<船舶と環境対策>革命的な技術開発待ったなし―燃料電池・原子力・風力…エネルギー源大転換も

山本勝    2022年4月2日(土) 7時30分

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地球環境問題に発する環境汚染物質、温室効果ガスの排出規制の動きはいよいよ海運の世界に及んできた。

地球環境問題に発する環境汚染物質、温室効果ガス(GHG)の排出規制の動きはいよいよ海運の世界に及んできた。船舶による海洋汚染問題はすでに国際的な対応がなされてきたが、今後の課題は、大気汚染、とりわけ気候変動にかかわるとされるGHGの排出規制であり、長らく化石燃料の生焚きに頼ってきた船舶の革命的な転換は、待ったなしである。

◆貨物単位当たりの燃料消費、断トツに少ないが…

これまで船は、一度に大量の貨物を長距離運ぶのに適していて、飛行機やトラックに比べた貨物単位当たりの燃料消費は断トツに少なく、環境にやさしい輸送手段である、といわれてきた。たしかにその通りだが、いま地球環境保全、温室効果ガス(GHG)削減の大合唱の下、船舶からの排出ガス対策に革命的ともいえる挑戦が求められている。

そもそも、船に由来する環境汚染物質といえば、煙突から排出される大気汚染ガス(NOX、SOX)や地球温暖化ガス(CO2)ほかエアロゾル(PM)があり、海洋に排出される油(事故によるものをふくめて)、船底塗料から溶け出す有害化学物質、バラスト排水にふくまれる外来有害生物などが主なものだ。

◆大型タンカー事故による海洋汚染対策から大気汚染対策へ

船の環境汚染対策は、1960~80年代に相次いだ大型タンカーの油濁事故などをきっかけに船体の構造や設備などハードウエアの改善から始まり、船底塗料、バラスト水による汚染防止のための国際ルールの導入など海洋汚染問題を中心に整えられてきた歴史がある。規制基準の強化など対応は続いているが、包括的な取り組みは一巡したといっていいだろう。

一方、大気汚染物質への対策は、そもそも船舶用の大型エンジンは不純物を多く含む低質油を使用してきたこと、船という構造上の制約やコストの面から汚染物質除去のための装置や機器の設置がむつかしい、ということから遅れ気味であった。

20世紀後半から、地球環境問題への関心が高まり、とりわけ地球温暖化、気候変動問題への国際的対応が喫緊の課題としてクローズアップされるなかで、世界経済の拡大にともなって海上荷動きは毎年平均4%で増大し、外航商船からのCO2排出量は世界全体335億トンの約2.1%を占めるに至る。

私企業である海運が公正にグローバルな競争をおこなうため、環境汚染対策も国際的なルールが必要であるとの認識で、これまでも国際海事機関(IMO)が中心になって協議が行われてきた。排気ガス対策への取り組みは、1980年代からはじまり、大気汚染物質NOX、SOX、PMについては、除去装置(大型で高額だが)の設置や燃料そのものによる改善(低硫黄油の使用や燃料消費の計画的削減)など具体的な対策と目標が決定され実行に移されている。

◆CO2削減目標は2050年までに半減

肝心のCO2削減について2018年IMOはGHG削減戦略を採択、2030年までに排出量40%以上(2008年比)削減、2050年までに半減という目標を設定し、達成に向けた具体的対策について審議をスタートさせた。

各国ではすでにこの困難な目標を念頭に、関連業界を巻き込んだ検討が開始されている。 効率運航や減速航海など海運会社として可能な燃料削減の工夫は当然として、環境負荷が低いLNG(石油に比べてCO2排出2/3、SOXゼロ、NOX1/3)を混焼燃料として使用するなど、独自の取り組みを始めた企業も多い。

しかし、今後の世界経済の成長、海上貿易量の拡大にともなう外航海運からのGHG排出増を見込んだ数字では、2050年排出半減の目標は、実質単位輸送あたり排出量を2008年比80%削減に相当するとされる。

国土交通省は、IMOによる今後の具体的な国際ルールの策定の動きをにらんで「国際海運のゼロエミッションに向けたロードマップ」(IMOの戦略目標には今世紀中できるだけ早い時期にGHG排出ゼロもふくまれる)を作成し、官民一体となったGHG排出ゼロの船の開発とあたらしい燃料供給体制の整備を進める計画だ。

◆燃料電池や原子力、風力などエネルギー源の大転換も

すでに国の予算を使った、水素燃料船やアンモニア燃料船の研究が、海運、造船、工業メーカーなどが参加してスタートしているが、エンジン、燃料タンクなどのハードウエアの技術開発ほか燃料供給システムの構築、安全性や関連ルールの検証など課題は山積みだ。

蒸気船が発明されて以来200年ばかり、燃料は石炭から石油へ変わったものの、化石燃料の生焚きという推進機関のありようは基本的におおきな変化なく現在に至っている。ゼロエミッションの実現には、燃料の選択のみならず、燃料電池や原子力、風力などエネルギー源の大転換も、商船の世界に求められるかもしれない。

GHG排出ゼロの大命題のもと、いま直面する課題は、これまでの技術をブレークスルーする革命的な船舶技術の開発であり、しかも待ったなしである。

■筆者プロフィール:山本勝

1944年静岡市生まれ。東京商船大学航海科卒、日本郵船入社。同社船長を経て2002年(代表)専務取締役。退任後JAMSTEC(海洋研究開発機構)の海洋研究船「みらい」「ちきゅう」の運航に携わる。一般社団法人海洋会の会長を経て現在同相談役。現役時代南極を除く世界各地の海域、水路、港を巡り見聞を広める。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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