<ウクライナ戦争>地域大国トルコ、〝仲介役〟で国際プレゼンス拡大目指す=バランス外交推進

山崎真二    2022年4月9日(土) 6時20分

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ウクライナ戦争が激しさを増す中、トルコがロシアとウクライナの仲介役を買って出たことが世界中の耳目を集めた。その背景には、地域大国としてのバランス外交と中東での影響力拡大という野望があるようだ。

ウクライナ戦争が激しさを増す中、トルコがロシアとウクライナの仲介役を買って出たことが世界中の耳目を集めた。その背景には、地域大国としてのバランス外交と中東での影響力拡大という野望があるようだ。

◆ロシアとウクライナ双方と緊密な関係

トルコがさまざまな面でロシアとウクライナのいずれとも強いつながりがあることは、すでに多くの識者が指摘している通りである。例えば、トルコは天然ガスの約4割をロシアから輸入しているし、トルコの原発開発にはロシアが積極的に協力している。トルコは小麦の約6割をロシアからの輸入に依存する一方、トルコ産の野菜や果物の大口輸出先はロシアだ。トルコの観光業に占めるロシア人旅行者の割合は一位を占める。

一方、トルコはウクライナとも経済・貿易面で関係を強めており、今年2月には自由貿易協定を締結した。農業や観光分野でもウクライナはトルコにとって欠かせない存在になっている。トルコは今、インフレ高騰などで未曾有の経済困難に見舞われており、「ウクライナ戦争が長期化し、ロシアやウクライナとの経済関係に重大な支障が出ることは、経済苦境からの脱出を図るトルコにとって絶対避けねばならないシナリオ」(在イスタンブール貿易商社幹部)との見方は的を得ている。

経済的実利面から、トルコがウクライナ戦争の仲介に乗り出したことは確かだろう。ロシアのウクライナ侵攻直前、トルコのエルドアン大統領が「(ロシアもウクライナも)どちらの国をもあきらめない」と語ったことが、こうした事情を物語る。

◆トルコの微妙な立ち位置

さらに重要なのは、外交面でのトルコの微妙な立ち位置である。トルコの対ロシア関係は複雑だ。シリア内戦をめぐり両国はそれぞれの利害から対立しながらも、内戦終結に向けた和平実現への取り組みでは足並みをそろえた。エルドアン大統領は2014年のロシアによるクリミア半島併合に対し、同半島にトルコ系住民が居住していることもあって強く反発した。その一方、トルコは北大西洋条約機構(NATO)加盟国でありながら、ロシアから地対空ミサイル「S400」を導入、米国はじめNATO諸国の反発を招いた。

このようなトルコの外交姿勢に関し中東問題専門家の間では「ロシアと米国との間でバランスを取りながら、地域大国として発言力の強化を図るのがエルドアン大統領の胸の内」(米CNNの中東問題コメンテーター)といった見方が有力である。ロシアのウクライナ侵攻を非難しながらも、欧米各国の対露制裁には加わらず、ウクライナに対してはドローン供与など軍事支援を行い、NATO寄りの行動を取るトルコのやり方はこの見方を裏付ける。

◆中東パワーゲーム参入の意図も

中東の大使を務めた日本の元外交官は「トルコは国際社会での存在感を高めることによって、中東地域での影響力拡大も画策している」と分析する。実際、エルドアン大統領はロシアのウクライナ侵攻後の3月初め、イスラエルのヘルツォグ大統領を首都アンカラに招き、首脳会談を行った。イスラエル大統領のトルコ訪問は15年ぶり。トルコがパレスチナ問題などをめぐって対立していたイスラエルとの関係改善に本格的に動きだしたのは確実。トルコは長年対立してきたエジプトやアラブ首長国連邦(UAE)とも関係改善を急ぐ構えだ。

◆サウジ、イランと並ぶ重要ファクターに

このトルコの動きは、イスラエルが2020年後半、UAEやバーレーンなどアラブ諸国と国交を樹立するなど、中東情勢が急激に変化していることと密接な関係がある。イスラエルとアラブ諸国の接近の背景にはイランの脅威があるのは間違いない。イスラム教シーア派のイランはスンニ派のサウジアラビアと中東の盟主争いを演じてきたが、最近ではサウジは押され気味。サウジと同じスンニ派のトルコが以前から中東での影響力拡大を狙っているのは中東関係者の間ではよく知られた話だ。「トルコがウクライナ戦争の仲介をテコに国際的プレゼンスを拡大し、中東地域でサウジ、イランと並んでパワーゲームの一角に加わる野望を抱くのは当然」(前述の元外交官)という見方は説得力がある。トルコ外交は国際情勢の流れを占う上で重要なファクターになりそうだ。

■筆者プロフィール:山崎真二

山形大客員教授(元教授)、時事総合研究所客員研究員、元時事通信社外信部長、リマ(ペルー)特派員、ニューデリー支局長、ニューヨーク支局長。

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