日本に必要な「外国人へのやさしさ」=ウシュマさんの悲劇に思う―スリランカとの深いご縁から

大村多聞    2022年1月17日(月) 6時20分

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妻の親友がスリランカ人と結婚し、ご主人が亡くなった後もスリランカでの生活が気に入り同地で暮らしている。写真はスリランカの海岸。

過日タイヤ購入のために近隣の自動車部品専門店に行った。受付の小柄な外国人女性の胸元の名札がカタカナで長い。応対は流暢とは言えないが正確な日本語。タイヤ交換を担当した大柄な外国人男性整備士はさらに完璧な日本語で応対し仕事も手早い。やはり名札のカタカナが長い。「スリランカの方ですか?」「そうです。受付にもスリランカ人がいます」。私は異国の地で日本語を学び仕事をしている外国人に接すると素直に「すごいな!頑張れ!」と思う。「自分にできるだろうか?」とも思う。

妻の親友がスリランカ人と結婚し、ご主人が亡くなった後もスリランカでの生活が気に入り同地で暮らしている。10年前、私は妻および妻の友人と共にスリランカ首都の郊外にある彼女の自宅に泊めてもらった。そこを拠点に運転手付き車をチャーター、女3人男1人の大名旅行を楽しんだ。旅行中いくつかの有名寺院に行ったが、本堂は信者が捧げるお花で埋まり、お祈りする信者は真剣そのもの。彼女の自宅滞在中朝散歩すると、各家の前には小さいながらお寺と同じくお花が捧げられている。

◆スリランカ、日本の早期独立を支援

インドの南の「光り輝く(スリ)」「島(ランカ)」国の首都スリジャワルダナプラコッテは世界一長い首都名とも。「スリ」と「ジャワルダナ(元大統領の名で勝利をもたらすとの意味もある)」と「プラ(都市)コッテ(シンハラ王国の首都)」が合体したもの。どんどん合体するので名前が長くなる。このジャワルダナさんは日本の恩人だ。

1951年9月サンフランシスコ対日講和会議に出席したジャワルダナさん(当時大蔵大臣)は演説で「日本軍の行為による損害について賠償の権利を行使するつもりはない。仏陀の“憎悪は憎悪によって止むことなく、愛によって止む(Hatred ceases not by hatred but by love)”との言葉を信じるからである。…日本は真に自由で独立した国でなければならない」と発言、参加国に寛容の精神を求めた。また日本の独立を遅らせることとなるソ連の修正提案に反対し、日本の早期独立回復につなげた。スリランカ人の多くはこのことを知っており、日本人はみなスリランカに感謝しているのだと思っているが、残念ながらこのことを知っている日本人は少ない。

スリランカは仏教国でその上座仏教(テーラワーダ―)は原始仏教を忠実に保存し仏陀の説法を日常生活に活かしている。ジャワルダナさんは仏教国日本が大好きだとしていた。日本は大乗仏教で上座仏教と違うと思う方もいるかもしれないが、実は大乗仏教は紀元1~3世紀頃、当時複雑煩瑣となった部派仏教に対して釈迦の原点に戻れという運動だった。スリランカ仏教は釈尊仏陀の伝統を守っているとして日本仏教関係者の尊敬を集めている。

スリランカは現在、政治的には非同盟の立場で各国と良好な関係を維持しており、日本とは特に経済・貿易・技術協力を中心に良好な関係が続いている。また古代都市シーギリア等八つの世界遺産を有し日本からの旅行者も増えている。スリランカ・カレーはチキン、魚の他多くの果物が具材となっており優しいスパイスで日本人の口に合う。

◆外国人の人権、実質保証されず

2021年、悲しい事件が報道された。名古屋入管局に収容されていたスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさんが医師の治療を受けられず死亡した事件だ。収容に至る経緯はともかく、収容の在り方・手続・待遇において外国人の人権が実質保証されていないことが白日の下に晒(さら)された。日本人であれば例えば京アニメ放火事件では大勢を殺し自殺を図った犯人は手厚く治療され回復後裁判に付されている。他方外国人は裁判にも付されず過酷な環境の下に収容され死に至るケースが少なからずあるという差別が行われている。

外国人の人権は人道上また民主国家として日本人と同様尊重することが求められるが、安全保障の観点も重要だ。非人道的な扱いを受けた外国人が反日的になることは中国人技能実習生の実例がある。中国人技能実習生の間で流布されていたとされる読み人知らずの漢詩がある。

「…夢と希望のために日本に来た。夢と現実は天と地のように違った。異国の地で帰国することもできない。毎日牛のように働かされた。一年中春夏秋冬休みもなく。いわれない侮辱も受けた。…もしもう一度機会があっても。再び日本に来たくない」。

「2012年、尖閣諸島の国有化に起因して中国で反日暴動が発生した際、率先して参加した中国人の中に、技能実習や語学留学したものの日本に恨みをもって帰国した中国人が多く含まれていた」(元外務省梅田邦夫氏) せっかく日本に来られた外国人やその家族・遺族が反日の思いをもってしまうのは国家安全保障上明らかにマイナスだ。大恩ある国、日本が大好きだとした大統領を持つ国スリランカから来られた方が死亡し遺族が日本を恨みに思うのはなんとしても残念だ。

◆「国際人に一番重要な資質は他人への優しさ」

「国際人に一番重要な資質は他人への優しさです。日本人は限られたコミュニテイでは互いに親切だが、自分のグループを超えた外側に善意,優しさを示すことが不得意な民族です。いかに、自分の周りの人たちに、知らない人達に親切にできるか。これが国際人になるための基本的な資質だと思っています。」これは元外務省・外交評論家の故岡本行夫氏の最後の講演禄「日本にとって最大の危機とは?」にある言葉である。日本にとって最大の危機とは「他人へのやさしさ」に欠けた制度や個々人の振る舞いではなかろうか。

ウシュマさんの事件を報道で知った日本の某小学生が学校の作文で「外国人が差別されている現状を変えて欲しい」と書いたことをラジオで聞いた。この小学生の優しい気持ちをより多くの大人が共有することを期待する。日本国内に多数の外国人労働者がいる現在、だれでも国内で「他人への優しさ」を示すことが可能だ。また「外国人へのやさしさ」を基本とした制度改正を目指す議員候補者に一票を投じることも大人は可能だ。

■筆者プロフィール:大村多聞

京都大学法学部卒、三菱商事法務部長、帝京大学法学部教授、ケネディクス(株)監査役等を歴任。総合商社法務部門一筋の経歴より「国際法務問題」の経験・知見が豊富。2021年に(株)ぎょうせいから出版された「第3版 契約書式実務全書1~3巻」を編集・執筆した。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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