憲法9条はどこへ?世界第5位の軍事力を「抜本的に強化」―安倍・菅・岸田政権と続く軍備増強

片岡伸行    2022年3月29日(火) 6時50分

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軍事分析会社グローバル・ファイヤーパワー(GFP)の算定した「2022年軍事力ランキング」によれば、日本は堂々の世界第5位である。(出典:内閣府 https://www.kantei.go.jp/)

戦争法とも呼ばれる安全保障関連法(2015年9月成立)によって、日本が「他国と戦争のできる国」になって7年。この間、幸い「戦争」には参加していないが、いつそれが起きてもいいように〝準備〟は着々と進められている。「軍備増強」に焦点を絞って現状を見ていく。

◆世界第5位の軍事力

岸田文雄首相は3月27日、防衛大学校の卒業式で訓示し、「ロシアによるウクライナ侵略により、国際秩序根幹が脅かされています。事態の展開次第では世界も、そしてわが国も戦後最大の危機を迎えることになります」「あらゆる選択肢を排除せずに検討し、防衛力を抜本的に強化する」などと述べたという。では、「抜本的に強化する」という日本の「防衛力」の現状はどうか。

軍事分析会社グローバル・ファイヤーパワー(GFP)の算定した「2022年軍事力ランキング」によれば、日本は堂々の世界第5位である。2020年に初の5強入りをした日本だが、その上にいるのは米国、ロシア、中国、インドといった不動の軍事大国ばかりで、フランス(7位)、英国(8位)、イタリア(11位)、ドイツ(16位)などの欧州主要国よりも強大な軍事力をもつに至った。お隣の韓国は日本に次ぐ6位で、日本が「ミサイル危機」を煽る北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)はぐっと下がって30位。2年前の25位よりランクを落としている。

「北」にしてみれば、軍事超大国に次ぐ5位と6位が眼前にいて、おまけに目の前の海(朝鮮半島南側の海域)で日米韓や米韓が軍事訓練を大々的に展開するのだから、日本よりも「危機意識」が強いのかもしれない。だとしてもミサイル発射は容認できないが、相対化して見れば、どちらが軍事力強者で、どちらが弱者の側にいるのかは明らかだ。

ちなみに、日本政府は「戦力の不保持」「戦争の放棄」などを定めた日本国憲法9条があるため、自衛隊のことを「戦力ではなく実力」と今でも言い張っているが、そんな詭弁(きべん)が世界で通用しないことは言うまでもない。実際、自衛隊という名の軍隊に匹敵する戦力(軍備と組織)をもつ国は世界を見渡してもそう多くはない。特に海上自衛隊の戦力は「核兵器を使わない」という前提では、空母や原子力潜水艦をもつ英国をしのぐという中国メディアの分析も報じられている。

◆安倍政権以降の防衛費増で初の6兆円超え

日本が強大な軍事力をもつに至ったのは、2012年12月からの第2次安倍政権以降8年連続で過去最高額を更新する「防衛費」という名の軍事費増大が要因だ。2021年度は昨年11月の補正予算を含めると初の6兆円台(6兆1160億円)に乗った。うち2兆円ほどが人件費で、1兆円超が軍備に使われる。

米国から〝爆買い〟するF35戦闘機(AとBの2種)は機体だけで1機113〜131億円で、これを合計147機購入予定だ。関連装備も含めると、合計で6兆6000億円もの莫大な額となる。21年度はこれを6機、666億円で買い付けるという。格差・貧困の拡大や長引くコロナ禍で庶民の暮らしは厳しさを増しているが、軍事費にだけは湯水の如く税金を投入していることに、多くの人は鈍感になりすぎてはいないか。しかも、こうした武器の〝爆買い〟によるローン(後年度負担)残高は当初予算と同規模の5兆6000億円超に膨れ上がっており、憲法第86条で規定する「予算単年度主義」(その年の予算はその年に使い切る)に反した過度の借金体質が常態化している。

◆敵基地攻撃能力の保有

F35戦闘機だけではない。菅政権時代の2020年12月18日には、敵の探知から攻撃まで一貫して高度な能力を有するイージス艦2隻の新造と、敵の射程圏外から攻撃できる「スタンド・オフ・ミサイル」(長距離巡航ミサイル)の国産開発方針を閣議決定した。また、2019年にノルウェーの軍需企業との間で契約を締結した、F35戦闘機に搭載可能な巡航ミサイル買い付け(代理店は伊藤忠アビエーション)の納期は2022年3月であり、購入金額は53億円である。

さらに、2021年度予算には高速滑空弾の研究(229億円)、極超音速誘導弾の研究(93億円)、敵のレーダーを無力化する電子戦機開発(153億円)などが盛り込まれている。岸田首相は2月18日の衆院予算委員会で、「敵基地攻撃能力の保有」について(先制攻撃ではないかとの懸念をもたれることを踏まえ)名称の変更も含めて検討するなどと述べた。しかし、いくら名称を変えようと、上記の武器・兵器の総体は懸念ではなく「敵基地攻撃能力の保有」そのものである。

◆「軍備増強、武器輸出・開発、軍事研究」の3点セット

あらためて言うまでもないが、日本はすでに世界有数の軍事大国である。にもかかわらず、冒頭に紹介したように、岸田首相はこの現状を「抜本的に強化する」のだという。多くの人はもう記憶にないだろうが、安全保障関連法成立の前年(2014年)に「武器輸出三原則」が撤廃され、新たに「防衛装備移転三原則」ができた。これはいわば、日本の軍需産業(商社)の〝成長戦略〟であり、すでにこの間、フィリピンに海上自衛隊の練習機「TC 90」5機が無償譲渡され、英国との武器共同開発が始まり(いずれも2018年)、2020年にはフィリピンへの三菱電機製レーダー輸出契約も締結された。さらに今、海上自衛隊と三菱重工によるインドネシアへの護衛艦輸出〝作戦〟も水面化で進行している。〝死の商人〟という古めかしい言葉が現実になっているのだ。

さらにまた、このような軍備増強と武器輸出を「軍事研究」として下支えするのが、安全保障関連法成立の直後(2015年10月)に発足した防衛装備庁による「安全保障技術研究推進制度」である。つまり、多くの人が知らない間に、戦争遂行のための構造的な取り組み(軍備増強、武器輸出・開発、軍事研究の3点セット)が莫大な税金を投じて進められているのである。このうち「安全保障技術研究推進制度」と大学の軍事研究の現状については稿を改めて紹介したい。

■筆者プロフィール:片岡伸行

2006年『週刊金曜日』入社。総合企画室長、副編集長など歴任。2019年2月に定年退職後、同誌契約記者として取材・執筆。2022年2月以降、フリーに。民医連系月刊誌『いつでも元気』で「神々のルーツ」を長期連載中。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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