日米欧、そして中国ではスーパーコンピューター、いわゆるスパコンの開発競争が続いている。半年に1度発表されるスパコンの性能ランキングの「トップ500」も、抜きつ抜かれつの状態が続いている。中国がスパコン開発に力を入れるのはなぜなのか、そして今後の見通しはどうなのか。中山大学計算機学院教授で国家スパコン広州センター主任の盧宇彤氏は中国メディアの中国新聞社の取材に応じて、一般読者向けに中国のスパコン事情を解説した。以下は盧氏の言葉に若干の説明内容を追加するなどで再構成したものだ。

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■ある国の「スパコン力」は、開発能力だけで評価できない

スパコンの特徴はまず、演算速度が速いことだ。中国が開発した「天河2号」が1秒間に実行する演算は、14億人の中国人が電卓を約1年間はじき続けた計算量に相当する。次に記憶容量の巨大さだ。「天河2号」の記憶容量は1．4ペタバイト（約1500兆バイト）だ。この情報量は、1冊10万字の電子書籍約1000億冊分に相当する。ちなみに、中国における書籍の新刊書籍出版数は年間約20万点だ。

スパコンはイノベーション型の国家を建設するための重要なインフラだ。挑戦的な問題を解決するための重大なサポートプラットフォームであり、産業の革新的発展を支える増幅器であり、情報化建設を支援する資源プールだ。

ある国の「スパコン力」を評価するには、先進的なスパコンを開発する能力だけではく、一流のスパコンによって各分野のイノベーションを加速する能力かどうかが大切だ。

スパコンによる支援が欠かせない分野は宇宙科学、地球科学、生命科学、核科学、石油探査、原子力発電所、遺伝子工学、大型設備の設計・製造、自動車、船舶、機械製造などの伝統的な産業、および新エネルギー・新材料、次世代通信などの新興産業、さらにスマート都市、電子政府、インターネットとIoT（モノのインターネット）、ビッグデータとクラウドコンピューティングなどと極めて広い。言い方を変えるなら、現代社会におけるほとんどの分野のイノベーションはスパコンを必要としているということになる。

■激しく競争するだけでなく、国際的な交流と協力に注力

米国はスパコン分野で最も競争力のある国だ。日本のスパコン開発と応用のレベルは相当に的に高くて独自色がある。欧州はスパコン開発件数が比較的少ないが、スパコン応用能力は相当に高い。中国でもスパコンシステムと応用が急速な発展を遂げ、世界トップの仲間入りを果たした。

中国がスパコン開発に本腰を入れてから約30年だが、「天河2号」はトップ500で2013年6月の発表から15年11月の発表まで6回連続、「神威・太湖之光」は16年6月から17年11月まで4回連続、つまり中国製スパコンが10回連続で世界第1位の評価を得た。

中国はスパコンの応用面でも進歩を続けている。トップ500が選出した最も応用影響力があるスパコンセンターは上位4位までが米国のセンターだが、広州スパコンセンターは5位につけた。

中国のスパコンが短期間で飛躍的な発展を実現できたのは、まずは21世紀になってから先端科学研究、重大プロジェクト建設、産業技術イノベーションなどのための大きな需要があったからだ。さらに重要なのは、関係者の奮起、自主革新、献身の精神と実践だった。中国のスパコン研究チームは同じ時間内により多く努力して、より多くの技術革新を成し遂げた。

スパコン分野では競争だけでなく、国際的な協力や交流が非常に重要だ。広州スパコンセンターは運用する「天河2号」の強大な国際的影響力により、米国、日本、ドイツ、英国など数十カ国の研究機関と長期的な協力体制を築いた。このような交流や協力を通じて、中国のスパコン応用の進展が広く認められ、またスパコンセンター側としては国際的な先端科学研究の協力におけるプラットフォームになることができた。

■新世代「エクサスケールコンピューター」が築く未来

コンピューターの演算速度を示す場合にはよく、浮動小数点演算と呼ばれる処理を1秒間に実行できる回数が用いられる。現在、注目されているのはエクサスケールコンピューターと呼ばれる1秒間で100京回、つまり１の後に0を18個並べて示される数字の回数だけ浮動小数点演算を実行できるスパコンだ。

業界内では、中国は2022年内にエクサスケールコンピューターの完成を発表するとの予測がある。中国は気象関連や航空・宇宙分野、地震地質研究、資源探査、バイオテクノロジーの分野で、エクサスケールコンピューターを利用して超大規模の計算やシミュレーションを実施する。また経済や国民生活、情報の安全が保たれた行政データ、医療衛生、健康分野などのビッグデータを分析することになる。

今後もかなり長期にわたり、スパコンが唯一のハイエンド計算プラットフォームであり続けると考えられる。世界各国はスパコンの開発と利用の競争にしのぎを削ることになる。（構成 / 如月隼人）