<春闘論議スタート>消費減退抑止へ、着実な賃上げ必要―立石信雄オムロン元会長

立石信雄    2021年12月5日(日) 9時0分

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来年の春闘に向けた政労使の議論が始まった。日本経済の浮揚には消費減退抑止が急務。食料品や燃料など必需品の値上がりが目立つ中で、地に足を付けた着実な賃上げが必要だと思う。

来年の春闘に向けた政労使の議論が始まった。閉塞感が漂う日本経済の浮揚には消費減退抑止が急務。地に足を付けた着実な賃上げが不可欠だと思う。

海外のインフレの影響は徐々に国内にも及んできており、22年度は0.5ー1%程度の物価上昇になるとの見方が有力である。食料品や燃料など必需品の値上がりが目立つ中で、ベアの水準が低ければ賃金は実質的に目減りし、経済回復の基盤になる消費に水を差す恐れがある。

ベアが2014年ごろから復活するなど過去数年の春闘は一定の成果を上げてきた。しかし景気後退に入った19年ごろから賃上げ率は頭打ちとなり、コロナ禍で低下傾向にある。

連合は12月2日、来春の春闘方針を正式に決めた。ここ数年と同様、ベースアップ2%、定期昇給分を含め4%程度の賃金の「底上げ」を目指すことに加え、企業規模や雇用形態による「格差の是正」、企業内最低賃金協定などを掲げた。

企業業績は業種によるバラツキはあるものの、全体としてはコロナ禍以前の水準に復調しつつある。オミクロン株の動向など先行きはなお予断を許さないが、各種の政策的支援もあり、企業の多くは賃上げが可能な経営体力があると思う。

政府が賃上げを要請する「官製春闘」は第2次安倍政権の2014年春季労使交渉から始まった。厚生労働省によると、賃上げ率は直近のピークだった15年の2.38%から低下傾向となり、今年は1.86%と低水準にとどまった。

政府が11月下旬に開いた「新しい資本主義実現会議」で事務局が示した資料によると、主要国の中で日本の賃金水準の停滞が目立つ。過去20年間、企業が現預金や配当金を大きく増やす一方、人件費は横ばい以下だったという。岸田首相は「業績がコロナ前の水準を回復した企業」との前提をつけつつ、「新しい資本主義の起動にふさわしい3%を超える賃上げを期待する」と述べた。

民間の賃金決定への政府介入は市場メカニズムをゆがめるリスクもある。コロナ禍で業績が回復していない企業も多く、経団連は一律での賃上げに慎重だ。岸田首相の呼びかけは「要請」ではなく「期待」との表現だが、可能な企業はこれに応じればいい。

政府は賃上げした企業への優遇税制も検討しているが、中小・零細企業を中心に法人税を払っていない企業も多く、効果は不透明と言わざるを得ない。ボーナスでなく基本給の引き上げを条件とすれば、後年に負担が続くため企業は制度を活用しづらくなる。

重要なのは継続的に賃金を上げられる恒久的な手立てをつけることだ。主要7カ国で最も低い労働生産性を高めることが優先課題になる。企業は業務のデジタル化や人材教育へ積極的に投資し、政府がそれを強く後押しする必要があろう。

企業自身が継続的に賃上げできるよう収益力を高める努力も欠かせない。上場企業の手元資金は過去最高水準に膨らんでいるとされ、今こそ大胆な事業再編や成長に向けた技術開発を進めてほしい。

<直言篇183>

■筆者プロフィール:立石信雄

1959年立石電機販売に入社。1965年立石電機(現オムロン株式会社)取締役。1995年代表取締役会長。2003年相談役。 日本経団連・国際労働委員長、海外事業活動関連協議会(CBCC)会長など歴任。「マネジメントのノーベル賞」といわれるSAM(Society for Advancement of Management)『The Taylor Key Award』受賞。同志社大名誉文化博士。中国・北京大、南開大、上海交通大、復旦大などの顧問教授や顧問を務めている。SAM(日本経営近代化協会)名誉会長。エッセイスト。

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