中国が直面している医療の問題とは

内藤 康行    2021年12月1日(水) 22時50分

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中国は医療や医薬分野の問題に直面している。写真は中国の病院。

一、中国が直面する医療と医薬分野の問題

医療インターネット+では、中国の医療と医薬分野における現在の問題を掘り下げることが不可欠だ。現在、国民の収入は確かに増加し、生活水準も向上した。しかし「医師の診察はずさんで高額」という問題は、一般の人々にとってますます厄介となっている。医療資源の不均衡な分配、制度の重複、効率の低下、医療技術とサービスの「質」問題、不合理な高額医薬品、そして医療機関体制の腐敗などが世間の注目を集めている。

1.中国の医療衛生資源総量の不足と医療サービス「質」の低下

経済社会発展と国民への医療サービスに対する需要の増加に対し、中国の医療衛生資源総量は相対的に不足している。2012年の医療衛生機関の病床数は1000人当たり4.24人、医師免許取得者は1000人当り1.94人、登録看護師は1000人当たり1.85人だった。医師と看護師の比率は1:1未満だ。「第13次5カ年計画(2016~2020年)」でも、今後数年間の中国の医療件数の増加率は、GDP成長率の約7%と一致すると述べているが、これらのデータではかなり長い期間で表現されており、中国の医療衛生資源の総体質量はまだ遅れている。

2.不健全な公衆衛生サービスシステムと不均衡な医療資源分配

不合理な分配構造は、医療衛生サービスの公平性と効率に大きな影響を与えると同時に、重大な疾患予防のコントロールと公衆衛生の緊急事態への対処を困難にしている。中国の公衆衛生サービス体系は遅れており、公的医療機関への比重が過大で、資源配分の構造も不均衡だ。また、看護師の配備数が深刻な不足状態にある。特に専門病院の遅れが目立っている。例えば小児科、精神科、老年医科、リハビリテーションの不足は明らかで、巷の人々に「医師の診察がずさん」と言われる所以だ。

中国は質の高い医療資源が不足しているだけでなく、配分も大きな問題を抱えている。優れた医療資源は主に北京、上海広州深センなどの大都市に集中している。農村部と都市部間および省間で、医療資源の配分に巨大な違いがある。例えば、中西部地域は東部地区と比べ臨床医の人材不足、病院の診断と治療の低いレベル、患者受入不足が顕著だ。速やかに改善と強化に直面しているのが現状だが進んでいない。

中国の主要な医療衛生機関は能力不足で利用効率も低く、同時に「すべての人々に調和する」というゆがんだ医療傾向を生み出している。患者は深刻な病気、軽度の病気、慢性疾患、緊急事態に関係なく、すべてトップクラスの公立病院に駆け込み、その結果、大型公立病院は年中大混雑している。

3.医療保険の超低加入率、不十分な義務化、予防機能の弱体、不十分な患者の重病保険保障

患者保険の加入率が低いことと対照的に、国の実際の医療保険費用の増大で徐々に制御不能になっている。費用の急増により、多くの地方財政や企業が多額の債務を抱えており、悪循環に陥り、医療保険の水準や質の向上はさらに困難になっている。

4.医療制度内の腐敗

医療制度内の腐敗は医療サービスの公平性と医療投資の効率を低下させると同時に、国民の不満の高まりやグループ間の不均衡な関係など一連の社会問題につながっている。現在、医療衛生分野では、役人と企業の癒着、医薬品の生産と流通における個人的な利益の追求、「偽医者」と「偽医薬」、医師の金銭要求など、さまざまな腐敗で、影響を受けることが常態化している。これらの腐敗の原因は非常に複雑だが、その1つは医療衛生管理システムの非市場化と過度の独占によるものだ。行政の介入が過度であればあるほど、その権力にすがり、腐敗を増大させる。

二、中国の医療環境に横たわる問題と原因

1.常に変化する医療改革の方向性

先の医療改革の失敗を国が発表してから、新たな医療改革意見が出され5年がたっているが、公立病院改革は依然として停滞している。その中で重要な要因は「医薬で医療を養う」体制であるため根本的に改善されず、このためより科学的な補償メカニズムを確立することはさらに不可能となっている。国家と地方政府は毎年さまざまな医療衛生制度改革政策を出しているが、改革の出発点は国の負担を軽減することであるため、政府の医療資金投入は相対的に下降している。直面している多くの問題に向き合う姿勢のない政府に対し、世論では病院や医療機関の市場化を望む声が大きくなっている。しかし現在の病院や医療機関は「薬」と「検査」に大きく依存し収入を増やしているため、この重い経済的負担を庶民に転嫁する悪循環が形成されている。

中国の市場経済を背景に、「公平」と「効率」間のゲームは常に存在し、物事の発展の方向性を決定する。医療改革で解決すべき基本的な問題は2つある。基本的な医療サービスの公平性と医療サービスシステム効率の改善だ。「市場改革者」は「行政主導派」の非効率性と腐敗につながるとして批判し、「行政主導派」は「市場改革者」を多くの不公平を引き起こすと批判する。結局、実際の国家マクロ医療改革政策自体や各地での具体的な運用が異なり、考え方やスタイルも変化しており、このような「朝令暮改」は系統的な問題を引き起こしている。

2.不健全な公衆衛生サービスシステム、医療資源の不均衡な配分と不合理な構造

中国の発展の初期段階では、国家による「医療と衛生総量」が少なく、政府の財政投資がひどく不十分であった情況下で、その資源を都市部に集中したことで、都市部が医療資源を占め農村地域は後回しとなった。しかし、世間の病院や医療機関の市場化にさらされたことにより、病院や医療機関は自らの利益と損失に大きな責任を負わなければならず、病院と医療スタッフも経済利益のため「薬のための医療」という歴史的遺産を抱え今に至っている。これは大きながんのようで、国はそれを取り除きたいと思っているが、その困難さと長期的な性質は、随所で起こる「陣痛」と表現できる。

