山崎真二 2022年1月31日(月) 7時30分
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中南米は日本ではあまり注目されないが、中国と台湾の外交合戦の“最前線”といっても過言ではない。写真の背景はホンジュラス国旗。
ここ数年、中国による台湾友好国の切り崩し工作が進む一方、台湾は友好国のつなぎ留めに懸命で双方の駆け引きが活発化している。
現在、台湾が外交関係を持つ国は14カ国。このうち、8カ国が中南米カリブ地域にある。2016年に台湾の蔡英文政権が発足してから、この地域では17年にパナマ、18年にエルサルバドルとドミニカ共和国、そして昨年12月にはニカラグアがそれぞれ台湾と断交し、中国と国交を結んでおり、中国が本腰を入れて切り崩し工作を展開している。
米国の中南米専門家らがほぼ一様に指摘するのが、中国の次の照準が中米のホンジュラスに向けられているということ。同国では今年1月27日、左派のシオマラ・カストロ氏が初の女性大統領に就任したばかりだが、外交路線の転換説がくすぶる。それというのも、カストロ氏が昨年の大統領選で「当選したら、中国と国交を結ぶ」と語ったからだ。「80年にわたり台湾との外交関係を維持してきたホンジュラスが対中国交樹立に踏み切れば、他の中南米諸国に"ドミノ"現象が起きる」(米国の中南米専門シンクタンク「インターアメリカン・ダイアログ=IAD」専門家)との声もある。
台湾はカストロ大統領就任式に頼清徳副総統を派遣するとともに、農産物を中心にホンジュラス産の25品目の輸入関税をゼロにすると発表するなどつなぎ留めに必死。現地メディアの報道によれば、頼清徳副総統がカストロ大統領と会談したものの、わずか7分だったという。新大統領の側近の一人が「当面、台湾との関係を断絶することはしないが、中国が決定的な役割を果たすようになっていることをホンジュラス国民は無視できない」と語るなど、親中路線への転換に含みを持たせる発言をしたのが注目される。
◆南米カリブでも駆け引き活発化
駐ホンジュラス外交筋によれば、中国はカストロ新政権に対し、新型コロナのワクチンの大量提供に加え大型の経済支援の話を何度も持ち掛けているという。中国が狙うのはホンジュラスだけではない。南米カリブ海諸国に対する働きかけも強化している。カリブ海に面する南米の小国ガイアナは昨年、台湾の代表部設置にいったんは同意したものの、その後中国の圧力を受け、同意撤回を余儀なくされた。カリブ海の島国セントルシアは台湾と断交し、中国と国交を結んだあと、再び台湾とよりを戻している。
カリブ海の島国の多くはミニ国家とはいえ、台湾が国交を持つ14カ国のうち4カ国を占めるだけに、中台とも無視できない存在である。南米で唯一、台湾と外交関係を有するパラグアイでは昨年、「中国政府の代理人」とされる業者が台湾断交と引き替えにコロナウイルスのワクチン提供を提案したと伝えられる。中国当局はこの話を「事実無根」と否定したが、台湾は「習近平政権が絡んでいるのは間違いない」と主張している。
長年、中国との外交関係を保っているペルーは昨年夏、左派政権が発足したのを機に対中関係の一層の緊密化が進む見通しだ。中南米は日本ではあまり注目されないが、中国と台湾の外交合戦の“最前線”といっても過言ではない。
■筆者プロフィール:山崎真二
山形大客員教授(元教授)、時事総合研究所客員研究員、元時事通信社外信部長、リマ(ペルー)特派員、ニューデリー支局長、ニューヨーク支局長。
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