山西省大同にあり1500年の歴史を持つ雲岡石窟には、かつての中国内外の文化交流がどのように反映されているのか。また、現代にあってはどのように文化交流の懸け橋になっているのか。仏教考古学などを専攻する雲崗研究院の杭侃院長はこのほど、中国メディアの中国新聞社の取材に応じて過去から現在に至る雲崗石窟と文化交流の関連を解説した。以下は杭院長の言葉に若干の説明内容を追加するなどで再構成したものだ。

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■団結を維持するために仏教を重視した鮮卑・拓跋氏の支配層

紀元前3世紀ごろから中国北部の広い地域を支配した北方民族の鮮卑の一派だった拓跋氏は、398年に平城（現・山西省大同）に遷都した。当時の中国は五胡十六国と呼ばれる時代で、南部では東晋が命脈を保っていたが北部は分裂状態で、さまざまな民族が入れ替わり勃興し、各地で建国しては短期間で滅びることを繰り返していた。この混乱局面を収束させたのが、拓跋氏が建てた北魏だった。

中国北部を統一した北魏は、南部の東晋に戦いを挑んだが、大きな問題があった。北魏軍は中国北部に存在したさまざまな民族の部隊の集合体だったからだ。戦争ではどうしても、敵と直接に激突する部隊と、「念のための陣固め」を担う部隊が出て来る。それぞれの部隊の危険度は違う。いずれの民族の部隊の消耗が大きくなっても、「不公平だ」といった不平不満が出かねない。そうなれば、北魏としての統一に悪影響が発生する。

北魏の支配者が、国を安定させるための共通の価値観の源泉として見出したのが仏教だった。拓跋氏が属する鮮卑が民族として成立した地は、現在の黒竜江省最北部の大興安嶺だった。拓跋氏は南下の過程で仏教に出会った。

仏教では最終的な悟りを開いた者を如来と呼ぶが、北魏では「皇帝とはすなわち如来。如来たる皇帝が弟子である民を導く」と考えられるようになった。

■拓跋氏が南下して造営した都に、シルクロード文化が大量に入る

拓跋氏は早い時期には、東西交流のシルクロードから離れた地で勢力を伸ばしたが、南下して平城に都をおいたことで、シルクロードと直接かかわることになった。平城の跡地である山西省大同では外国由来の品が多く出土している。文献にも外国人が多く平城にいたことが記されている。例えば、中央アジアに分布した大月氏と呼ばれた民族に属する人が、平城で「五色のガラス」を製造していたなどだ。大月氏の系統については諸説あるが、イラン系とする説が有力だ。

1930年代から40年代にかけて、北京を拠点に中国各地の伝統建築を研究する中国営造学社という学術団体が活動していた。その中の何人かが1933年9月に雲崗石窟を調査して、後に「雲崗石窟で表現された北魏建築」と題する文章を発表した。同文書は、雲崗の彫刻には「非中国」の要素が多く、ギリシャ古典美術の要素を受け継いでいると指摘した。また、インドの仏教芸術の影響が強いことも判明した。

文章は「雲崗石窟は西域やインドの仏教建築が中国に大規模に入ってきたことの実証だ」と論じた、そして中国建築の基本構造は揺らぐことがなかったが、「装飾模様では中国に大量の新素材と変化、新たな彫刻法がもたらされた。それらは広まり、現在に至っている」と結論づけた。

■多くの外国要人を迎え入れた雲崗石窟、今後もさらに文化交流に貢献

中華人民共和国成立後、多くの外国政府要人が雲崗石窟を見学した。特筆すべきは、1973年9月にフランスのポンピドゥー大統領が周恩来首相に付き添われて雲崗に足を運んだことだ。

ポンピドゥー大統領は、西側諸国の指導者の中で初めて訪中した人物だっただけに、雲崗を訪れたことの意義は大きい。周首相はポンピドゥー大統領に、文化財や旧跡をしっかり保護せねばならないと、繰り返し強調した。周首相はこの雲崗訪問時に、「雲崗石窟を3年間で補修する」と述べた。

中国は1974年から巨額を投じて「緊急補強」「危険除去」「現状保持」「文化財保護」を原則とする主要石窟に対する大規模な応急補強を3年間で完成させた。これが、雲崗関係者が今も口にする「3年補修計画」だ。

2017年にはポンピドゥー大統領の子息であるアラン・ポンピドゥー氏が夫人と共に雲崗石窟を見学した。アラン・ポンピドゥー氏は現地にある周首相記念室も訪れ、壁に掲げられている父親の写真を見て、随行員の一人一人も確認した。

1977年5月にはオランダのベアトリクス女王とクラウス・フォン・アムスベルク王配（女王の配偶者）が雲崗石窟を見学した。2015年10月には、ベアトリクス女王の子息であるオランダのウィレム＝アレクサンダー王とマクシマ・ソレギエタ王妃が3人の王女を従えて雲崗石窟を観光した。

雲崗石窟はそれ以外にも英国、メキシコ、ブータン、タイ、ウルグアイなど多くの国の要人を迎え入れた。多くの外国人が「雲崗石窟は間違いなく、世界最高峰の芸術の一つだ」と称賛し、中国が雲崗石窟を保護していることは、文化面における中国の世界に対する貢献と認めている。雲崗はこれからの新たな歴史的時期において、中国と外国の文化交流にさらに大きな役割を果たすに違いない。（構成 / 如月隼人）