中国の都市部と農村部の貧富格差の存在と拡大および政策の傾向により、中国の医療衛生資源の不均衡な配分、衛生資源の浪費と非効率性が共存している。多くの医療衛生資源(医薬品、医療機器)は、仮に農村の医療機関に分配されていても、収入レベルや医療スタッフの技術レベル、不健全な医療保障で有効的な活用ができていない。

3.現行の行政管理された医薬品流通システムで不当な高額薬価を形成

中国の医療需要が増加し続ける中、現在の医薬品流通システムは完全ではない。行政管理が行き過ぎている場合もあれば、相反する管理監督が存在する場合もある。これら2つの相反する矛盾状態が絡み合っており、結果、医薬品流通システムでのコストと運用コストは依然として高いままという摩擦を起こしている。

例えば、勝手な「容易な管理監督あるいはこの種のサービスの方が優れている」という思考で、多くの地方で複数の医薬品販売業者を強制的に指定し、「ラストワンマイル」という事実上の独占を生み出している。一旦このパターンが形成すると、独占者は自発的に独自の独占権を維持し、サプライヤーや組織への「双方向プレミアム」を強行する。表面的には医薬品の価格は上がっていないのかもしれないが、実際は製造業者や流通業者が複数のリンクで積極的または受動的に「バックマージン」を行っているため、独占は社会の総コストを増加させる。

もう1つの例は、医薬品入札行動だ。本質的には透明性があり、運用効率を向上させ、コストを削減できる医療入札行動だが、入札行動は強烈な行政の管理監督と介入の対象となるため、そこに一旦巨大な権力が発生すると、その権力にすがる「レントシーキング」を形成し、回避することは不可能となる。非市場化要因の出現と形骸化された入札で、総コストは増加する。コストがどこで増加しても、そのコストは最終的にエンドユーザーすなわち一般市民が支払うことになる。

4.あいまいな管理の区別

政府は公立病院に対して二重のアイデンティティーを持っている。1つは所有者のアイデンティティーで、もう1つは管理者のアイデンティティーだが、これが「あいまいな管理区別」を生み出している。

これは中国の経済システム改革で古くから存在する問題だ。医療システムがより保守的であるため、国有企業や株式保有システムのような徹底的な改革はできていない。全国人民代表大会の代表は一部の人々の声を代表しているが、その多くは批判するだけで、医療業界の特殊性をまったく理解していない。

政府は医療サービス提供者の「人、金、業務」を一定管理しているが、企業という側面と事業機関という側面の両方を兼ねており「奇妙な」二重評価メカニズムを形成している。こうしたことで公立病院内部の管理は市場環境への適応性をますます低下させている。市場化が促進されると、隠されてきた多くの問題が露呈し、矛盾はさらに激化する。

公立病院が市場競争に弱いかというとそうではない。人材、ブランド、歴史の優位性を利用して、他の医療機関を圧迫する。同時に、学問的障壁の構築、政府の低家賃、低税の補助金、病院内の医療従事者のための施設の設立などにより、大病院は一つ一つの地域的な「ブラックホール」を形成し、活発に「病院のチェーン店化」に向けて拡大し続けている。

5.医療保険制度の不備

中国の医療保険の最大の特徴の1つは、それが非常に遅いことだ。新しい医療改革が始まって約10年しかたっておらず、医療保険改革は1970年代から始まっているが、それは絶えず「アクセとブレーキ」状態だ。もちろん、医療保険改革は非常に複雑で、地域によって経済水準も異なるため、地域ごとの医療保険の方針も異なり、政策の執行力でも天地の差がある。これは今日でも当てはまる。医療保険の全国的な決済をいまだ実現していない主な原因の一つだ。

医療保険改革には、国家発展改革委員会、国有資産監督管理委員会、財政部、労働社会保障部、商務部、薬品監督局、衛生監督など多くの部門が関与している。また、各省・市の党政府機関が含まれており、再三にわたりすべての利益の分配とゲームを実施する。経営主体の観点から、医療改革は衛生部門の責務であるはずだが、他の部門からの支援がないため、衛生部門のみでは実行は困難となっている。こうした多くの政府部門の縦割り行政が、改革やさまざまな政策の実施を難しくしている重大な原因の一つとなっている。

近年、中国の「新しい農村協同組合医療制度」の適用範囲は大幅に改善されてきている。しかし、7億人近くの農村部では、多くの農民が「新しい農村協同組合医療制度」に加入しているが、償還率と範囲(指定された村診療所と鎮と街道の保健センターで25%が払い戻され、外来患者の補償総額は1人当たり年間最大150元(約2700円)だ。二級以上の指定医療機関の外来医療費は払い戻されない)、それは医療費の伸び率に大きく遅れをとっている。都市部の解雇労働者や退職者などの低所得層も、医療保険の適用範囲が狭いのが現状だ。

■筆者プロフィール:内藤 康行

1950年生まれ。横浜在住。中学生時代、図書館で「西遊記」を読後、中国に興味を持ち、台湾で中国語を学ぶ。以来40年近く中国との関わりを持ち現在に至る。中国の環境全般と環境(水、大気、土壌)に関わるビジネスを専門とするコンサルタント、中国環境事情リサーチャーとして情報を発信している。著書に「中国水ビジネス市場における水ビジネスメジャーの現状」(用水と廃水2016・9)、「中国水ビジネス産業の現状と今後の方向性」(用水と廃水2016・3)、「中国の農村汚染の現状と対策」(CWR定期レポ)など。

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