて海中に落ちてしまったのだ。あの幻想的だった月が、こともあろうか海面をゆっくりコロコロと回りながら流されていく。その間に、亀裂が入り、中の空気が抜け、最後はペシャンコになって引き上げられたのだ。

その様子がビデオで流れるや、 「まるで(香港の火鍋料理の具で、中が空洞で鍋に入れた時はプカプカ浮いているが、水分を含むとしぼんでいく球形の揚げ麩の)『生根』にそっくりだ」 「海上だけじゃなく、海中の月まで鑑賞できるとは」 「これこそ『海底撈月(海面に映っている月をすくいあげようとしてもできないこと。無益なことをして労力を費やすたとえ)』」 「まさに鏡花水月!(水に映る月と鏡に映る花は、目で見ることは出来るが、実際に手に取ることが出来ないことから、長く続かずに消えてしまいやすい幻のたとえ)」 「コントだ。面白過ぎる」 など話題沸騰。

ロマンチックな夜を演出した月に、まさかこんなオチが待っているとは誰も想像できず、久しぶりの明るい話題に大いに盛り上がった香港の中秋節だった。(了)

■筆者プロフィール:野上和月 1963年生まれ。1995年から香港在住。日本で産業経済紙記者。香港で在港邦人向け出版社の副編集長を経て、金融機関に勤務。1987年に中国と香港を旅行し、西洋文化と中国文化が共存する香港の魅力に取りつかれ、中国返還を見つめたくて来港した。新聞や雑誌などに、香港に関するコラムを執筆。読売新聞の衛星版(アジア圏向け紙面)では約20年間、写真付きコラムを掲載した。 ブログ:香港時間 インスタグラム:香港悠悠(ユーザー名)fudaole89

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