玉虫色決着の北京冬季五輪「外交ボイコット」騒動=日本の国益に合致―立石信雄オムロン元会長

立石信雄    2021年12月26日(日) 8時30分

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バイデン米政権が呼びかけた北京冬季五輪「外交ボイコット」に追従しない国が相次ぎ、参加国の9割超の80カ国以上が外交団を派遣する見通しという。日本は東京五輪組織委の橋本会長ら3人の派遣を決めた。

開幕まであと40日余りとなった北京冬季オリンピック・パラリンピック。スキー、スケートをはじめ冬のスポーツ中継を連日楽しんでいる。フィギュアスケートの羽生結弦選手には五輪3連覇の偉業を達成してほしい。日本選手団主将となるスピードスケートの高木美帆選手はじめ多くのアスリートの活躍も期待できそうだ。

バイデン米政権が中国の人権状況を理由に閣僚や官僚など政府代表を送らないと発表して以降、英国オーストラリア、カナダが同調した。ところがこうした「外交ボイコット」に追従しない国が相次ぎ、参加国の9割超の80カ国以上が外交団を派遣する見通しという。

日本は東京五輪・パラリンピック組織委員会の橋本聖子会長(参院議員)、日本オリンピック委員会の山下泰裕会長、日本パラリンピック委員会の森和之会長らを派遣する。来年に国交正常化50年の節目を迎える中国との関係を安定させる必要性を考慮し、「外交ボイコット」との表現も見送った。

国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長は12月14日、「90の国・地域の国内オリンピック委員会(NOC)が北京五輪に参加するとして、80を超える国は外交ボイコットを表明していない」と明言したとされる。IOCは12月11日、五輪サミットで「五輪とスポーツの政治化に断固として反対する」との共同宣言をまとめた。

本来はアスリートが主役の「平和の祭典」である五輪だが、過去に米ソ両陣営の対立から一部選手が参加できない大会があり禍根を残した。1980年のモスクワ五輪で日本を含む西側諸国がボイコット。1984年のロサンゼルス五輪ではソ連をはじめとする東欧圏諸国の報復ボイコットがあった。40年後の今日(こんにち)、米中の覇権争いを五輪の場に持ち込み、「分断の祭典」にする愚は避けるべきだろう。

肝要なのは冷静で主体的な判断と行動である。フランスのセトン駐日大使は12月12日、日本記者クラブで記者会見し、北京冬季五輪への対応について「外交ボイコットは一切視野に入れていない」と否定した。欧州連合(EU)ではドイツ、イタリア、ハンガリーなども「外交ボイコット」を否定。その後も慎重な姿勢を示す加盟国が相次いだという。

このほかロシア、韓国、インドなども米国の呼びかけに追従しない方針だ。プーチン氏は北京冬季五輪の開会式に出席すると表明。「米国の決定は中国の発展を妨げようとする試みの一環」と批判した。韓国の文在寅大統領は「北京冬季五輪に招待された」と明かし、出席について慎重に検討する考えを示している。韓国の現政権としても、実績を作っておきたいとみられ、北京冬季五輪をきっかけに電撃的に南北首脳会談が実現する可能性もあるという。

日本政府は「外交ボイコット」との表現を控え「玉虫色」決着となったが、妥当な「落としどころ」と思う。中国は日本の貿易総額の24%を占める最大の貿易相手国。中国には、3万2887社の日系企業や11万1769人の日本人がいる。ウイグルでの人権状況が明確に検証されていない中で、日本が米中両国に配慮した方針を打ち出したのは賢明だったと考える。

今回の「外交ボイコット騒動」で露呈したのは同盟国・米国に安全保障を委ねる一方、世界最大の消費大国・中国に大きく経済依存する「日本の立ち位置」である。この図式は世界の多くの国々にとって、濃淡はあるものの共通であろう。今こそ世界と渡り合う「外交力」が試されると思う。

<直言篇186>

■筆者プロフィール:立石信雄

1959年立石電機販売に入社。1965年立石電機(現オムロン株式会社)取締役。1995年代表取締役会長。2003年相談役。 日本経団連・国際労働委員長、海外事業活動関連協議会(CBCC)会長など歴任。「マネジメントのノーベル賞」といわれるSAM(Society for Advancement of Management)『The Taylor Key Award』受賞。同志社大名誉文化博士。中国・北京大、南開大、上海交通大、復旦大などの顧問教授や顧問を務めている。SAM(日本経営近代化協会)名誉会長。エッセイスト。

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