内藤 康行 2021年10月20日(水) 23時20分
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中国では騒音公害が日増しに悪化している。写真は上海。
中国では騒音公害が日増しに悪化している。鉄道輸送建設で振動および騒音低減に対する市場需要が拡大するとして、市場アナリストは環境騒音公害防止整備市場が約100億元(1700億円)を超えると予測している。
1.現代都市で深刻な騒音公害に居住民の苦情が連日殺到
21世紀の環境汚染防止の主要課題の一つとして騒音公害が挙げられている。2021年3月、世界保健機関は「世界聴力報告」データを発表した。これは、現在、世界の難聴者は5分の1に達し、世界中で15億人以上が難聴を訴えており、そのうち4億3000万人の軽度の聴覚不良者と中度の聴覚不良者がいると指摘している。また同報告では、2050年には4人に1人が難聴者となり、25億人近くが軽中度の難聴者となり、そのうち少なくとも7億人が難聴リハビリを必要とされると推定している。
中国の都市騒音公害は日増しに悪化している。現在、大多数の都市は中・強度の騒音公害に晒され、多くの都市生活圏の騒音はすでに60dBを超え、すでに近代都市は一大公害となっている。昨年6月、中国生態環境部は「中国環境騒音公害防止整備報告書」を発表し、その中で、2019年の全国の音声と騒音に関する苦情を次のように要約している。
2019年、全国の地方都市レベルとそれ以上の都市で、都市機能地域の音声環境質量、日中の地域音声環境質量、日中の道路交通音声環境質量の3つのモニタリングタスクを実施し、合計7万9079ポイントをモニタリングした。全国の都市機能地域の音声環境質量は、日中で92.4%、夜間で74.4%に達し、幹線道路両側エリアは、夜間で51.8%と最も低く、日中の音声環境質量は平均有効音声レベル54.3dB(A)、日中の道路交通騒音の平均有効音声レベルは66.8dB(A)であり、直轄市とその他省レベル都市の環境質量監視ポイントでは基準に達しているものの、地域の音声環境質量と道路交通騒音の平均値は全国平均より劣っていると指摘している。
2019年、全国の「12369環境苦情通報ネットワーク管理プラットフォーム」の統計によると、騒音関連の苦情通報は38.1%を占め、すべての汚染要因の中で2番目にランクされている。生活水準の向上に伴い、人々の「静かな」生活環境へのニーズが高まっていなか、騒音は環境問題の一大焦点となっており、その汚染評価と整備は新たな中国の環境保護対策の産業化へと動き出している。
環境騒音公害の突出した問題に対し、中国政府は重要視しており、対応する政策と措置として「環境騒音公害防止整備法」を改正し、「第13回全国人民代表大会常任委員会立法計画」に盛り込まれた。現在、生態環境部は調査と全関係者からの広範な意見募集に基づき、改訂草案を検討している。「環境騒音公害防止整備法」の改訂版では、環境騒音防止整備の基準が高くなり、責任主体の更なる明確化されることで、騒音公害防止整備市場の成長が注目される。
2.騒音・振動制御市場規模は100億元超、交通分野が半分を占める
中国生態環境部が発表したデータによると、2015年から2019年までの5年間、騒音・振動制御分野産業の総生産量は国家全体の経済状況によって変動するとし、2019年の全国環境騒音防止整備産業の総市場規模は128億元(約2176億円)で、そのうち交通騒音・振動汚染防止整備の市場規模は50億元(約850億円)、工業の騒音・振動汚染防止整備の市場規模は16億元(約272億円)、社会生活の騒音・振動汚染防止整備の市場規模は20億元(約340億円)、騒音・振動汚染防止整備技術サービスの市場規模は8億元(約136億円)、その他の騒音・振動汚染の防止整備の市場規模は34億元(約578億円)と述べている。
将来的に中国の騒音・振動制御産業の技術と市場の焦点は、高速鉄道と都市鉄道輸送、地下鉄の上部構造と地下鉄沿線の建物の振動制御、建物内の動力設備の騒音・振動の制御、工業分野の分散型エネルギー企業、石油化工、鉱山、冶金および建築材料などの建設プロジェクトにおける騒音・振動制御、新型音声材料とインテリジェント化による騒音低減研究開発である。
鉄道輸送建設の振動・騒音低減の産業市場
1.鉄道輸送建設の進展で、振動・騒音低減の市場需要の促進
中国は都市鉄道輸送を公共交通機関開発の重要な分野と見ており、都市鉄道輸送建設の加速的発展を要求している。今後数年間で、国内の都市鉄道輸送への投資を維持し、急成長するとみられている。振動・騒音低減は都市鉄道輸送建設の重要な部分であり、「同時建設」「同時運用」が必須となる。このため鉄道輸送建設の発展は、必然的に振動・騒音低減市場の需要を促進する。また、振動・騒音低減技術の開発に牽引されて、さまざまな新材料や新プロセスが出現、実用されれば、同産業の新しい市場の需要を創出する可能性がある。
2.鉄道輸送分野の振動・騒音低減産業の利益レベルと競争環境
鉄道輸送分野では、参入障壁が高く、技術も複雑で、製品の粗利益が高いため、業界の利益レベルは国策と市場競争の影響を受けている。現在、業界は入札を通じて製品やソリューション提案のサプライヤーを選択しており、企業の技術レベルや財務力に対する要件が高まっており、企業淘汰と業界統合のスピードが加速している。中国では一定数の企業が振動・騒音低減サービスを行っているが、都市鉄道輸送の振動・騒音低減は、プロジェクト規模が大きいこと、サイクルが長く、技術指標要件も高く、プロジェクト管理要件が厳しいなどで、特に入札時にはパフォーマンスやプロジェクトの実績が必要となっている。
そのため、都市鉄道の振動・騒音低減プロジェクトに参加できる国内企業は非常に少なく、振動・騒音低減のための高水準の総合整備計画を独自に立案し実施できる企業はさらに少ない。市場競争はようやく単純な価格競争から技術、資金力、ブランド、サービス、マーケティングネットワーク、市場プロモーション力の総合力競争に移行しており、包括的な競争力を持つ業界のリーディングカンパニーだけが高いレベルの収益性を獲得できる環境となっている。
■筆者プロフィール:内藤 康行
1950年生まれ。横浜在住。中学生時代、図書館で「西遊記」を読後、中国に興味を持ち、台湾で中国語を学ぶ。以来40年近く中国との関わりを持ち現在に至る。中国の環境全般と環境(水、大気、土壌)に関わるビジネスを専門とするコンサルタント、中国環境事情リサーチャーとして情報を発信している。著書に「中国水ビジネス市場における水ビジネスメジャーの現状」(用水と廃水2016・9)、「中国水ビジネス産業の現状と今後の方向性」(用水と廃水2016・3)、「中国の農村汚染の現状と対策」(CWR定期レポ)など。
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