和華 2022年3月25日(金) 22時50分
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私の母校の早稲田大学、東京大学及び関係筋の日中友好機構などに2回に分けて4万枚のマスクを寄贈した。写真はマスク寄贈の準備(右から日本浙江総商会林立会長、鄭燕秘書長、金[吉吉]様)
2019年12月末、私は中国教育部による派遣で従事していた公益財団法人日中友好会館での仕事を終えて、浙江大学に戻った。思わぬことに翌月から新型コロナウイルスによる肺炎が蔓延し始め、実家の自宅で2カ月ほど自粛するようになった。最初はけっこう不安で、日本の友人や句会から俳句を続けてほしいと連絡が来た。これをきっかけに、2020年1月から俳句で日中間を往還することになった。俳句作品だけでなく、俳句に関する評論、文章も若干発表することができ、さらに予想外ではあったが俳句を通して草の根の交流をより深めることができ、まさに「コロナ禍の今を生きる」の自画像が描かれたかのようであった。
▼俳句で記録し、分かち合うこと
2020年1月下旬からちょうど中国の旧正月に入った。その後道路封鎖や外出を控えるルールが決まり、厳しい自粛生活の中で日本から励ましのメッセージがたくさん届くようになった。俳句を勧めてコロナ禍の日常生活、仕事、気持ちなど自分の経験したことを俳句で記録して、みんなで分かち合おうと思った。月にそれぞれ3句、5句、6句、8句と週に1句の句会と相次いで行い、思いがけずこの1年半の間に500句あまりの俳句を詠むことができ、その半分以上は日本の俳句専門誌『天為』や中国の『人民中国』などに発表できた。日中間20人ほどの「聊楽」句会は毎週月曜日まで出句、火曜日選句、水曜日結果発表となっているが、コロナ禍の中でもみんなの句集の2冊目が完成できた。また、2020年3月は故有馬朗人先生の第十句集『黙示』の感想文として「日中歳時記の啓示」を書いて本に掲載できたが、『和華』のご厚意で、2020年7月と9月はそれぞれ「俳句と俳画で思いを共有し、日中文化の相互理解を深める」と「有馬先生が俳句に描く中国」という文章を発表させていただいた。
例えば、下記の俳句はコロナ禍の最初の事情を記録したものだ。それらの作品を日本の関係者に分かち合うと同時に、画家の友人である王玉紅氏に俳画に描いてもらった。さらに一部の作品を「俳句に癒された今年の春」というテーマで『人民中国』に発表した。
1.乾坤をひっくり返す春の風邪
2.待春の書斎の窓を閉じ開き
3.さまざまなマスク姿も春一番
4.観客のいない舞台や山笑う
5.行先も忘れるままの雨水かな
俳句は「座の文芸」で、いままでの句会はほとんど対面方式だったが、コロナ禍のために多くの句会をオンライン形式に切り替えざるを得なかった。頭が下がるのは80代、90代の先生方もメールやWe Chatで交流し、国境を越えて頻繁にご指導くださったことだ。
▼俳句による往還
俳句を続ける中で、日中間の草の根交流がコロナ禍の中で一層深められたことは意外なことであった。2020年3月下旬、日本の新型肺炎感染者が増える中で、浙江省のある経営者から日本にマスクを寄付したいので協力してほしいと相談を受けた。さっそく物流会社から受け入れ先まですべて手配した。日本浙江総商会を窓口として、私の母校の早稲田大学、東京大学及び関係筋の日中友好機構などに2回に分けて4万枚のマスクを寄贈した。嬉しいことに、その包装に私の俳句「鴻雁北一衣帯水の絆かな」と「山川と風雨を輪に春霞」に基づいた俳画が貼り付けられた。
みんなの協力を得て、短期間で多くの小学校や大学の先生、学生、年配者、政治家まで届けることができた。東京が緊急宣言に入る直前、東京大学大学院総合文化研究科・教養学部のホームページに「日本浙江総商会様よりマスクの寄贈を受けました」というニュースがアップされたと同時に、下記のメッセージが送られてきた。
夏先生の俳句「山川と風雨を輪に春霞」、そして王衆一先生の漢俳「春委闘春寒、山川異域同風雨、共画同心圓」の意境の如く、中国の皆さまとの友好協力のもとで、心を同じくしてこの人類的難局に当たれば、いつか春の日のようにうららかで平和な日常を取り戻せるにちがいないと信じております。
その時の事情は2020年4月末から5月にかけて、新華社の姜俏梅記者の取材で多くのメディアに転載されたが、記事の一つのテーマ見出しは『「山川異域、風月同天」に応え、俳句でお返し』で、よく我々の気持ちを表していると思った。
上記の寄贈マスクは全部私が一任されたので、当然関係あるところは優先的に考慮した。私の参加している天為俳句会には年配の方が多く、必ず必要になると思った。偏りなく配布するために『天為』の編集部へマスク1000枚届けて、必要な方に提供する形になった。2020年6月、天為湘南句会の責任者である内藤繁先生から「俳句で繋がる日中友好――夏瑛さんマスクご寄贈への御礼の一句」で会員55名と指導者2名の俳句が寄せられた。心を込めた57句の俳句を読んで本当に感無量である。その一部を下記に挙げてみたい。
マスクしてちよつと会釈の薔薇の垣(山口梅太郎)
友愛の大きくひらく牡丹かな(遠藤由樹子)
語り合ふ影や蘇堤の夏柳(内藤繁)
コロナ禍をともに克服夏光る(金子肇)
海越えて慈愛に満つるマスク来る(佐藤武代)
小満の華胥の国よりマスク来る(杉美春)
江南の風きらめきて夏柳(渡部有紀子)
コロナ禍に友愛嬉し虹二重(飯島栄子)
チャップリン会の指導者である西脇はまこ先生は「世界中で一番マスクが手に入らない時期、夏瑛さんから送って頂いたマスクは、どんなに嬉しく有難いと思ったことか、手元に届いて無かったとしても、編集部でストックされていると思えば、大変強く心の支えになりました。」との話を聞いて本当に感動した。
俳句は世界一番短い詩であると言われているが、全人類の災害であるコロナ禍の中で、俳句を通して、日中間このような往還ができることはお互いに勇気を与え、困難を乗り越えることができれば幸いだと思う。これからも俳句を続けて、日中相互理解のために頑張りたい。
※本記事は、『和華』第31号「日中100人 生の声」から転載したものです。また掲載内容は発刊当時のものとなります。
■筆者プロフィール:夏瑛(かえい)
コミュニケーション学博士。浙江大学経済学院教員、コンテンツ研究センター副主任、日本文化研究所研究員などを兼任。日本ではデジタルハリウッド大学大学院特任教授、(公財)日中友好会館元留学生事業部部長などを務める。研究領域はデジタルコンテンツ産業と俳句など。日本「天為」俳句会同人、俳人協会会員。国際メディア・女性文化研究所研究員。
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