中東での中国のプレゼンス高まる=経済分野から政治・軍事面へ拡大―「一帯一路」連携強化も

山崎真二    2022年2月23日(水) 7時20分

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中東で中国がプレゼンスを高めているのは周知の事実。だが、最近では経済分野だけでなく政治・軍事面でも影響力を拡大する気配がうかがえる。写真は王毅外相とサウジのファイサル外相の会談。

中東で中国がプレゼンスを高めているのは周知の事実。だが、最近では経済分野だけでなく政治・軍事面でも影響力を拡大する気配がうかがえる。

◆GCCとFTA早期妥結で合意

北京冬季五輪を目前に控えた今年1月中旬、中国は湾岸協力会議(GCC)の主要国であるサウジアラビア、バーレーン、クウェート、オマーンの外相を招き、新たな協力関係について協議した。中国外交部の発表によれば、王毅外相がこれら4カ国外相との間で貿易・経済協力の強化、「一帯一路」構想での連携に加え、自由貿易協定(FTA)の早期妥結を目指すことなどで合意した。中国共産党機関紙「人民日報」傘下の「環球時報」(英語版)の報道によると、今回の協議では中東紛争の諸問題解決に向け中国が支援することでも双方の意見が一致したという。

とりわけ注目されるのは、王毅外相とサウジのファイサル外相の会談。王毅外相はサウジが中国の中東外交の最優先国であると強調する一方、ファイサル外相は自国の国家戦略「ビジョン2030」と「一帯一路」構想の連携強化に言及したと伝えられる。昨年、サウジがロシアを抜いて中国にとっての最大の原油輸入国となるなど、経済・貿易・投資分野での両国の相互依存関係が一段と深まっている。

そればかりではない。中国はサウジを「包括的戦略パートナー」と位置付け、軍事面でも協力関係を強化しようとしているようだ。昨年12月、サウジアラビアが中国の支援の下、国内で弾道ミサイル製造を始めたと米CNNテレビが報じたことはまだ記憶に新しい。香港の有力紙「サウスチャイナ・モーニング・ポスト」の最近の報道によれば、中国とサウジの国防当局者が1月、オンライン会談を行い、魏鳳和国防相が両国間の軍事協力の促進を約束したという。

◆中東問題話し合う多国籍協議を提案

王毅外相は、GCC諸国外相に続き訪中したイランのアブドラヒアン外相とも会談。双方は昨年の王毅外相のテヘラン訪問時に合意した「包括的戦略計画」の開始を公式に発表した。同計画の下で今後25年にわたり中国がインフラ部門を中心に総額4000億ドルをイランに投資する代わりにイランが中国向けに原油を安価で供給するとみられる。会談では、中国が「イラン核合意」再建に向けた交渉でイランを支援する方針を改めて示したのに対し、イランは「香港」「台湾」など中国の核心的利益にかかわる問題で習近平政権を支持する旨表明、双方は現在の包括的戦略協力関係を新たな段階に格上げすることでも合意したもようだ。

CNNなど米メディアは中国問題専門家の見方として、今回の中国・イラン外相会談では中国側がイエメン紛争など中東問題を話し合う多国籍協議の場を設けることを提案した点が注目されるとし、中国はイランと協力して国際政治面での関与を強めようとしていると報じている。これを裏付けるような報道もある。イランの英字紙「テヘラン・タイムズ」は、2月7日に王毅外相がアブドラヒアン外相と電話会談を行い、3月末に北京で開催する予定のアフガニスタン関係国会議にイランを招待したと報じている。イランがインド洋で中国、ロシアと合同軍事演習を行ったとのニュースも先ごろ伝えられた。

◆中東への関与不可欠と認識か―習近平政権

アラブ首長国連邦(UAE)への中国の影響力も一段と増大している。王毅外相は1月、GCC外相訪中団に加わらなかったUAEのアブドラ外相と電話会談し、二国間協力の一層の強化を呼びかけた。UAEはGCC諸国の中でも「一帯一路」構想への参加を最も早く表明、同構想による中国の対UAE投資額はサウジ向けを上回るほど。コロナウイルス禍の昨年、UAEは中国と合弁で国内にワクチン工場を建設、中東でのワクチンの一大供給基地となっている。昨年暮れ米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」が、UAEの港での中国の軍事施設建設に米国が警告を発し、建設中止となったと報じるなど、軍事面でも中国がUAEへの関与を図ろうとしている実態が明らかにされた。

実は、米国にとって中東での最大の同盟国であるイスラエルにも中国が急接近しているのは知る人ぞ知るところ。イスラエルにとって中国は輸入面では最大の相手国、輸出では2番目に浮上した。中国はイスラエルが持つ独自の軍事技術の入手を狙っているとの情報も流れている。王毅外相が昨年、イスラエルとパレスチナの和平協議の中国開催を提案したことも見逃せない。中東地域での中国のプレゼンス拡大をめぐっては「エネルギー資源の確保など経済的利益を守ることが最大の目的といった見方が従来、支配的見方だったと言えよう。

しかし、最近の中国の動きをからして、「習近平指導部の間では、中東の経済利益の確保と『一帯一路』構想進展のためには政治・軍事面でも中東に関与することが不可欠との認識が強まっている」、「バイデン米政権は中東への関与を薄めようとしているものの、中国がその空白を埋める形で中東紛争にかかわろうとしていることに苛立ちを感じている」(米民主党系シンクタンクの複数の中国問題専門家)という意見が聞かれるようになってきた。米中対立が続く中、中国の中東外交の行方も注視する必要がありそうだ。

■筆者プロフィール:山崎真二

山形大客員教授(元教授)、時事総合研究所客員研究員、元時事通信社外信部長、リマ(ペルー)特派員、ニューデリー支局長、ニューヨーク支局長。

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