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<日中100人 生の声>マスクを外し笑える日まで―三遊亭円楽

和華    2022年2月1日(火) 14時50分

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まさかの長期戦です。昨年は、こんなこともあろうか……又、1年は続かないだろうと安直に考えていました。新型インフルエンザ位のつもりでした。

まさかの長期戦です。昨年は、こんなこともあろうか……又、1年は続かないだろうと安直に考えていました。新型インフルエンザ位のつもりでした。香港風邪が、日本風邪、スペイン風邪と変わる様に、流れていくと……まさかのパンデミック。変異株。三波、四波、そして五波と。オリンピックの延期。我々は仕事の中止、延期。今まで毎日のように日本各地へ落語の出前をしに、東京駅に、そして羽田空港に通い東奔西走北上南下、1年の休みは夏休みの10日間、誕生日の五日間、あとはぽつぽつと休み、1年に300日以上落語をやっていたのが、今や週休4日~3日という現実、もちろん収入は大減収。私自身大病を2回患った身として休む事の大切さを感じさせてくれたのも、コロナ禍かも知れません。

自分は70才を過ぎていた事も、加齢による体力不足も、それすらも忘れて毎日落語をやっていました。同級生も皆リタイアした年齢で仕事の出来る喜びは確かにありました。大好きな落語をもっと多くの人々に知らしめたい。そんな想いもあって、楽しく毎日を送ってました。それが出来なくなった。

苦しさと、休めと天が言っているのかなという気持ちの交差での1年でした。最近ようやくペースがつかめるようになりました。

では落語とは……と、ちょっと脱線を。落語の歴史等は、これをお読みの皆さまには御自分で調べて頂くこととして、元々落語のルーツは、中国の『笑府』という本に載っている笑い話や小噺を直してやり始めたという説があります。

文化は昔、大陸から朝鮮半島を経て日本に入って来ました。宗教もしかり、我々が今使っている漢字が、その最たる物でしょう。日本人の面白さは、文化の加工にあります。落語という物も文化の加工です。色々な時代に合うように、家を作り直して現代に生きる物にしました。漢字を音読み訓読みし、くずし文字から、ひらがなを、部首からカタカナを作り、それをまぜて表現する日本語の面白さ、五言絶句、七言律詩という漢文から五七五七七の和歌を作り、その和歌の前半を五七五という俳諧にし、季節を読むことにより、世界で一番短い俳句という漢詩をつくる。言葉の面白さです。

その日本人の、日本語の面白さを生活の中で人情や愛や、うらみや様々な人間くささを一人で座って表現しているのが、我々の落語です。そんなエンターテイメントは世界中どこを探してもありません。たった一人で小宇宙を創り、笑い泣き、共感をつくる落語。そんなすばらしい芸能に出会い、みなさんに判ってもらう活動が、止まりました。

落語の中には日本人の忘れてしまった心が沢山あります。日本人の優しさや奥深さは、今、現代人が置き忘れて来た人間の素晴らしさが落語には残っています。不要不急の物って何でしょうか。

私の師匠である先代の円楽は、「映画も音楽も芝居もある、娯楽はゲーム含め、なんでもある時代だから、落語なんて、無くても良いモンなんだ。だからそれを悟られない様にしなさいヨ」と良く言ってました。確かにそれも一面。

しかしながらこれだけコロナ禍で、引きこもり、人流を断ち、心の中までソーシャルディスタンスをとって、人と人が離れていってしまうと、笑いや人情や友情や愛や、人間くささを表現する我々の落語は不要か、と?!いや、今だからこそ要ではないのかと思っています。

若手が寄席やホールで配信をしてくれました。皆、知恵を出して、何とか落語が出来ないものかと苦労してくれました。パソコンやスマホやDVDで落語は見られます。聴けます。しかしながらやはり落語は、生で、その同じ空間で、空気の振動とお客様の想像力に訴える芸能です。コロナの影響でこの2年が失われた時間となりました。落語はお客様あっての芸能です。キャパシティ50%でも、やらないことには、来ていただかないことにはNGなのです。キャパシティ50%ということは収入源も50%なんです。そこから経費やら何やらを、引くとギャラは大変少なくなります。

私は自分を育ててくれた落語界に最後の恩返しをしたいと、15年前に日本最大の落語イベント「博多天神落語まつり」を立ち上げました。四日間、約30公演、東西の噺家50人による大イベントです。昨年も今年も中止にしようとかと思いましたが、止める選択肢はありませんでした。やると決めたら、どうしたら出来るか、方向を決めたら方法です。

仲間に話したら、安くても出てくれるという返事でした。嬉しかったです。金で動く奴が1人もいなかったんです。打算ではなく、落語という物にとりつかれた仲間の有難さ、不要不急ではなくても要である自信。

これから残された寿命を落語会のプロデュースに力をそそぎ、良い若手やベテランの味、様々な落語と落語家の紹介に尽力しようと思っています。毎日毎日あわただしく動いて来た歩を止め、恩返しのチャンスを作ってくれた新型コロナウイルスの流行は、人間に足止めをしてくれたかも知れません。色々と考え知恵を出し、乗り切って行くぞと思っています。私には仲間という味方が沢山居ます。彼等と日本中に笑いを、落語を届ける毎日が復活するまでがんばります。

※本記事は、『和華』第31号「日中100人 生の声」から転載したものです。また掲載内容は発刊当時のものとなります。

■筆者プロフィール:三遊亭円楽(さんゆうていえんらく)


落語家。1950年東京・両国生まれ 。1970年4月、青山学院大学在学中五代目三遊亭圓楽に入門。1979年1月、放送演芸大賞 最優秀ホープ賞受賞。1981年1月、「にっかん飛切落語会」若手落語家努力賞受賞。1981年3月、真打昇進。1994年より中央福祉医療専門学校客員教授。2007年より東西の落語家が集う福岡市「博多天神落語まつり」プロデュース。2010年3月、六代目三遊亭円楽を襲名。現在の出演番組:日本テレビ系「笑点」BS日テレ「笑点特大号」、TBSラジオ系列「三遊亭円楽のおたよりください」

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