天皇制、このままでは自然消滅も=回避へ国民の7割が「女性天皇」支持―期待される愛子さま

八牧浩行    2022年3月7日(月) 5時30分

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各種世論調査では70%以上が女性天皇制を支持。皇室の伝統を維持するためにも新たな時代へ踏み出すべきだろう。写真は英国留学時代の天皇陛下(1983年、オックスフォード大&エディンバラ城で=筆者撮影)。

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将来天皇を継承される秋篠宮家長男・悠仁さまが志望していた筑波大学附属高校に合格し、皇室にスポットが当たっている。

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筆者は天皇陛下(浩宮さま)の英国オックスフォード大学留学時代(1983〜1985年)に時事通信のロンドン特派員として、浩宮さまを取材した。度々同大学を訪ねたほか、英国王室との交流やヨーロッパ王族を訪ねる旅行や登山にも同行。若き日のプリンスのお考えに接する機会も多かった。

当時浩宮さまは世界の多くの若者と交流し、協調と平和友好の精神を学ばれた。パブや寮の食堂などで学友と談笑することも多かった。欧州各地を旅行し、多くの民族との交流を通じて、平和主義と民族多様性を尊重すべきであることを認識された。

欧州で暮らすと世界を東西南北、グローバルかつ多角的に見渡す目が養われる。特に覇権国家だった英国には各地域の情報が集中し、世界中の学者や留学生、ビジネス関係者が集まる。これらの人たちとの交流を通して、地球市民という理念を共有され、民族多様性、平和友好などの課題を地球的規模で捉えておられた。

英国留学時代の2年半、当時の皇太子夫妻(上皇さま=平成の天皇・皇后)が公務で世界各国に行かれた帰途、ロンドンに毎年立ち寄り、浩宮さまも交えて記者会見した。夫妻はアフリカや北欧などの印象を語り、「相互交流と平和友好の尊さ」を強調し、浩宮さまも全面的な賛意を示していた。

その後、筆者は東京で皇后になられた美智子さまと話したことがある。浩宮さまとの英国時代の思い出を披露したら、「もっと聞かせてほしい」と長時間耳を傾けてくださった。浩宮さまを気遣う深い情愛とともに「世界の人々により添い平和を願う」気持ちも伝わってきた。美智子さまのようなヒューマニズム精神にあふれた温かい母親の下で、天皇陛下の資質や考えも育まれたと思う。

◆「憲法にのっとり責務果たす」

天皇陛下は令和元年(2019年)5月4日の即位後朝見の儀で「常に国民を思い、国民に寄り添いながら、憲法にのっとり、象徴としての責務を果たす」と述べられた。平成の天皇(上皇さま)が即位時に「日本国憲法を守り、これに従って責務を果たす」と述べられたおことばを、引き継ぐもので、平成の時代に作り上げられた象徴像を引き継がれるお気持ちを示された。

戦後生まれの天皇として初めて臨まれた同年8月15日の全国戦没者追悼式でのお言葉は、上皇さまが前年の追悼式で語った内容をほぼ継承。代替わり後も平和への強い思いを受け継いでいくことを示された。

戦後70年にあたる2015年の皇太子としての会見では「戦争の記憶が薄れようとしている今日、謙虚に過去を振り返るとともに、戦争を体験した世代から戦争を知らない世代に、悲惨な体験や日本がたどった歴史が正しく伝えられていくことが大切です」と言明。19年5月の代替わり前、戦没者慰霊が話題に上った際、「戦争を知らない世代であるからこそ、風化させないよう一層意識的にならないといけない」とかみしめるように語られたことがあった。

19年10月22日の即位礼正殿の儀では天皇陛下は「憲法」に二度、「平和」に三度言及され、「国民の幸せと世界の平和を願い、憲法にのっとり、象徴としての務めを果たしたい」と強調された。天皇陛下は同年5月4日の一般参賀でも、「我が国が諸外国と手を携えて、世界の平和を求めつつ、一層の発展を遂げることを心から願っております」とお言葉を述べられた。皇室外交が果たす役割は大きい。国際的交流に努められ多様性を重んじられる天皇と皇后には、国際親善をはじめとする新たな公務も努めていただきたい。

言論NPOが19年5月~6月に実施した世論調査によると「信頼できる」と回答したのは「天皇・皇室」が87%と断トツ。「国会」「政府」「メディア」がいずれも20~30%台にとどまったのと好対照で、親しく国民に寄り添う姿勢が評価されているようだ。

