吉田陽介 2022年2月18日(金) 9時20分
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35歳以上になるとアカデミックポストに就くのが難しくなると言われている。中国でも「35歳」は意識されているようだが、事情はやや違うようだ。資料写真。
日本でもよく聞かれた「35歳の壁」という言葉は、35歳を過ぎると、若手とは見られなくなり、就職の幅が狭くなる。学術研究の場でも、35歳以上になるとアカデミックポストに就くのが難しくなると言われている。中国でも「35歳」は意識されているようだが、事情はやや違うようだ。
■35歳で「出世の天井に」ぶち当たる?危機感いっぱいの「オーバー35」
2月11日付の『第一財経』は、猟招聘がこのほど発表した「現代ビジネスパーソン35プラス危機現象洞察報告」を紹介し、中国のビジネスパーソンは「35歳プラス危機」を意識しているが、全体的に言えば、危機を感じている人の割合はさほど高くないという。
報告書によると、「危機をよく感じる」というビジネスパーソンは22.88%、「時々感じる」と答えたビジネスパーソンは59.67%で、2割近くは危機を全く感じていないそうだ。
ただ、全てのビジネスパーソンがそのような傾向にあるわけではなく、年齢によってばらつきがあることを報告書は指摘している。
「危機」を感じている割合が最も大きいのは1980~84年生まれの4割以上で、1970~74年生まれの33.3%、1985年以降生まれの24.65%、1975~79年生まれの23.81%がそれに続く。
40歳に大手がかかりそうな1980~84年生まれのビジネスパーソンは、家庭、仕事、健康、お金の面で不安を感じる割合がどの世代よりも大きい。なぜかというと、筆者も経験したことだが、就職してから一定の年月がたち、ある程度先が見えてことが関係している。
ITなど業種によっては、競争が激しく、新たなスキルを身につけないと、たちまち競争に敗れてしまう。あるIT企業に勤める中国人は「この業界は変化が激しいので、若い人は適応力があるからいいですが、年をとると、厳しくなります。35歳で管理職のポストを得られればいいですが、そうでないと大変です」と筆者に打ち明けた。
さらに言えば、40歳近くになると、子供がある程度大きくなり、教育を意識しなければならなくなる。今は中国政府の打ち出した課外授業の負担軽減策とコロナ禍の影響で、塾を取り巻く環境が厳しくなっており、事情はやや変わっている。だが、負担軽減策が打ち出されたかとはいっても、受験競争が激しいという現実は変わったわけでない。競争を勝ち抜くには「学校での勉強プラスアルファ」が必要で、家庭教師などで勉強させる必要があるが、それにはお金がかかる。もちろん、塾への金銭的負担も小さくなかったが、家庭教師のようなマンツーマン教育の場合、より大きな負担を強いられる。
また、両親が日々の仕事で子供の教育を見ることは難しいため、どうしても祖父母に頼るしかなく、同居する人も少なくない。「上に老人、下に子供」を抱えて競争する世代はプレッシャーが大きいといわれる。
■「若いうちに成果残さねば」変化の激しい業種はプレッシャー大
報告書によると、「危機を感じる」業種はインターネット産業で、67.45%のビジネスパーソンが「35歳プラス危機」を感じており、電子通信産業の30.66%、不動産業の21.46%、教育・メディア産業の16.04%がそれに続く。
インターネット産業と電子通信産業で高い数字となっている。理由は前出のIT企業の社員の中国人が言うように、変化が激しく、「給料が高い」業種というイメージがあるため、競争相手が多いという背景があると考えられる。
下位にランクインされている教育・メディア産業も、若手との競争が激しい。筆者は教育産業で働いているが、感じるところがある。北京のある大学の日本語学科の責任者から、日本人教員の推薦を頼まれたことがあるが、その際の条件が「若いこと」だった。理由を尋ねると、「ベテランの先生もいいんですが、学生と歳が離れすぎていると、学生の方が交流できないと言って嫌がるんでね」という答えが返ってきた。もちろん、年配の先生でも「ベテランの味」を出して、学生との交流もスムーズにできる。ただ、最近の中国人学生の好きなアニメやゲームは、筆者でもわからないことが多く、帰ってから調べるということもしばしばある。
それだから、その責任者は若い人が欲しいと言ったのだろう。その責任者だけでなく、若い人材が欲しいという声はいくつかのところで聞いた。
そのため、教育でも「35歳プラス危機」であるというのはあながち間違いではない。
■「35歳=限界」は崩壊、ベテランにも活躍の場あり
『第一財経』の記事は、歳を重ねるほど有利な業種についても言及している。それによると、企業が10年以上の経験を応募条件にしているポストは、資産管理、企業向けITサービス、データサービス、薬品の研究開発、モノのインターネット、スマートハウス、自動運転、ロボットなどの分野だ。これらの分野は、現在の中国経済の発展にとって重要な産業だ。新しい技術やサービスを生み出すには、長い経験と蓄積が必要とされる。企業向けのサービスも、業界動向に明るく、個々の企業の状況に合わせたサービスを提案するには、経験が必要だ。
また、建築管理やプロジェクトマネージャーなどの管理職も年齢を重ねるほど有利とされている。この点は日本と変わらない。
ここでは取り上げられてなかったが、翻訳業も年齢に関係なく参入でき、経験を重ねるほど「いいもの」ができる業種だ。ただ、それ一本で生計を立てることが非常に困難という問題があるが。
1月27日付の『日本経済新聞』の記事は、この5年間で転職の35歳の壁が崩れ、若い人材を育てるよりも、脂の乗った40代にシフトする傾向にあるという人事コンサルタントの話を紹介しており、業種によっては年齢で「危機」を感じる必要はなくなっている。
前述のように、「危機」を感じている割合は80~84年生まれが多く、70年代に生まれた人が少ないのは、「自分の未来が見えてきた」ということもあるが、ここで述べたような歳を重ねても活躍できる場があることも一因だろう。
このように、中国でも、「35歳=限界」という考え方は、業種によってはなくなっている。ただ、歳を取っても活躍できるポストに就くには、日々の仕事で自分のスキルを上げることが重要なことは、どこの国も変わらないことだ。
■筆者プロフィール:吉田陽介
1976年7月1日生まれ。福井県出身。2001年に福井県立大学大学院卒業後、北京に渡り、中国人民大学で中国語を一年学習。2002年から2006年まで同学国際関係学院博士課程で学ぶ。卒業後、日本語教師として北京の大学や語学学校で教鞭をとり、2012年から2019年まで中国共産党の翻訳機関である中央編訳局で党の指導者の著作などの翻訳に従事する。2019年9月より、フリーライターとして活動。主に中国の政治や社会、中国人の習慣などについての評論を発表。代表作に「中国の『代行サービス』仰天事情、ゴミ分別・肥満・彼女追っかけまで代行?」、「中国でも『おひとりさま消費』が過熱、若者が“愛”を信じなくなった理由」などがある。
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