天皇皇后の式典や会見などでのお言葉は年に数回のみ。気楽にアドリブでやりとりする機会は事実上閉ざされている。天皇はご自分の言葉で当意即妙な受け答えができる聡明な人。しかも抑制的なお人柄で則を超えずご発言には安定感がある。英国など海外の皇族のように露出が多ければ国民の人気はさらに高まるであろう。

◆戦前イデオロギーの復活阻止へ、開かれた皇室づくりを

一方で、一部勢力は、天皇が明治期のように一人で祭祀を行い「万世一系」の戦前イデオロギーの復活を志向。保守派は明治時代のように天皇だけが行幸し、「提灯奉迎」や「天皇陛下万歳」をするのを理想としている。「天皇の神格化」など歴史の逆回転をチェックし、もっと開かれた皇室づくりをサポートすべきであろう。

日本の皇統は断絶の危機に直面している。皇位継承権者はわずか3人。女性皇族の結婚などで皇室全体も縮小している。今後皇統をどのようにつなぎ、安定した形で維持するかが課題となる。

◆皇位継承権者は事実上2人

皇室典範は「皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する」と定め、皇位継承権者を男系男子に限定する。現在の皇位継承者は順に(1)秋篠宮さま<56歳>)(2)悠仁さま<15歳>(3)常陸宮さま<86歳>――の3人だが、事実上2人に絞られ、このままでは先細りとなる。

2005年11月、当時の小泉純一郎首相が設けた「皇室典範に関する有識者会議」が、女性天皇や母方が天皇の血筋を引く女系天皇を容認する内容の報告書をまとめたが、翌2006年2月に秋篠宮妃紀子さまが悠仁さまを懐妊されたことが明らかになり、議論はしぼんだ。

旧民主党政権下の12年10月には当時の野田佳彦内閣が、結婚後も女性皇族が皇籍を維持する「女性宮家」の創設案を軸とする論点整理を公表した。これは同年12月の衆院選で自民党への政権交代があり、議論は宙に浮いた。上皇さまの退位に当たり17年6月に成立した皇室典範特例法は、付帯決議で「安定的な皇位継承を確保するための諸課題、女性宮家の創設等」を代替わり後に検討し、国会に報告するよう政府に求めている。

女性宮家は女性皇族が結婚後も皇室にとどまるもの。皇族数減少への対策となるが、皇位継承を男系男子に限る現行制度では、皇位継承者の確保にはつながらない。保守勢力は女性天皇に反対している。

こうした中、有力者から女性天皇容認論が続出している。19年11月下旬に、甘利明税制調査会会長(当時)が民放テレビの番組で「男系を中心に順位を付け、最終的選択としては女系も容認すべきだ」と発言。二階俊博幹事長(同)も「男女平等、民主主義の社会を念頭に置いて考えれば、おのずから結論は出るだろう」と、女系天皇を排除しない考えを示した。

◆皇位継承報告書は「女性天皇」否定

皇室典範上の皇位継承順位とは別に、次世代の皇室の継承者として国民から期待されるのは悠仁さまと愛子さまのお二人。政府は皇位継承資格を男系男子に限っていることについて国会で「男系継承が古来例外なく維持されてきたという我が国の伝統を踏まえたもの」と答弁している。しかし、これは男系か、母方だけに天皇の血をひく女系かという点についての答弁であって、愛子さまのような男系の女性天皇の否定にはならない。男系の女性天皇は日本の歴史に例があり、政府の国会答弁は「男系」女子の愛子天皇を過去一度も否定していない。

男性天皇の継続は「男女共同参画」の風潮にも逆行する。世界の王室に比べ日本の男子に限る継承制度は異例で、男系の長子が男女を問わず継ぐことがわかりやすいとの声は根強い。各種世論調査では70%以上が女性天皇制を支持している。日本の歴史上、女性の天皇は推古天皇や持統天皇10代、8人存在しており、皇室の伝統を維持するためにも新たな時代へ踏み出すべきだろう。

皇位継承をめぐる有識者会議の報告書が2022年1月、各党代表に説明され、論戦の場は国会に移った。報告書は、秋篠宮家の長男「悠仁さままでの流れを前提」にして、減少する一方の皇族数を確保するため、(1)女性皇族が結婚後も皇室に残る(2)旧宮家の男系男子が養子になり皇族に復帰(3)男系男子を法律で直接皇族とする――という内容。国民の支持が高い「女性の天皇」案は否定された。代わって旧宮家の復帰案が浮上したが、憲法違反(家柄による差別)の恐れがあるほか、問題点や課題が指摘され、高いハードルをクリアしなければならない。

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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